お触り禁止
「プリヴェント」
「リバティ。毛先絡まってますね」
「研いて」
「はい」
まるで生きているみたいに物を言い、思考する。
けれど睡眠や食事をしない。
木製操人形。
命令をすればなんでも動く。
まるでフールみたい。
「何をしたらこんなに絡まるんですか」
「寝ていただけだよ」
ぶっきらぼうに言い放つ。
ここにいる奴らはネーミングセンスがない。
不穏な言葉をつける。
確かエルフ語だっけか。
まぁそうは言っても我も同等だけれども。
手の甲は噛み跡だらけである。
にしても最近入った新人。
ここに近づくなと教えられはしなかったのだろうか。
ノック音が鳴る。
「リバティ」
「誰」
それには答えずに扉が開かれる。
「昨日ぶりです」
ニコッと炒は笑う。
「何か?」
ゆっくりと近づいてくる。
思わず近くに合った櫛を投げつけた。
それをパンっと音を立て、開かれる。
「いきなりだね」
「それ以上近づくな」
「分かったよ」
薄く微笑む。
男と言うより女みたいだ。
「要件はなんだ」
「君と仲良くなろうと思ってさ」
「ふざけてるのか」
知りうる語彙で表現するならば、嫌悪だろうか。
プリヴェントは気にはしつつも、髪を研ぐ手を止めない。
「にしても……美人だよね」
「…………」
皮膚に爪をつきたてる。
力を入れながら、引っ掻くせいで血が滲んだ。
「リバティ!!手当を」
「いらない」
「でもっ」
「執拗い」
嫌なことを思い出してしまった。
多くの人型は我の顔が綺麗だ、羨ましいと言う。
けどそれは住む世界が違えば地獄である。
痛い。
痛いいたいイタいイタイイ体遺体。
首を絞められたように苦しくなる。
呼吸が引き攣った。
イライラする。
思考がぐちゃぐちゃだ。
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遠い昔。
思い出すと吐きそう。
「こんにちはみーちゃん。きょうはいっしょにおかいものにでかけない?…いいよ、いっしょにいこう」
着物を着た人形の背を掴み、1人で喋る。
友達なんて者はいなかった。
どれだけ欲しいと懇願してもダメだと突っぱねられる。
自分は村の犠牲になるために生まれきたと言っても過言じゃない。
生贄は村1番の美形が捧げられる。
顔に傷が着くと生贄としての価値が無くなってしまう。
生贄は村1番の美形で無くてはならない。
言わば人形のようなものだ。
「圞様」
衣擦れの音が聞こえる。
手に持っていた人形を投げつけた。
「お坊ちゃ」
「よるなっ!!!!」
線が音を立て、プツリと切れる。
村の犠牲になった鬼を見たことがあった。
その鬼は両腕がボロボロだった。
傷がある部分だけ切断され顔以外を火であぶられる。
その体は後に村で食われるらしい。
頭もいずれ腐り果てるだけ。
そんなのは嫌だ。
何が何でも嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
顔に傷をつければ。
そう考えてやろうとした。
けど怖かった。
頭に体が追いつかない。
命がある物が怖い。
触られるなんて論外。
近づかれるだなんて、密室殺人と等しい。
喋るのだって吐き気を催す。
もう全てを拒絶出来たらいいのにと、そればっかり考えてしまって。
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「出ていけ」
「断ると言っ」
「出てけ!!!!!」
「…分かったよ。じゃあまたね」
手をひらひらとさせて出て行く。
生命体なんか消えればいいのに。
『そうだよねぇ』
!!!!
