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ALUMISに願いを  作者: 鬼桜天夜
第2章
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来訪者達 Part.2

「そこまでだ」

無法の戦場に規律をもたらすような、お腹の底に響く声が私の拳を収めさせた。振り向くと、そこには似た風貌の男が二人立っていた。片方は和服を着たオールバックの若い男で、もう一人も和服を着ていたが、厳格そうなもう一人と違い、人当たりの良さそうな雰囲気だ。


「チッ・・・こっからが楽しいってのによ・・・。どういうつもりだぁ?若頭さんよぉ!?」

若頭・・・やはりそうか。納得と同時に、盛大に溜息をつきたい衝動に駆られた。


「どうもなにも無い。貴様らの出番など無いというだけだ。お前も愉快そうに見物をしてるんじゃない。ストッパーが聞いて呆れるぞ、五分杯は形だけか?」


「嫌ですね、彼のストッパーになったつもりは無いですよ」


「そこじゃねぇよ。まぁいい、選べ。今すぐ若衆連れて去るか、俺達と()り合うか」


「マジ?超歓迎!!()ろう!!」


「・・・引きますよ。分が悪い」

今までの行動から考え、私はすぐに身構えた。ヒートアップしたら何をしでかすか分からないからだ。ところが、それは裏切られることになる。


「チッ・・・言うと思ったぜ。まぁ、今回ばかりは従っとくか」

嫌々だが潔く手を引いたあの男に、少し拍子抜けだと思わなかった訳では無い。それほどまでに「若頭」という役職は上に位置にしているのだろう。ヤクザの身分事情に詳しくないので分からないが、頭と付くからには相当なのが分かる。


「それでは、私たちはお(いとま)しましょう。菅原さん、気が変わりましたらいつでも事務所までいらして下さいね」


「あー消化不良だなぁ。しゃぁねぇ、適当な奴シバくか」

彼らの背中を掴みあげる気力も気概も無くなっていたので、二つの背中をただ見つめていた。もはや心が荒ぶっていた気配は感じさせない。


「あいつら、あれでよく暴対法免れてるよな。まっ、それぐらいでなきゃ、天下の威豪会(いごうかい)舎弟頭と大御所組長は務まんないか」


「最近、サツの動きが妙だ。この件で、大方柳ヶ浦が奴らの袖の下に押し込んだんだろう。好きにさせておけばいい」


「うへぇ、こっちはこっちで余裕綽々か。俺の大将は器が大きいねぇ」


「・・・焔煌(えんこう)。いい加減、減らず口を控えろ」

焔煌(えんこう)と呼ばれた男の言葉を一刀両断して、段々こちらに近づいてくる。敵意は無い。本能で分かってはいるが、私の体は自然に動いた。急に動かしたせいか、左に体が倒れるも、いつの間にか隣に来ていた栄司が支える。目の前の男に弱みを見せたくない一心で自力で踏ん張ろうとしたが、その頑張りも虚しく膝から力が抜けていく。


「菅原 紫。菅原 次郎の(ただ)一人の孫娘。そして、空想の主君(レグリアス)でもある。違うか?」

聞き慣れた、聞きたくなかった名前に、喉が締め付けられる。もはや私は、栄司に支えられなければ立てる状態ではなかっただろう。オールバックの男から目を離さずに、静かに思考した。

菅原 次郎。私の祖父の名前だ。私が幼い頃に火事に巻き込まれ、死んだ。

その時、祖父母の家に預けられていてた私は、現場を目撃していた。丁度お使いを任されていて、発火直後に家に帰ったが、錯乱していたこともあってか、記憶が混濁していて覚えてない。火の勢いは収まる気配を見せず、轟々と燃えていた。家の中は熱さで顔が焼けるかと思ったほどだ。吸ったことの無い程の煙の量、前が見えないほどだったが、ありったけの声で叫んだ。信じて叫ぶ。まだ、助けられると信じて。

