山あり谷あり怪我あり ◤◢
エリンギ視点
地面に足をつき、素早く後ろに下がると、プレイング・マンティスの首ら辺から煙がもくもくと出ていく。
大きな雄叫びが上がり、煙が無くなるが、その身体は傷1つ ついていない。
棗くんの切れた髪の毛が、宙を舞う。
「なにこれ!?ぜんっぜん倒せないじゃん!」
「やったことないの?」
「ないわっ!!!」
攻撃を交わしながら、言葉を紡ぐのは中々にしんどい。
「どうやったら倒せんの!?」
「弱点を同時攻撃っ!」
「面倒くさいですね」
「フレアくんは腹をお願い!」
「分かりました」
手首まである黒い手袋を、口で引っ張った後、杖を持ち直す。
カッコイイ!
「棗くんはとりあえず頭!」
「とりあえずなの!?」
声こそ驚いていたが、顔では「分かってますよ」みたいな感じだった。
カッコイイ!!
羽を動かし、プレイング・マンティスの目線まで上がる。
大きな鎌がボクに向かって振り落とされた。
しかしこれは想定内だ。
振り落とされる斬撃を淡々と交わしながら、服のポケットに手を突っ込む。
中から掌サイズぐらいの小瓶をプレイング・マンティスの口へ放り込んだ。
「エリンギさん!」
「うわっと!?」
衝撃が走り、体が地面へと叩きつけられた。
「アガッ」
咄嗟に受身を取ったおかげで、そこそこ痛む程度で済んだ。
棗くんがこちらに駆け寄ってくる。
「治癒魔術かけるか?」
「あ〜……痛みだけ直して欲しいかも」
「……りょーかい」
棗くんが全く分からない言語で、呪文を唱える。
表面上のかすり傷は治っていないが、体の痛みは治まった。
「ありがとう、倒したらなんかあげるよ」
「なんかってなんだよ」
空気に合わない会話をしながら、プレイング・マンティスの方を見つめた。
両目を掌で覆っており、ストレスが溜まりそうな雄叫びが耳に入る。
「ヴッヴアアァァァアァァァアアアア!!!!!」
「2人とも!一旦下がって!!」
ボクが指示を出すと、意外にも2人は後ろに下がった。
棗くんは両手を目の周りで丸にしながら、ボクの脇腹を足でつつく。
「多分目が溶けてる……エリンギ何したんだよ」
呆れたような口調には、どこか好奇心が入り交じっていた。
「ボクが作った薬。効き目は凄いよ」
「……見たら分かる」
フレアくんはさっきから手で口元を押さえている。
「どうかした?」
そう問うと、肩がビクッとなる。
「いや……なんだか悪寒がしてな」
「幽霊でもいるんじゃないの〜?」
9割冗談、1割本当で言ってみた瞬間、2人の動きが止まる。
そして何故か微妙な顔になった。
「まぁライならやりかねないけども……」
「いやでも、今はセイン様と一緒にいるから、ないだろ」
「それもそうか」
「えっ……幽霊いるの!?」
思わず食い気味にフレアくんに掴みかかった。
その時。
体が変な方向に曲がった。
宙に浮く。
内蔵が逆になったみたいに気分が悪い。
口から赤い液体が飛び出す。
「エリンギ!!!!」
ロッシーの声が頭に入る。
酷く焦った声だった。
プレイング・マンティスと目が合う。
口角が不自然な位に上がっている。
「御///絵△◀◁時似死○○琉」
何を言っているのか分からない。
手が伸ばされ、先端から細長い触手が出てくる。
触手は薔薇の棘みたいに尖っていた。
腕と脚が拘束され、身動きが取れない。
早く体制を立て直さないといけないのに。
触手のせいか力が入らない。
確か……神経系の毒だった気がするなぁ……。
「リン!」
シュンが呼んでくれてる。
逃げないと。
駄目なのに。
口から大量の血液が溢れ出る。
目もだんだん見えなくなる。
頭が殴られたみたいに痛い。
くぐもった声が聞こえる。
シュンだ。
「リン!!!!今から助けるから!!!!待ってて!!!!」
呼応するように掠れた声で叫んだ。
「ア゛ガイロ!!!」
流石は10年の仲だ。
ウドの手の中に赤い何かが煌めいた。
セインくんは何故かボクに手を伸ばす。
その瞬間、体に力が漲っていく感じがした。
目もだんだんと見えてくる。
これなら……
プレイング・マンティスに向かって、手を伸ばす。
「サングッ!!!」
そう叫ぶと、プレイング・マンティスは体の自由が効かなくなった。
地面が揺れていた先程に比べると、力は無くなったように見える。
寧ろ苦しんでいるようだ。
「リンッ!」
「シュンッ!」
シュンが赤い液体をプレイング・マンティスの口に放り込む。
体に巻きついた棘がちぎれていく。
重力を失わない身体は落下していくが、その手を重力のない身体が繋ぐ。
手に力がこもる。
徐々に落下速度が下がっていき、ふんわりと地面に足がついた。
「シュンありがとう。おかげで倒せたよ」
「リンのおかげでしょ」
「「っははは!」」
どちらからともなく笑いあった。
そういえばあの時……。
体が楽になった。
なんでだろう?
