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命を欲する者

「……リム」



声が震える。


口を開くと、彼は眉間みけんしわを寄せた。


バインダーと机が喧嘩けんかする。



「なんですか」



「……その……」



頭が真っ白になる。


いつもこうだ。


怖い。


昔と変わってしまった彼が怖い。


そのまま何も喋らずにいると、リムはズカズカと詰め寄ってきた。


急いで椅子から降りようとして、足がつっかえる。


体を椅子に固定された。



「要件」



バクバクと核が鳴る。


震える唇を噛み締めて、声を出す。



「あの、あれ、本当にするの」



「まだウジウジしてるんですか」



ガンっと椅子を蹴られて、体勢を崩す。



「ヴッ」



視界が揺らぐ。


彼は軽蔑けいべつした目で、部屋を離れた。


痛む体を起こし、壁にゆっくり足を運ぶ。


その前に鍵を締めに扉へ向かった。


ロックしてしまえばリムは入って来れない。


彼が落とした合鍵を拾って、ポケットの奥に押し込んだ。


壁を叩く。


内部から3回、ノック音が聞こえる。


壁に埋め込まれた縦長の四角形を取り外し、立て付けの悪い扉を開けた。


中から少女が姿を現す。


こんな所に誘拐されているというのに、少女は吃驚びっくりするぐらい明るい笑顔を浮かべた。



「お兄ちゃん!」



ほのかちゃん」



固まった筋肉が温かさを取り戻す。


髪を撫でると少女も微笑んだ。


可愛らしいと素直に思う。



「こっちおいで。ケーキあげる」



「わ〜い♪」



ニコッと笑い、床を軽快に蹴った。


薄めのワンピースがひらりと弧を描く。


妖怪の学校とエルフの森の狭間はざまにあるここは、気候的には過ごしやすいか少し肌寒い暗いだろう。


人間はもろいから風邪?という病気を引かないか心配だ。


金色のフォークをグーで掴み、ケーキを刺す。


ほのかは小さな手をほっぺに当て、軟体動物のようにクネクネと動いた。



「お兄ちゃん!美味しい!」



「ふふっ良かった」



心という物が安らぐ気がする。


夢の神様で良かった。


甘いものを食べたことが無いから、再現するのにはかなり苦労した。


彼に嘘をついて、初めて食べた時の感動は今でも忘れられない。


じんわりと頭が痛む。


最近ずっとこうだ。


あの人に出会ってから。


僕は誰かに危害を加えてる。


きっと僾もそう。


頑張って調べては入るが、中々情報が手に入らない。


ピンク色の液体が頬をつたう。



「お兄ちゃん?暑い?」



「ん?どうして?」



「汗は暑い時に流れるんだよ!」



自信満々に話す口には、雪のように白い生クリームが付いている。


机に置いてあるティッシュを1枚とってクシャクシャに。


口をぬぐうと、少女は大きな双眸そうぼうまたたかせた。



「僕は暑さも寒さも感じないから、」



「じゃあなんで?」



説明が難しい。



「お兄ちゃん、ちょっと眠くて欠伸あくびが出ちゃったみたい」



そう言うと僾はこくりと頷き、身長以上の高さがある丸椅子に座った。


落ちないように背中を支える。


さて、ここからは少女と青年の秘密時間シークレットタイムの始まりだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あっ桃ちゃんって野菜好き?」



