表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALUMISに願いを  作者: 鬼桜天夜
第2章
15/19

来訪者達

聞き慣れたチャイムが耳に届く。私はこの時を待っていたのだ。それはもう、明日が買いたかったゲームの発売日の少年少女の無垢な心のような。

廊下を走って先生に騒がれても面倒なので、はやる胸を抑えながら目的の教室に急ぐ。あぁ、そうよ。私はこの日を待ち侘びていた。これは決闘だ。どちらが優秀なのか、どちらが高いのか。

教室は別のクラスを一個挟んでいるだけなので、そう遠くないはずなのに、やけに長く感じた。お昼ご飯を食堂で過ごす生徒たちが私の横を通り過ぎる。みんな呆れ顔を向けるかニヤニヤしてこちらを見ていたが、気にしないことにした。中には明らかに敵意を向ける人もいたけど、それこそ気にしていたらキリがないというもの。


「たのもう!!」

恥ずかしげもなく堂々と言い放つ。そんな私に件の彼は、他の人とは違い不敵な笑みをこちらに向けた。


「ふっ、ついにこの時が来たね。俺も楽しみにしてたんだ」

顔だけ向けて言う。


「今回こそ、私が勝たせてもらう。いい加減、敗北の汁を(すす)るのには飽きてきたところよ」

挑発しながら彼の前の椅子に座る。誰もが嫌うあの冊子を持って。机ひとつ挟んだこの場の空気は、学校内とは思えないほどピリついていた。


「いくよ、せーのっ!」

ドンッと置かれた紙には、数字と少しの文字の羅列が書かれている。真っ先に視線を移したのは「五教科合計」と書かれた文字の横に、お目当ての数字があった。492点と書かれた数字を見た途端、紫は机の上にどてーんと崩れ落ちた。


「なんで・・・なんでそんなに高いのよっ!!」


「紫は487点か。危ないな、5点差だ」


「思ってもないこと言わなくていいよ!!」

項垂れたままブーブーと騒ぐ紫を優雅に眺める湊斗。恨めしさ故かもしれないけど。

私たちは毎度毎度こんな風にお互いのテストの五計を見せ合い、競い合っているのだ。今のところは、七三戦七十敗。


「小学三年生以来、無敗でごめんね」

煽りまくってくる目の前の男の言う通り、私は小学生の頃から時々対決を挑んでいるが、小学一年生の二回、二年生の一回しか勝ち星をとっていない。大変遺憾ではあるけれど。


「うるせぇよぉ・・・それにしても、また負け越しかぁ・・・今回は自信あったのに」


「菅原も俺も前より点数上がってるんだし、そんなむくれっ面するなよ」


「いらない同情しないで。負けは負けだもの、潔く認める。その上で!次こそ勝って目のもの見せてやるからね!」


「毒でも盛らない限り無理だから諦めな」


「今度カレー作ったら持ってってあげる」

いい笑顔で言い放つ。その善意に対し。


「それ一週間置きっぱにした菌まみれのカレーだから要らない」


「残念。じゃがいもの芽をひとつも取らなかったカレーでしたー」

ぷっ、と同時に吹き出し大きな笑い声が響いた。その笑い声に周りは一瞬こちらを見たが、特に興味を示さず自分たちの世界にまた入り込んだ。それを見逃さなかった湊斗が笑顔を崩さないままこちらへ話しかけた。


「いやー、ははっ!笑った笑った!っと、あー、彼だけど、またおんなじ場所に戻されたっぽいよ。ふふっ、おかしな話だね」

おかしな事を話しているのを他の生徒は聞こえていないようで、歓談に耽っているのが何よりの証拠だ。おかしな話、つまり、彼が前居た場所に居たことを示す。彼とは清水のこと。前居た場所というのは通常の監獄だろう。

清水綺嗣。半月前、私の友達を殺した張本人であり、私が倒した脱獄犯。数年前に無慈悲な大量虐殺を行った死刑囚である。

清水綺嗣は普通の脱獄犯ではない。私と同じ、空想の主君(レグリアス)で、電脳人間(アルミス)と共に殺人を行っていた特殊な事件を引き起こしていた。


「彼?彼らではなく?」


「それは・・・ごめん後」

小声で謝ったかと思うと、湊斗の後ろ側のドアからこちらに女子数人が歩いてくるのが見えた。振り向かずに、しかも喋りながら気づいたのか。改めて規格外だと思いつつ、女子の顔をちらりと見るが、今になってようやく気づいた。

