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「条件って…?」


私は思わず、南先生ではなく音弥に訊いていた。

すると音弥が答えるのを待ちきれなかったように、彼ら(・・)がおしゃべりをはじめたのだ。



『ほら、アレやん。お嬢ちゃんにも前に話したことあったやろ?』

『Yes! ルールですね』

『アタシたちがこの世界に滞在しても構わない代わりに、守らなくちゃいけない決まりごとのことよ』

「ああ、あの名前を呼んじゃいけないとか、人に危害を加えちゃいけないっていう、あれ?」

『ザッツライトです!』

『危害だけやなくて、迷惑かけるのもご法度やで?』

『そうね。あとは、この体になったことで見聞きして知り得た情報を他の人に漏らしちゃいけないとか、他には……』

其方(そなた)。弟御に提示した条件とやらは、我らのものと相違ないのか?』


万葉集女王が南先生に問う。


「すべて同じというわけではないけど、概ねは」

『そうか…』

『それがどないしたん?』

『いや』

『Oh、今はそれよりも話の続きがインポータントです!So、 プリーズテルミー』


烏帽子男が南先生に先を促すと、他の皆も南先生に視線を集めた。


「お前達は本当におしゃべりが好きだね。まあ、そんなところが芽衣ちゃんの心にも良い影響を与えているのかもしれないけど。それで、弟さんは僕の出した条件をすぐに飲んだ。もし破れば、僕が問答無用で祓うということも含めてね」

「祓う……」



今日何度も出てきたその言葉が、とたんに恐怖を孕んだ響きに聞こえてくる。

そう………、今の音弥は、南先生がその気になればいつだってこの世界から消されてしまう存在なのだ。

そうと改めて思うと、まるで音弥が本当に消えてなくなってしまうような気がして、たまらなく怖くなった。


すると、顔にも不安が滲んでいたのだろう、万葉集女王が珍しくフッと私に微笑んだ。


『深く気にするでない。我らも同じだ。生殺与奪はこの者に常に握られておる。だが、こうして其方と一緒にいるであろう?其方。あまり不穏なことを言うでない。慎重に発言せよ』


自身の生殺与奪の権利を握る南先生に対し責めるような物言いをした万葉集女王。

優しいようで優しいだけではない南先生と、一触即発になってもおかしくはなさそうだけど、南先生は「改めよう」とすんなり聞き入れたのだ。



「ともかく、弟さんからの依頼を受けて僕は芽衣ちゃんの診察を開始したけど、間もなく芽衣ちゃんの体は回復し、退院となった。お父様は意識的に顔を合わせないようにはしていたし、芽衣ちゃんも記憶操作してからは比較的改善が見られた。ただ、自宅の目の前の事故現場を通ったり、弟さんのピアノや楽譜を見たりしたら、どうしても倒れてしまうことがあったんだよ。記憶を操作するといっても、完全に消してなかったことにするというよりも、記憶の引き出しに鍵をかけてしまう、もしくは記憶を曖昧にさせるようにベールで包んで忘れさせる(・・・・・)、といったものなんだ。自分は忘れてるんだと暗示にかけると言った方が正しいかもしれない。だから、あまりに強烈な何か(・・)が起こったそのときは、完全には思い出さずとも何かしらの影響が出てしまう。そのたびにとても苦しそうにしてる芽衣ちゃんを見て、ご家族、特に下の弟さんは心を痛めていた。弟さんは、芽衣ちゃんのために家の中ではお兄さんがまだ生きている風に振舞ってくれて、彼のためにも、芽衣ちゃんが過呼吸を起こす機会をすぐに減らさなければと強く思った。だから僕は、また、ある提案をご両親に伝えたんだ。思い切って引っ越してみてはどうかとね」


「引っ越しって………待って、この家はもともと、先生が彼ら(・・)の住処に指定してたんですよね?じゃあ、じゃあ………まさか、この家を私の両親に紹介したんですか?ゴースト付きのこの家を?」


それはほぼ確信に近い質問だった。

だから南先生からの返事を聞くまでもなく、私は彼ら(・・)にも続けざまに訊いた。


「じゃああなた達(・・・・)も、本当は私たち家族が引っ越してくる前から私たちのことを知っていたの?」

『NO!NO!NO!です!We ドントノー!』

『せやで。うちらホンマにお嬢ちゃんらのことは全然知らんかってんで?』

『そうよ?知ってたら、少なくともアタシはもっとお嬢ちゃんにいろいろしてあげられてたと思うもの』

「でも、音弥のこと知ってたのに知らないふりしてたわよね?もちろん、それは私のためを思ってだったんだろうけど。でも、知ってたことに違いないじゃない」

『オフコース!But、それを知ったのは…』

『やめよ。それは話すでない。約束を忘れたか』


突如万葉集女王が低く制した。


『Oh……そうでした。Sorry』

「何?約束って、どういうこと?」

「芽衣ちゃん、その話はまた後でもいいかな?今は、さっきの質問に答えさせてもらってもいいかい?」


烏帽子男を追及しようとした矢先、南先生から止められてしまう。

彼ら(・・)が何か隠しているのは明らかで、それが気になってしょうがないのが本心だったけど、南先生の返答をすぐ知りたいのも素直な本音だった。



「………もちろんです。お願いします」

「質問の答えだけど、YESだよ。芽衣ちゃんのご両親に引っ越しを提案した際、引っ越し先にいい場所を知ってると言ってこの家を紹介したんだ。もとの持ち主は僕の祖母で賃貸物件として管理会社に委託していたんだけど、ある時期からずっと空き物件になっていたからね」

「じゃあ、ゴースト付きだということもわかってて私の両親に勧めたんですよね?」

「その通りだよ。ここが空き物件になったのは、新しい住人が入ってもすぐに出ていってしまうからなんだ。そしてその理由の大半は、”この家は出る(・・)から” だった」

『I see……それでエブリワンすぐにいなくなったんですね』

『せやかてうちらがこの家に来たの、わりかし最近やで?』

『アナタたちの感覚で言う最近って、きっと人様とはレベルが違うのよ』

「いや、彼女の言うことは当たってるよ。お前達がここに住みつくよりも前から、この家に引っ越したとたん見える(・・・)ようになる住人が多かったんだ。まあ、それにはきっかけがあったんだけど…」

「もしかして裏庭の大きな木ですか?」


私の割り込みに、南先生は少しだけ驚いて。


「知ってたのかい?」

「教えてもらいました。あの木に話しかけた人が見える(・・・)ようになるみたいだって」


特に隠すべきでもないと思ったのでありのまま答えると、なぜか天乃くんが焦った声をあげた。


「西島さん、それ本当?兄さん、もし本当なら大問題だよ」

「わかってる。だからお前も、他言無用だ。いいな?」


厳しい口調に、空気がピリッと張り詰める。

天乃くんは南先生を見返したまま、にわかに苦い顔をした。

けれど、「……わかりました」と渋々了承する。

兄弟という立場から、もっと厳格な上下関係に変わった瞬間だった。


そしてヒリリとする会話はまだ続いた。



「……つまりこの人は、姉さんにも俺が見えるようになる可能性を把握した上で、この家に引っ越させたんだ。そうですよね?」



音弥の鋭利な詰問が南先生目がけて放たれたのだ。











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