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私はため息まじりに廊下に続く襖を開いて。


「どうしてあなた達が泣いてるのよ?」


呆れを隠さず吐き出した。


『だって……、だって、めっちゃ感動してしもたんやもんんんっ』

『ミートゥーです。イーチアザー、想い合って、ズズ、ズッ……』


袴三つ編みは袴の袖で、烏帽子男は扇子で顔を隠しながら、鼻や喉を鳴らしながら、浅い呼吸で私に訴えてくる。


「………だから、なんであなた達がそんな感動するのよ」


幽霊…もとい、ゴーストにも感動の涙が存在することに不思議な感覚が芽生えたものの、二人のそばで見守っていた軍服マントまでもが『あら、今のお嬢ちゃん達のやり取りは誰だって感動すると思うわよ?』と指摘した。


『アタシだってうっかり泣いちゃうところだったんだから。ほら、あの ”24時間365日” のところなんか、特に。心からのファンって、そういうものよね。いつだってそのヒトが一番。ううん、特別なのよ。別格なの。お嬢ちゃんにとって弟くんは、いつだって世界一のピアニストだし、弟くんにとってお嬢ちゃんは、世界で一番のファンなのよ。でもちょっとした心のボタンの掛け違いのせいで、そうとは伝えられずにいたのでしょう?それが今日、やっとお互いの気持ちを言葉にできて、お互いがどれほど相手を想ってるか知るなんて、これが感動せずにいられる?』

『NOOOOOOOOっ!このファミリーストーリーはビューティフォー、ワンダフォー、ブリリアント、エクセレント、ファンタスティ…』

『とにかくむっちゃ感動やねん!お嬢ちゃん!ホンマによかったなあ!弟くんと仲直りできて、ホンマによかった』

『ほんとほんと。弟くんもとっても優しいいい子よね』


烏帽子男と袴三つ編みの感情大洪水を疑う余地はないけれど、軍服マントはにこにこ微笑みながらも何かこう……それだけでないものを感じてしまう。

それは万葉集女王にも共通するもので………そういえば、万葉集女王はどこに行ったのだろう?

音弥の来訪を誰よりも早く私に知らせにきてくれて、てっきりそのあとも私と音弥の会話を彼ら(・・)と一緒に聞いてるとばかり思っていたけど。


『なあなあ、弟くんもええ子やけど、うちらもちゃーんとお嬢ちゃんとの約束守ったんやで?』

『イグザクトリーです!アローンでないときはハイドしました』

「ああ、そうね……。うん、それはありがとう。でも、他の人は一緒じゃなかったんだ?」

『他って、坊やとあの人のことかしら?』

「うん、そう。あの人はさっきまでここにいたでしょ?」

『そうね、どこ行っちゃったのかしら?』


軍服マントが頬に手を当てながら首を傾げたときだった。




ピ――――ン、ポ――――ン。




雨の音を突き抜けて響いたインターホンが、新たな来訪者を報せたのである。




こんな平日のこんな時間にいったい誰が来たのだろう?

訝しむ思いでモニターを確認すると、そこにいたのは、まったく想像もしてなかった人物だった。



「――――え?天乃くん?!」



傘を差しているので少し陰にはなってるけど、間違いない。

毎日私に話しかけてきていたのだから、見間違えるわけはないのだ。

大学で一番有名な、昨日は夏カゼで休んでいた、あの天乃 北斗 がうちの門の前に立っていたのである。



『あら、お嬢ちゃんのお友達?』

「ちが…、友達じゃない。でも同じ大学の……ほら、話したでしょ?毎日話しかけてくる大学一の有名人の男子がいるって」

『え?ほんなら、めっちゃイケメンなんちゃうん?』


さっきまでの感動の涙はどこへやら、袴三つ編みが喜々としてモニターを覗き込んでくる。


『ああっ、もう、はっきり見えへんわ!』

『Oh、そんなにハンサムガイがいいですかね?エブリバディ、アイズ、ノーズ、マウス、付いてるものはセイムですけどね』


小さなモニターに焦れる袴三つ編み、対して烏帽子男はモニターに近寄りもせず、なぜか憤慨気味に言った。


『まあまあ、あなただって今風に言うとじゅうぶんイケメンだとアタシは思うわよ?』

『Oh、そうですか?ならばOKですが』

『それより、昨日お嬢ちゃんがちょっと怒ってた人とは、また別の人なのよね?』


軍服マントが場をとりなすように訊いてきた。



「うん、この人は昨日は大学休んでたから……」


でもいったいなぜ?

そもそも、どうして私の家を天乃 北斗 が知っているの?


ゾクリと、得も言われぬ恐怖心が足元から這い上がってくるようだった。


そうこうしてるうちに、またインターホンが鳴る。



『ねえお嬢ちゃん、とりあえず出てみたらどうかしら?お友達じゃなかったとしても、知り合いには違いないのでしょう?』

「それは、そう…だけど……」


正直、このまま居留守を使えるならそうしたい。

そんな私の内心を見透かしたように、軍服マントは苦笑いした。


『お嬢ちゃんは会いたくなさそうだけど、何の用でわざわざ来たのかは知りたくない?大丈夫よ。アタシたちがついてるんだから。それに今日は弟くんもいるじゃない。ね?ほら、早く出ないと帰っちゃうわよ』

『せやせや。うちらがついてるから何も心配あらへんって』

『テイキットイージーですよ!』

「…………そうだね」



私は3人に背中を押されるようにして、玄関に向かうことにした。













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