後ろからは、大人の呼びかけが聞こえる。

その声が祖父母ではなく、幼い私を呼び戻すものだということは理解していた。それが大人達の決断だということも分かった上で、稚拙な頭で考え抜き動き出す。

そこから先は思い出せない。分かっていることは、あの火事で祖父母二人とも死に、その犯人は捕まっていないということだけ。そして右腕に、今も焼き付いている傷痕。それを機に私は東京へと帰ったのだ。


「わざわざ祖父の名前を出したということは、祖父の知り合いという事ですか?でしたら訃報を知らされているハズですが?」


「俺が十代の時に聞いたさ。葬式にも出席していた。お前は覚えていないだろうが」


「・・・祖父に御用ではなく、あくまでも私に用という事?」


「話すにはまず、俺の自己紹介が先だな。威豪会若頭直系二階堂組組長、二階堂 修二(にかいどう しゅうじ)だ。そして、お前の祖父の友人の息子に当たる」

威豪会・・・その名前だけなら私でも知っているほど有名なヤクザ組織だ。関東一体を縄張りとして、日本で最も巨大な組織とも言ってもいいだろう。そこに精通している訳では無いから詳しくは知らないが、そんなとこと祖父が近しい仲なのは知らなかった。この男の話を鵜呑みにするなら、だが。


「待て待て修二!そんなんじゃ伝わるもんも伝わらないだろ!一から、一から説明をしてやれ」

小さな子供に教えるように言ったのが気に食わないのか、睨みつけながら答えた。


「そのつもりだ」


「俺たち極道と呼ばれる反社が、何故レグリアスとはいえカタギに近づく真似をしたか。大雑把に言うと、つい先日、お前にそれだけの価値と狙われる理由が出来たからだな」


「そこを具体的に・・・はな、し」

先程まで気にしないようにしていた闇が四隅から前に収束する。言葉が最後まで繋がらず消えていく。あっという間に微睡む様に意識が途切れた。




田舎の家の庭に私は立っていた。視界がぼやけて体の感覚も無いということは、第三者視点の夢、という事で間違いないだろう。いつも自分が動く夢しか見てないから、とても新鮮に感じる。しかし、夢を夢だと気付いたら目が覚めるものだと思ってたが、どうやらそうでも無いらしい。

改めて辺りを見回すと、頭の片隅から記憶が徐々に引っ張り出されていく。小さなお掘りに、塀に沿って生えた青々とした桜の木数本。季節は夏だろうか。

見紛う筈もない。ここは、祖父の家だ。まだ燃え盛る前の歴史を感じる木製の家。そして庭には、二つの影がぶつかり合っている。一つは背丈はそこまで大きくないものの、しっかりした体格の短髪の影。もう一つは短髪の影の半分ほども無い小さな影だった。

幼少の私と祖父との、日課の稽古中をしているように見える。祖父の家に居た時は、いつも私から稽古を祖父にせがんだものだ。それを軽くあしらわれて、よく駄々こねてたっけ。

あの男に祖父の話をされて、記憶が刺激されたからか、こんな嫌な夢を見ているのか。あぁ、早く覚めて欲しい。胸の奥につっかえるこれがなんなのか、正体も知りたくない。ひとつ言えるのは、あんな景色は見たくないと言うだけ。あの美しい夕暮れと混ざり合う、ドス黒い赤を見る前に。


「・・・っいっつぅ」

意識の覚醒と共に体の感覚もはっきりしてくる。夢の内容もしっかりと覚えているし、眠りは結構深かったようだ。冷や汗で震えながら目を開けると、騒がしい声の出どころが目の前にいた。