脳が鷲掴みにされたように気分が悪い。
「誰だっ!?」
「リバティ?」
固まった息を落とす。
人形は目を見開き、自身の額を我の額に当てた。
熱があると思ったのだろう。
自分でもそう思った。
「熱くはないですね。一応体温計持ってきます」
細い手足を忙しなく動かし、外に出ていった。
『凄く精巧な人形だね』
「質問に答えろっ!!」
声に熱がこもる。
掌を握りしめ過ぎて、筋肉痛になりそうだ。
『誰かと問われれば…僕は誰なんだろう?後、声に出さなくても、脳内で喋ってくれて構わないよ』
「…………話しかけてくるな」
耳を塞ぐ。
『君の過去は悲惨だねぇ……可哀想』
「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!!!!!」
この部屋から出たい。
出たいけど出るのが怖い。
息が苦しい。
呼吸が荒くなる。
汗が止まらない。
涙がボロボロと溢れてくる。
「大丈夫。大丈夫。ゆっくり。吸った息をゆっくり吐き出して」
「ひっあ‘’ぁっ」
引き攣った声。
服の胸元を強く掴む。
背中をさすられている感じがする。
2年前に目が覚めなくなってしまったオヴサーブを思い出した。
彼女もこんな風に安心させてくれる。
ゆっくり安定する呼吸に安堵しながら、しゃがみ込んだ体を起こさせた。
目の前には見知らぬ人型。
漆黒の髪をカールをしたツインテールに重たい前髪。
ゴシックロリータを基調とした服装やアクセサリーは、まるで異国の人形のよう。
高いヒールを鳴らしながら、歩み寄る。
「圞さんに手伝って欲しいことがあるんだ。ダメかな?」
どこを見ているの分からない。
けれど、さっきの人間よりかは嫌悪感が幾分か少ない。
「……我の……友人に手を出さないなら」
「ふふっ、ありがとう。取り敢えず、今日はお暇するよ」
ニコニコと笑うが、非常に無機質である。
昔持っていた着物を着た人形とよく似ていた。
「言っておくが、まだ貴様を信用はしていないからな、これはさっきの借りを返すだけだ」
「うん。分かってるよ♪」
それだけ言って名も分からぬ人型は、姿形を消した。
……どこから入って来たんだ?
部屋から入ってきたら分かるし……それ以外の通路は無いし。
「リバティ!!!」
「プリヴェント」
彼女は酷く焦った様子で、けれど扉を閉めることは忘れない。
「どうしてずっと扉を閉めていたのですか!?」
「えっどうゆう」
「そーだよー。リバティさん?だよね。さっきぶりだけど」
様子を伺うように、そーっと彼は覗き込む。
嫌ではあるが、事情を聞き出すために部屋に入れた。
2m以上離れた距離でだが。
にしても……我は1度も扉に近づいてはいない。
そんな暇すらなかった。
「プリヴェント。状況説明を頼めるか?」
上がっていた肩を更に上がらせる。
「リバティが急に叫んだので、熱があるのかと思い体温計を取りに行っていました。帰って扉を開けようとしたら何故か開かなくって、誰かを呼びに行こうとしたら焔さんが居たので、急いで……」
ここまで息をとぎらさずに、喋ることが出来るのはやっぱり他の種族とは違うのだろう。
「リバティ?やはり何かありましたか?」
「なんでもない」
いつものようにぶっきらぼうに言い放った。
重い。なんか凄く重たい気がする。とても報われて欲しい。
良ければ評価やブクマ、コメントを下さると嬉しいです。
【おまけ】
『リバティと一緒に遊ぶプリヴェントと炒』
「リバティ!これして遊びたい!」
「…………ボードゲーム」
「やりたい!」
「いいよ」
「にしても、俺も良かったの?」
「…………必要以上近寄るな。言っとくが人数合わせのためだからな」
「つれないねぇ」
「そんなことより早く早く!」
「分かった分かった……」
「じゃあ俺はこのピンクで」
「プリヴェントは赤!」
「じゃあ青」
「いくぞ〜最初は〜パー」
「えっ」
「はっ」
「俺の勝ち〜。ってことで俺から」
「ちょっと待てちょっと待て」
「いっ今のは理不尽ですよ!」
「いやぁ人間界では常識ですよ?」
「そんな常識聞いたことないぞ」
「うんうん!」
「そりゃそうでしょ。だって今そうしたんだもん」
「嘘かよ!」
「嘘だったんですか!」
「あはは」