「人並みには」



実際の所、パセリ以外は食べれる。


彼女は木棚から缶を取りだし、カパッと開けた。


独特な臭いはしない。


砂時計を傾ける。



「久しぶりに見ました」



笑みを押し出す。


エンプティは目をパチパチさせる。



「砂時計?」



「はい。母が好きで、水時計もありました」



真っ赤な嘘。


実際には母は轢死れきしで父には捨てられた。


別に恨んではない。


恨んだところで金になりはしない。


金になるなら、恨むけれど。



「……単刀直入に言うね!」



机が揺れる。


真剣な眼差しが心臓をグサリと刺す。


喉が上下する。



「君とそうくんは、探偵かなにかなんだよね?」



あながちハズレでは無い。


砂時計が落ちる。


長く伸びた髪が、1束、頬をつたう。


いい匂いが鼻をくすぐった。



「どうしてそう思ったんですか?」



被害者面を浮かべる。


騙し合いは冷静差を欠けたら詰みだ。


彼女は身を固くする。



「何となく」



「何となくで疑うんですか」



「……その……血色が綺麗な赤色だったから」



息が止まる。


嘘をついているようには見えない。


手を机に置く。



「これは……ヴァンパイアによくあるやまいなんだけどね」



言いづらそうに。


足を動かす音が聞こえる。


紅茶を1口含んでから、飲み干すまで、静寂が僕らを繋ぎ止めていた。


意を決して、口を開く。



「特定の血液……獣人の血液を呑みすぎたら発症するんだけどね。基本的に血を呑みすぎたら、肌が真っ赤になっちゃうんだけど……」



昔アイツから聞いたことがある。


所々空白になった記憶の海から探し出す。



赤目レッドアイ



エンプティは眉をつりあげた。


ゆっくりと下を向いた顔を戻す。



「どんなだっけ」



「人間で言う充血に近いかな。ただ……そうなっちゃうと特徴を認識出来なくなっちゃうんだよ」



「と、言うと」



「あらゆる血管しか見えなくなるから……つまり人型の血管が話しかけてきてる感じ」



なんとも凄い。


しかしまぁ。



「どうして私にそれを?」



他にも言いがかりでも何でもつけた方が楽だろう。


エンプティはセインみたいなタイプには思えない。


グッと手を握りしめる。



「桃ちゃんと炒くんとひのきくんとボス。それから、ブラッド内のヴァンパイア以外は血が青いんだ」



「病気とかではなくて?」



黙って頷く。


妙な話だ。


紅茶から溢れる煙は次第に姿を消す。



「ブラッドは〝アルバート〟様によって作られた中規模捜査班?みたいな感じで……加入したら薬を投与されるんだ。どんな薬かまでは分からないけど」



名を理解した瞬間、はらわたが煮えくり返る思いが視界を狭める。



「一体誰を?」



彼女は何かを思い出すように、考え始めた。


次に目を開いた時、久しぶりに出会ったセインが脳裏に浮かんだ。



「確か〝リュウ〟だっけ……ごめんね。うろ覚えで」



何となく。


自意識過剰かもしれないけれど。


名前には聞き覚えがあった。


昔の。


すおーが考えてくれた名前。


もしあっているなら。


アイツは僕らを連れ戻そうとしている。


気持ち悪い。



「なるほど……それで……どうして私にそれを?」



2度目の質問。


彼女は1番優しい笑みを浮かべた。



「うらは……もうすぐ太陽の下に出られるようになるかもしれない。」



ヴァンパイア特有の遺言。



「何か伝えるならスーイサイドさんの方が」

「駄目」



速攻で否定されてしまった。



「あの子は……駄目なの。巻き込んじゃっ」



宝石のような雫が流れる。


声が震えていた。


僕はまだ彼女が何に怖がって、何の罪を犯したか知らない。


違う世界のように。


次のステップに行けるまで、何度でも戻れたらいいとちょっとだけ思った。



「巻き込めばいいじゃないですか。誰かに襲われそうだから、助けて欲しいって」



「それが言えたらっ」

「苦労しない……ですか」



椅子から立ち上がる。


不安そうなエンプティを置いて。


体ごと振り返る。



「仲間がいる意味をお忘れなく」



随分と格好つけたセリフを吐いた気がする。


扉を開けた。


さてと。


やる事が多くなってきたなぁ。

棗は冷静になると怖いです。だけどセインに比べたら全くマシです。あいつやべぇ。


良ければ評価やコメント、ブクマをお願いしますm(_ _)m


【おまけ】

『楽しくお茶会をする桃ちゃんとエンプティ』


「これ、美味しいですね」


「でしょでしょ〜。洞窟内で一番のお菓子屋で買ったんだ」


「特に人参が美味しいですね」


「うらはトマトです」


「そういえばヴァンパイアって、血の代わりにトマトジュースを飲むって聞いたことがあるんですけど」


「えっどこの噂!?」


「たまに本に書いてあります」


「ん〜……ハーフならありえるかもだけど……成分が全く違うから栄養にはならないかな」


「百聞は一見にしかずですね」


「?何それ」


「鬼の言葉で100度に渡り耳で聞くよりも、1度でもいいから目で確かめる事ですね」


「でも今のは見たんじゃなくて、聞いてない?」


「そうですね……ふふっ」

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