「目、覚めたか!?俺見えてるよな?頭は打ってねぇけど痛いところがあったら」


「怪我人に質問攻めしてやんなよ。寝かせてやれって」

宥めるように焔煌が言う。どうやら私が眠っている間に一悶着あったらしい。


「・・・それもそうか」

彼の一言で大人しくなった栄司にぎょっとしていると、上から嫌な声が聞こえてきた。


「あいつの一発はお前が思ってるより重い。ましてや男と女なら体の頑丈さが違うのも当然だ、いや、しっぺ返しを食らってあんな長時間話せるだけでも褒めてやるべきか」


「・・・あなたにおだてられても、なにも、嬉しく無い」

声が思うように出ない。認めたくは無いが、本当に今まで受けて来た一発の中に、こんな奇妙な感覚はなかった。外より中を直に攻撃する感じ、とでも言えばいいだろうか。実際、肺を動かすたんびにチクチクした痛みがあるのも事実だ。


「その虚勢には感心するが、無駄な事だと分かっていながらするな。見苦しい」


「なっ!?貴方ねぇ!!」

触発され思わず大声を出すが、無理に出そうとしたせいか、咳き込んでしまう。


「その血の気の多さも、お前の欠点と言える」

またギャーギャー言いたくなる所を喉元でグッとこらえる。


「・・・もう反論するのも疲れた。さっきの続きね。貴方たちがヤクザで、私を狙ってるのまでは分かった。ならその動機は?何が私の価値をそこまで上げたの?」


「今のお前なら腰を落ち着けて聞けるか。いいか、これから話すことに、お前は口を出したいのはよく分かるつもりだ。だが。話を折るな、後で聞いてやる」


「話して」

間髪を入れず促す。

面食らった様子はなく、二階堂は静かに話し始める。


「話すべきは三つ。一つ、俺とお前の関係について。二つ、なぜ突如としてヤクザの抗争に巻き込まれたのか。三つ、これからお前は何をすべきか」


「さっきも言ったが、お前の祖父と俺の組長(オヤジ)は旧知の仲だったんだ。年老いても、たまに連絡をする程度にはな。当然、それは俺の方にも影響を与えた」


「数回だが実際に会ったこともある。昔の俺でも、”凄い人”とは、この人の事を言うのだろうと考えたさ。偉大な人だった」

さも当たり前だ、そう言いたげな顔をして見せた。祖父ほど寡黙で、無愛想な人は見たことがないというのが決まり文句だった。近所の人からは奥さんが亡くなってから、一言も口も聞かなくなったし、人間の心を喪ってしまったってずっと言われていたけど、そんなことは無い。その一欠片の優しさを知っている私からすれば、それこそ戯言と言えよう。昔の思い出に耽っていて気が付かなかったが、彼はこちらを見て小さく笑い、話を続け始めた。


「話が逸れたが、そんな仲だった二人はある契約を交わす。皮肉なことに、その友情がトリガーとなってしまった訳だが。当時中国マフィアと抗争していた組長(オヤジ)は、”自身の遺産相続人を菅原 次郎とした”んだ。そこからが実に面倒なことになった。抗争を無事に収めたまではことが順調に進んだ。それから組長(オヤジ)がすぐに死んで、遺産相続人はそのままお前の祖父になった。それを本当に望んだのかは俺は知らない。だが事実として、遺産はそっちに渡った・・・ここからは、分かるな?」

大岩のようにお腹に納得が落っこちた気がする。重くのしかかる事実という概念が重力として実態化したようだ。このまま眠っていれば良かったとさえ思う。


「つまり取り立てってわけね・・・。そんな身に覚えのない理由だったなんて。考えもしなかった。ねぇ、すぐにでもそのお金をそちらに返せる?契約上は私のものなんでしょう?」


「あぁ。そう、まさにそこなんだ。あいつらが突こうとしている穴は」


「聞きたくないけど、話して」


「先日のことになる。俺はその時契約を知って、確信した。それは他でもない、お前の為にあるんだとな。だから俺はここに来た。組長が残した遺産とオヤジが最期まで気にかけていたお前を護る為に。長くなったが、やるべき事は至って簡潔(シンプル)だ。お前の遺産を狙うヤツらをこっちからカチコミしてやるんだよ」

三人の驚嘆の声が、住宅街に響き渡った。








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