いつもの
僕はセインにみっちりと魔術を教え込まれていた。
違うそうじゃない、基本がなってないなど文句を言われつつ、淡々とこなしていっているはず。
「いいかい?魔術はほとんどイメージの世界だ。これは基本中の基本だ」
「分かってるってば。……じゃあさ、この〝耳が良くなる〟とかはどうイメージすれば言い訳!?」
語気が荒くなる。
僕が言うと、セインは人差し指を棗の額に触れた。
そのまま、どこからともなく分厚い魔術書が現れ、呪文を口にする。
「ダスホワン」
ーキーンッ
「うわっ!?」
今までは聞こえてこなかった心臓の動きや、水が循環する音が、気持ち悪いぐらいにはっきり聞こえた。
「今どんな感じ?」
「とってもきぶんがわるいです」
「まぁ初めてだし、徐々に慣れてね?」
「えぇ……」
そう言ってセインは部屋から出ていった。
困惑の表情を浮かべながら、魔術書に目をやる。
ほとんど文字ばかりで、つまらない本だ。
どうでもいいが、僕にはこれといった特技がない。
強いて言えば〝そこに居ないもの〟になることは出来る……。
まぁ、スリ以外役に立たないが。
よし。
飽きたから他のことをしよう。
寝そべっていた冷たい床から背を離す。
冷蔵庫から水が入ったペットボトルを取り出し、扉を開け、階段を降りた。
ここは4階まであり、1階はフリールームで2階は仕事場。
3階と4階は繋がっていて、リビングや個部屋など、いわゆるシェアハウス的な感じだ。
木製の扉を押すと、中は蒸し暑かった。
夏に入りかけの季節だ。
クーラーをつけて、早速準備を始めた。
ピックを手に持ち軽く音を鳴らす。
「ーーーー♪ー♪!!ーーー♬︎」
調整も狂わず、いい音だ。
取り敢えず適当に曲でも作るか。
「ーー♪ーーーーー♪♪♬〜〜〜♬」
「ーーー♪ーーー♩♩♩!!!」
この時の僕は楽器の音以外聞こえていなかった。
ただひたすらに引き続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
約3分後に音は止んだ。
拍手の音が耳に入る。
はっと顔を上げると、そこにはセインとフレアの姿があった。
「やっぱり棗の作る曲好きだなぁ〜」
「……そこだけは認める。」
そんな不服そうに言わなくても。
「はいはいどーもー……ってか何でここにいるんだよ」
「だって棗がどっか行くってフレアが言うからさ」
「セイン様はお前の〝曲〟が好きだからな」
「ほんと、君らはいつになったら仲良くなるんだろうなぁ……あまり頻繁過ぎると、口を縫いつけちゃうぞ〜」
指で口元をなぞりながら、にぃっと笑う。
「また聴かせてね」
そう言って2人は部屋から出て行く。
今日はそれ以上弾く気にもなれずに、事務所まで戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれ?もうお終い?」
ほぼ時差で帰ってきた僕を凝視しながら、セインはパソコンをカタカタと動かしていた。
これでも文章がハッキリしているのが気持ち悪い感じだ。
さっきから目の端にチラチラ映るフレアが気になる。
妖怪の学校では念の為、装いは妖怪になる必要があった。
たまに部外者を襲う事件があるらしく、それを防ぐためだ。
まぁ事前に始末すればいいだけなんだが。
駆除依頼が出ていない以上、僕らが干渉していい問題でもない。
そういえば2人はなんの妖怪になるんだろうか?
「なぁ、お前らは何になるわけ?」
「ん〜……まだ考え中なんだよね……あっ、耳貸して」
腕をグイッと引っ張られ、耳に息がかかる。
「冗談でさ……フレアに座敷わらしとかどうって言ったんだよ。そしたらやり始めちゃって…………いける?」
「…………突然変異個体だろ」
180cmのガタイのいい体格に、おかっぱの頭。
もはやウケ狙いじゃないなら、なんだと言うのだ。
「だよね。まっ流石に止めさせるけどさ。去年ぐらいに確か……妖怪をあんな感じに馬鹿にしちゃって殺人事件になっちゃったんだよね……いやぁ酷かった酷かった」
オーバーリアクション並にうんうんと首を動かす。
たまにふざけてボロっと首を落とすから、心臓に悪い。
血は出ないからグロさは半減されるが。
これだからイタズラ好きのリーダーは困る。
にしても180cmの妖怪……。
狼男とか似合いそうだけど、どうだろうか。
もはやただのコスプレでもいいのか?
「流石にこれはまずいか」
唐突に腹立つ声が聞こえる。
完成したのかと目を向けると、口の中の唾液を飛ばしてしまった。
「あっはははははは!!!!!!!まて…ふふっちょっははは!!!」
腹がよじれるぐらいに笑いが止まらない。
「ん〜……体格の良さが裏目に出ちゃったか」
セインは困ったように言うが、肩が震えている。
「じゃあ、何が似合うと思いますか?セイン様」
「相変わらず君は近いよ。定番は狼男じゃない?耳と尻尾つけたらいいし。最悪なくてもいいのかも?」
「んなコスプレみたいなやつでいい訳?」
「大丈夫大丈夫。…………多分」
「信用出来なっ」
何故コイツらは自信満々に話すのか。
そして長い沈黙の後、不安になることを言うのか。
まぁいいや。
「僕も自分のやつ考えないとなぁ……」
「私はどうしようか」
「セイン様はキョンシーとかいかがですか!?」
食い気味にフレアが言った。
セインがあからさまに目を逸らす。
「………………それはフレアの趣味と捉えて問題はなさそうだね」
声のトーンは冷えきっていた。
だが、当の本人はニコニコと嬉しそうだ。
コイツMなのか?
明らかSな見た目してんのに。
いや、セインだけか。
ポケットからスマホを取り出し、検索ボックスに〝妖怪〟と打ち込んだ。
正直なんでもいいが、自分で決めないと明らかネタ枠をやらされるので仕方が無い。
ちなみに去年のハロウィンでは、妙に凝ったぬらりひょんのコスプレをさせられた。
頭を粘土っぽいやつで作ったから、首が取れるんじゃないかとずっと舌を向いてたな。
あっそうだ。
丁度試したい魔術もあったし、いい具合になりそう。
だが、デコ出しが似合うのかが問題だ。
姿見の前でやってみたが、絶妙になんとも言えなかった。
似合ってそうで、似合ってない。
まぁそこは不服だが、フレアにでも聞いてみるか。
認めたくはないがセンスはいいのだ。
認めたくないが。
「じゃあ依頼の日が来るまでに魔術と魔法の勉強がんばろーね」
「もちろんです」
「ご褒美くれるなら、全然やるんだけどなぁ〜」
そう言ってまた、いつもの感じで依頼の日まで過ごした。
最近暑すぎて外に出る気が失せてしまいます……
良かったら評価やブックマークお願い致しますm(_ _)m
【小ネタ】
棗は元々、ふぇぇ〜系の子にしようと思ってました。
が、暇な時にキャラデザを描いていたら、明らかに毒吐いてそうな見た目になったので ひねくれてます。




