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ゴースト達 (自称) は、おしゃべり時々心配性  作者: 有世けい
5人の幽霊…ではなくゴースト達
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『えー、すごい!ほんまにうちら(・・・)が見えてるんや?』


両手を叩いて喜んでいるのは、袴で三つ編みの女の方だ。


『あらやだ、きょとんとしちゃって。本当に可愛いわあ。ちょっとだけ、若い頃のアタシに似てるかしら?』


こちらは、軍服のような服装で、マントを着た、長身の………男性?

いや、女性………?

背格好や声は男性のそれだけど、言葉遣いはどう考えても女性で……。

でも二人に共通して言えることは、どちらも、烏帽子男と同じで透けたり宙に浮いたりなんてしてなくて、烏帽子男と同じく、ただのコスプレ衣装にしか見えないということだった。


そんな観察をしていながらも、二人から興味津々で詰め寄られた私は、思わずたじろいでしまった。

すると


『ストーップ!こちらのレディが気になるのはよーくわかりますが、今はウェイトしてください』


烏帽子男が仕切るように私と二人の間に割って入った。


『えー、なんでなん?うちかておしゃべりしたいのに』


袴三つ編みがクレームを訴える。

ぷいっと頭を振ったときに揺れるおさげがやけに人間っぽくて、不思議な感覚がした。

ただ、文句言いながらも引きさがった彼女とは違い、軍服マント男或いは女は、ずいっと私に近付いた。



『怖がらせちゃったのならごめんなさいね。でもひとつだけ、確認させてちょうだい。とっても大切なことだから』

「な………んですか……?」


物腰は柔らかいものの、目には見えない圧いたいなものを感じて、私は怯んでしまいそうになる。

でもこういう相手に弱腰になっちゃいけない気もして、顎を引き、キッと見返した。


『そんなに構えなくて大丈夫よ?簡単な質問だから。――――お嬢ちゃん、アタシのこと、知らないわよね?』

「え?」

『アタシの顔をよく見て?見覚え、ないわよね?』


グッと顔を接近させてくる軍服マント。

目と目が合って、私はその真剣な瞳に吸い込まれるんじゃないかと怖くなる。それほどに、魅力的な眼差しだった。

烏帽子男とは対照的に、目鼻立ちのはっきりした美青年といった容貌だ。

はっきり言って、かなりのハイレベルな美青年だと思う。

もし一度お目にかかっていれば、絶対に忘れないレベルの。

だから私は自信を持って答えられた。



「いえ、見覚えは、ないです」


自信を持ってるはずなのに、まるで尋問に応じてるかのような緊張感があった。

けれど軍服マントは私の返事を聞くなり、にこっと満面に喜色を染めたのだ。

それからサッと顔を離して。



『そ?ならよかったわ。もしお嬢ちゃんが以前の(・・・)アタシのことを知っていたら、ちょこっと厄介なことになっていたかもしれないから』


軍服マントのセリフに、烏帽子男と袴三つ編みもちらっと顔を見合わせた。

以前の……、厄介な……

もしかしたら彼ら(・・)にしかわからない規則みたいなものがあるのかもしれない。

でもとにかく今は、そんなことどうでもよかった。

私は得体の知れない彼ら(・・)に戸惑いを抱えつつも、決して舐められないようにしゃんと背筋を伸ばして、下手に受け取られないような口調で尋ねた。



「じゃあ次は私の番よね。私の弟、見なかった?」

『弟さん?弟さんって、小学生の坊やのことやんなぁ?』

「そうよ。まだ学校から帰ってないみたいなの。もうとっくに帰ってもいいはずなのに」

『まあそうなの?それは心配よねえ。でもアタシは見てないのよ。アナタたちは?何か知らないの?』

『ミー、イーザーです。But、何かヘルプできることがないかと思いまして』

『それやったら、一緒に弟さんを探してあげたらええんちゃう?寄り道とかしてそうな心当たりはあらへんの?』

「それが……、今日転校したばかりだし、ぱっと思いつくところはなくて……」

『ねえ、学校には連絡してみたのかしら?先生方なら何かご存じかもしれないわよ?』

「あ、そうだった…私、弟の担任の先生に電話しようと思ってたんだ」


その直前にこの烏帽子男に声をかけられてしまったのだ。



『Oh、そうだったのですか?それはお邪魔をしてしまいましたね。Sorryです』

「あ、……いや、それはいいんだけど……」


烏帽子男に素直に謝られて、ちょっと戸惑ってしまう。

マイペースでこちらのことなどお構いなしかと思いきや、不可思議な格好をしてるだけで、彼らは意外と常識の通用する相手だったりし――――



『――――おい』



彼らへの印象を改めようとしていたところだったのに、私の背後から飛んできたのは、あまり常識の整ってるとは言い難い、ドスの効いた声だった。


なんだか面倒な予感がするな……

そう直感しながらも、声の主を確認しないわけにもいかず、わたしはそろりそろりと振り返った。


すると、文哉と同じ年頃のような、小学校と思しき制服に制帽を着用した男の子が廊下からこちらを眺めていたのだ。

ファッション誌の親子特集ページなんかに掲載されてるような、いいお家のお坊ちゃんといった、賢そうな品のある美少年だった。

うちの文哉も可愛らしさでは負けていないけど、この少年は、なんとも言えない空気感を纏っていて、非常に雰囲気のある男の子である。


でも待って。

振り向いた先には、この男の子しかいないのだ。

じゃあ、今のドスの効いた声は……?


いや、まさかよね。

こんな可愛くて上品そうな男の子が、あんな低い声を発するなんて考えられない。

なのになのに、私の淡い好印象を全力否定するかのごとく、目の前の美少年が言葉を放ったのだった。



『オメエら、さっきからゴチャゴチャうるせえんだよ』



利発そうな大きな目を鋭く光らせて、小さな体の前では勢いつけて不機嫌そうに腕組みして。

正真正銘、美少年から吐き出された乱暴なセリフに、私は、ああ、また変なのが出てきた………と、今度は頭を抱えたくなっていた。












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