唐突に爆発音が鳴り響く。
気づけば、何デも屋の3人がプレイング・マンティスの同時攻撃を開始していた。
ボクは一呼吸置いてから叫んだ。
「気をつけて!マンティスの体には硫酸が出てるから、多分セインくん以外溶けるよ!!」
「んなヘマしねぇよ!あぁもう!フレア合わせろよ!!」
「お前が合わせろ!」
「タイミング合わせるこっちの身にもなりなさい」
仲がいいのか悪いのか……。
今日は油断しまくりだな。
頭をポリポリとかくと、肩をつんつん突かれる。
「お疲れ様」
「ありがとうロッシー、フライはまだ残ってる?」
「セインが一瞬で片付けちゃったから、もういないよが違うのだろうか」
少しだけ、いや、結構嬉しそうな横顔を見る。
「良かったじゃん。すんなり倒せてさ」
「エリンギ」
声のするほうを振り返ると、そこにはウドがいた。
その声は抑揚のない無機質な声だ。
「休んできたら?」
「は〜い」
ボクは何デも屋の方を見る。
最初は口だけの弱虫かと思ってた。
でも実際はウドとロッシーを混ぜ込んだみたいな性格をしている。
正直あんまり好きじゃないかも。
棗くんと目が合った。
彼はニヤッと笑う。
プレイング・マンティスの頭が吹き飛び、心臓を刺され、腹が切り開かれている。
脱力しきった身体は、血にまみれ、血しぶきを上げながら倒れた。
シュンが口を開く。
「今日は油断しっぱなしだったね〜」
「やっぱり人数多いからかな?」
「これ以上人数増やさないでねリーダー」
「流石に増やさないよ」
乾いた笑い声が耳に入る。
「ロッシ〜もうおれ我慢出来ないよ〜」
ウドが抱きつく。
「最近やってなかったからね……あと少し」
「うぅえ〜」
「やっぱり皆、びっくりしちゃうかな?」
シュンが小首を傾げる。
「棗くんはいい反応しそうだよね」
「おれはあの冷却マシーンが驚いてる姿見たぁい」
「あの子は驚かないですよ」
「え〜」
「久しぶりに見たよ。君のその顔」
急なセインくんの登場にロッシーは肩をびくんとさせた。
「えっわっ!?なに……」
「ひとまず終わったよ。残りは2人に任せて、私たちは鑑賞でもしておくよ」
少し含みのある言い方がひっかかる。
「終わったんじゃないの?」
「後ろ」
フレアが指をさす方向に自然と目が動く。
はち切れそうな筋肉に、荒い息遣い。
こぼれ落ちそうな目に鉄臭い臭い。
気づけば口にしていた。
声が震える。
「……センティピード」
日々追われながら生活をしています
【おまけ】
〝雨の日に出かけるエリンギとシュンギク〟
「シュンって雨好き?」
「うーん……まぁ好きだよ。リンは?」
「髪がうねるから嫌かも」
「あっはは。そっかそっか。ところでリン。あんなところにクレープがあるよ」
「あっ本当だ!」
「2人の分も買って帰ろうか」
「そうだね」




