第3話『グロと未知の鍛冶』
拝啓
地球の皆様、ごきげんよう。
私は元気です、あれから目覚めては吸い、目覚めては排泄し、目覚めては寝ておりました。
寝る回数が多いこと、朝日無い事もありあれから何日が経過したのかわかりません。
お陰さまでハイハイはお手の物、二足歩行は体感50mほどは休憩せずに移動する事が出来るようになりました。
あんよが上手とはこの事ですね。
兄弟達はまだ二足歩行には馴れていないようで、私の3分の1程度しか動けない様です。
経験は力なり、こちらの世界でもその法則はお変わり無いようで喜ばしいことなのではないでしょうか。
あれから多種多様なウルフ達に連れ帰られる事はや数十回…
ここ数日で体力も少し付き、行動範囲も広がってきました。
そんなある日の事です、今まで行ったことの無い道を進んでいた所、珍しく光が見えたので街灯の蛾の如く吸い寄せられるように光源に向かったわけです。
そこで私は衝撃を受けました。
目の前に土塊を持った狼人間が居ます。
彼の手が少し光ると、土塊から道具が産まれるのです。
彼は花咲か爺さんならぬ、土塊爺さんなのでしょうか。
どうなってるんだこれ!?
土捏ねて武器作るって、それはドワーフとかの話でしょ!
土○か?○偶なのか?あのハニワモドキのウルフバージョンとでも言うのか!!
彷徨いてる時に見掛けた大人ウルフ達が簡単な武具を装備していたから何処から盗ってきたのかと思っていたが、まさか自前だったとは……
これは俄然習得しなきゃならんぞ、これから彼女を探しに行くにしても武具は必要だ。
しかし、光って捏ねて作るとは非常識なウルフだ。
全くわからん、恐らくファンタジー世界あるあるの魔力とか魔素的な物があるのだろうが、どうすりゃ使えるようになるのか…
とりあえず真似してみるか、教えてくれそうなら教えて貰おう。
彼の名前は仮にジョセフとしよう。
ジョセフはまず土を手に馴染ませるように掌でコロコロ転がす。
その後軽く力むようにすると手が淡く発光する、蓄光の素材のように微弱な光だ。
はっ!ホッ!!おりゃい!!!
ノリと気合いで力を込めてみたがなんの変化も起きん。
力の込めかたが悪いのかと、長く息を吐きながらヨガっぽくやってみたり、丹田に力を入れながら熱を送り込むように等バリエーション豊かに力を込めてみる。
俺にだってかめ○め波が撃てるんだ!
カメ○ーメハー!!
無慈悲に落ちる土塊、静寂なる空間、耐えられない視線。
ジョセフよそんなに見るな、俺のプリティボディがそんなに珍しいのかい?
まぁそりゃそうだよなぁ、そんな簡単に出来るならもっと土を捏ねてるヤツが居てもおかしくはない。
よし、ベイビーパワーであの光ってる手を握ってみよう。
拳を軽く握り、甲を上げ肘を付け、足は内股に!
目を潤ませ上目づかいする事でキュートさを演出!!
そして、このままにじり寄る!!!
あれ、どうしたんだいジョセフ…手を止めるなよ、作成途中に触らなきゃ意味ないかもしれんのだから。
じっとりとした視線でジョセフは手を止めこちらを見つめると、おもむろに土塊を足元に置きこちらに近付いてくる。
少し怯む俺を構いもせず、ため息と共に理解できない言葉を呟くとヒョイっと俺を優しく抱き抱えた。
なんといっているかわからないが、どうやら寝床に連れ戻されようとしている気がする。
ダメだ!少しでも鍛冶を習得したい、せめてきっかけだけでも有れば考察と習熟に時間を割ける。
そう思い必死に抵抗したが、ジョセフには大した抵抗になる訳もなくママウルフの所に帰された。
ママウルフ!ジョセフが意地悪するんだ!と眼で訴えてみたものの、頭を撫でられよく分からない言葉を一声かけた後抱き上げられた。
おっと、食事を忘れる所だった!
食わずば死んでしまうからな。
馴れた動作で食事を済ませ、明日の予定を考えよう……
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どうやらあの後、暴れているうちに体力が無くなっていたようで、満腹になった俺は眠ってしまったようだ。
よし、気を取り直してジョセフの鍛冶を見に行こう。
寝床から右に体感100m程移動した先にあるちょっとした1R程の小部屋にジョセフはいる。
少し顔を覗かせて中を伺うと額に汗を浮かべながら短い棒を整形しているジョセフがいた。
小さな唸り声を出しながら指先に光を集中させて歪な短い鉄パイプのようなそれをなぞるように指を動かした。
すると棒としか言えなかったそれは、光に吸い付くとゆっくりゆっくりと引き伸ばされる様動く。
動かされる事で少しずつ細く鋭利になり、長い時間を掛けて全体の3分の1程度を伸ばし、元の2倍程度の大きさまで整形する。
するとジョセフは、息をつき地面の鞣された皮の上に自身の作品を置いた。
すかさず俺は湾○ミッドナイト仕込みの高速ドリフトハイハイで棒状のそれに近付くと、先ほどまでジョセフが光らせていた箇所に指を這わせた。
不思議な事に伸びた箇所は少し熱を帯びた様に温かく、じんわりとなにかを引き出される様な感触だった。
なんだ、これ…ちょっと怖いな…
なにかを引き出されると共に自分の熱が奪われる様で、急激に寒くなってきた。
不思議で神秘的な感覚とは裏腹に死を意識してしまう程の寒さに身体を震わせる。
危ないと思い反射的に取り落とすように手を離そうと握りを開く。
しかし指先が金属に吸い付かれている様で、手を開く事は出来ても指から離れてくれない。
どうにかしなければと、もう片方の手で引き剥がそうと咄嗟に手で払うように動かすも、重みも相まって不用意に触れてしまい、もう片方の手も引き剥がせなくなってしまう。
このままでは危ないという感覚だけが先行し、焦りと不安が更に指先を硬直させた。
ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
すると唐突に影が自分を覆うのとほぼ同時に、後ろから殴られた様な衝撃を受けた。
揺さぶられながら視界が高くなり、引ったくられるように指先から金属の棒を取り上げられた。
すると引っ付いて離れなかった棒は、身構えていた俺を置いてゆき、いとも簡単に離れて地面に転がった。
どうやらジョセフが気が付いて引き剥がしてくれたようだ。
ジョセフはこちらに向き直ると、声を張り上げてこちらに訴えてくる。
言語はわからないが、危ないとかの注意をしているのはわかる。
安堵したのも束の間、そのまま叱られていた俺であったが、どうやら先程の影響で既にこの身体は限界らしい。
グルグル視界が回り、押し寄せる寒さはどんどん大きくなりジョセフの説教を子守唄に意識を失った。