糖分沢山
カキーンっと鋭い音が耳に入る。
少しジメジメとした空気が肌にまとわりついて鬱陶しい。
バットをくるくる回しながら、見事に10回連続ホームランを決めている神を見つつ、僕は自販機で買えるアイスを食べていた。
葡萄の甘さが口の中に広がる。
相変わらずのエルフは片手で高級そうなカメラを構えていた。
僕らは大体依頼が終わると、1日目は休み。
2日目から依頼が入っていなければ、こうしてスポーツを嗜んだり、スイーツを食べたり、よく知らないライブを見に行ったりとまぁ振り回されている。
ある意味依頼中が休みみたいなものだ。
「なぁ新しい依頼ないわけ?」
「あるけど、そんなに急ピッチで仕上げなくてもいいやつばっかりだし……あっそうだ」
セインは何かを思い出したように、スマートフォンで電話をかけ始めた。
ってかなんでスピーカーで話してんだよ。
今は僕ら以外いないからいいっちゃいいんだけれども。
3回目のコールで繋がり、可愛い声が聞こえた。
「あっもしもし。お久しぶりです!レイラさん」
「おひさ〜。今ね、依頼無いから遊びに行きたいんだけどダメかな?」
「えっいいんですか!?実は今メンバーが足りない競技があって困っていたんです!助かります!」
くぐもった猫の鳴き声が聞こえる。
「あぁそういえば今は体育祭の時期だっけそっちは。いいねぇ青春だね」
「青春ですか……どうでしょう?」
「あっははは。まぁいいや、じゃあまたメールで〜」
はっはっはと軽く笑いながら、淡々と話が進んでいく。
すっかり口の中が冷たくなった。
電話が切れる音が鳴り、会話が終了する。
不服そうな表情を作りながら、口を開く。
「で、それは金が発生しない依頼だと……」
「お前は口を開けば金ばっかりだな」
「悪いか?」
「セイン様の前では慎め」
「お前だって口を開けばセインばっかりだろ!」
「可愛らしいのだから仕方ないだろ」
フレアのあつ〜い眼差しがセインに向けられる。
静かに明るい声が辺りを制した。
「2人とも挽肉にしちゃうぞ☆」
おっとこれは笑えない冗談だ。
依然、フレアと喧嘩した時に「氷漬けにしちゃうぞ☆」と言われ、「やれるもんなら、やってみろ」と言った所、凍死寸前まで氷漬けにされた記憶がある。
後、1回骨も折られたし。
確か……大分昔にセインと大喧嘩したことがあるような…………。
何で喧嘩したっけな。
僕は昔の記憶が、煙がかかったみたいに思い出せない。
興味が無いから忘れたのか、記憶喪失?なのか。
頬が痛む。
意識を戻すとフレアがちぎれるんじゃないかと言うぐらいに僕の頬をつねっていた。
「いたひんだけど」
そう言うとフレアは更に力を強めた。
この馬鹿。
そしてセインが回りくどい表現をする。
「てっきり何かに憑かれちゃったのかと。棗はたまに溶けたアイスみたいになるよね」
自信満々に言っているが、意味が分からない。
いつもは肯定ばかりするフレアが珍しく、否定する。
「セイン様の例えって分かりにくいですよね」
「そうだそうだー」
「えっ嘘!?めっちゃ分かりやすいと思ってたのに」
圧倒的棒読みで参戦する。
セインが頬を膨らませた。
フレアがニヤニヤしているのは見なかったことにしよう。
そういえば電話の内容を、聞き忘れていた。
「で、次はどこに行くんだ?」
「あの声から考えるに……椛さんでしょうか?」
「そうそう。3年前の依頼の子だね。流石は私の助手」
僕がここに来る前に関わりがあった人だろうか。
名前から考えるに……人間か妖怪……あとはなんだっけな。
顎に手を当て、考えてみる。
「ん〜。どっちだっけな」
「何が?」
つい口に出てしまっていた。
「いや、人間か妖怪かはたまた別物かどっちだろうなぁと思いましてね」
「棗ってたまに敬語になるよね〜。あと、今回は妖怪の方だね」
ってことはまた西にいくのか。
「そっか。にしてもさぁ……何デも屋って作ってから3年経ったくせに僕以外勧誘してないじゃん」
勧誘かどうかは審議待ちだが。
おもむろにスマホを取り出し、事務所のホームページを調べる。
条件の欄に目を通す。
【応募条件】
・他種族の言語を全て喋れる方
・全ての試験をクリアしている方
何だこれ。
ちなみに僕は今の所、人間、神、エルフ、妖怪、ヴァンパイア、虫の言語はフレアのおかげでペラペラに喋れる。
勉強は昔からゾーンに入るとサクサク出来るから、ある意味自分の性格に助かりつつある。
まぁゾーンに入るまでが長いんだけど。
ってか全種族言語だからあとサキュバス、鬼、幽霊、獣人……先に寿命が尽きるんじゃないか?
んでもって試験って言ったら、これまた膨大な数になる。
短命種はもれなく無理だろうな。
首をポリポリと掻きながら、スマホの電源を切った。
「まぁ彼女を勧誘する為だけに作ったホームページだからな」
見透かしたかのように、鼻を鳴らす。
「しかしさぁ……今日のフレアは随分、私を玩具にしたいようだね」
「そうでしょうか?」
「そうだよ……明日1日接近禁止だ。」
「そんな!!無理です死にます!」
「知るか。さて、一応今回も仕事だ。私は先に帰るが……2人はどうする?」
「帰ります」
「まだやり残してるセーブデータあるから帰る」
「分かった。じゃあケーキかなにか買ってから帰ろう」
背筋がぞわぞわする。
普段のセインはどこにでも居そうな、無邪気な子供のようだ。
年上には見えない。
が、仕事になるとあのトウモロコシみたいに性格が変わる。
神って全員こうなのだろうか。
この世界では神は滅多に会えない。
まぁ神はほとんど人間に擬態しているから、パッと見判断がつかないだけで実際は多くいそうだけど。
「どこのケーキ買うんだ?」
「私のオススメの場所だよ」
けらけらと笑う彼は楽しそうだ。
不意にすおーを思い出す。
ここにあいつがいたらどうなっていたんだろうか。
叱るだろうか。
笑うだろうか。
朝起きたら忽然と姿を消していた親友。
手紙には解読不能な文字が書かれていた。
なにかの言語か、はたまた造語か。
別に捕まりたくないからここに入ったんじゃない。
1番大切な目的を忘れてはいけない。
僕は。
親友を探すためにここに入ったんだ。
いつ帰ってきたか分からない事務所のソファに座りながら、モンブランを口の中に入れる。
さっき食べた葡萄の甘さと、栗の甘さが口の中で混ざりあった。
新章をどこにするか迷いに迷ってしまいました。
良ければ評価やコメント、ブックマークをして頂ければ幸いです(*^^*)
【おまけ】
〝けん玉をして遊ぶウドとエリンギ〟
「エリンギってさ、けん玉ヘッタクソだね」
「うるさいなぁ……あっ」
「それで落とすの60回目だよ」
「そんなに落としてない!」
「いや落としてるし……暴論だよ」
「まってろ!今、成功するから!」
ーカンッ
「また失敗だね」
「もう止めた!アイスクリーム食べる」
「チョコミント?」
「そうだよ。ウドもいる?」
「流石にタッパーではいらない」