私と栄司が出会った日に、同じクラスメイトの長谷川さんが連れて来ていた女子グループの子達だ。長らく顔を見ていなかったせいか一度見ても分からなかった、ということにしておこう。

彼女たちの表情に見覚えがあったし、今来たってことは、想像通りの結末になるだろう。女の子達は私たちが囲む机まで来ると、私には見向きもせずに湊斗の方へ顔を向けた。

やっぱりか、そう納得した私は成績表を素早く抜き取り早足で教室を出ようとする。歩く中、キザ男が哀れに思ったので一度だけ振り返ると、黄色い声援の中央に青い顔をした湊斗がこちらに視線を送っていた。ふん、私に勝った腹いせよ。何とも理不尽な理由の元、彼を置き去りにしていったのだった。



ぷいっとそっぽを向いた彼女の背中を見送る。まったく、相変わらずの負けず嫌いだな。幼なじみの可愛らしい部分をしみじみと感慨深く考えていたら、上から忌々しい声が届く。


「ねぇ、湊斗くん。お昼一緒に食べよう?」


「ごめん、他の友達に誘われてて。これ以上遅刻したらドヤされそうなんだ。ごめんね」

そういい、半ば強引に席を立つ。驚き、困惑。微笑を保ったまま、その集団から離れる。しかしそれを阻むリーダー格らしき人が、焦りを隠しもせず近づいて来た。本当に忌々しい。


「じゃ、じゃあ湊斗くんっ明日はどうかな?」


「・・・いいよ。それじゃ、また明日に」

一瞥もすることなく湊斗はその場を去っていった。取り残された女子たちを周りの人はどう思ったのかは分からない。ただ言えるのは、昼食の穏やかな空気が北風に吹き飛ばされたことだけは確かだった。

ポツンと取り残された女の子達は、一人の女子を不安そうに見つめていた。その中心で、鬼気迫る声を漏らす。


「なんで、なんでアイツなのよ・・・!」





本格的な夏が近付いてきて、嫌が応にも汗をかいてしまう。茹だるような熱気に唸らされながらも、アスファルトを見ながら歩く。今日はバイトの、しかも夜勤シフトが入ってるので、今のうちに仮眠を取るべく誰とも遊ばず直行で帰っている。清水の一件が終わってやっと一息つけてきたってのに、店長容赦ないんだから。紫ちゃん、今回だけでいいからっ!って。それ二六回目だっていうの。

もちろん校則で夜勤バイトは禁止されている。しかしそうでもしないと生活費がカツカツだし、とっくに先生方にはバレてると思う。まぁ、それも全部踏まえたうえでバイト続けてるんだけどね。我ながら悪い女だ。

家まで三分もかからないうちに着くというところで、ほとんど無意識に体が止まった。もう日が数分で沈みそうだというのに、人通りが多い。多すぎる。更にここは住宅街。あんなヤツらが通ること自体がおかしいのだ。あんなヤツら、と呼称される男たちは、通常よりもガタイがよく、人を寄せつけないオーラを放っている。服装はあくまで一般人と似た格好だが、違和感がありまくりだ。お粗末な変装この上ない。


「何も無いといいんだけど」

バッグを肩にかけ直し、嫌な予感を胸に家へと帰る。




案の定というか、当然というか、アパートの前にはいかにもな服を着た男性二人と明らかに険しい顔をした栄司が立っていた。厄介事などごめんこうむりたいが、無理矢理に体を前に進める。


「だぁからっ!ここに!そんな名前のやつは居ないっての!余所者に嗅ぎ回られると迷惑なんだよ!」


「調べは付いているんです。ここが菅原さんのご自宅なのでしょう?」


「お前話し聞いてる?そんなやつここには住んでないって何度も言ってんだろ!」


「はぁ・・・先程から面倒ですね」


「ため息つきたいのはこっちだっつの!」

スーツを着た肩につく程度の長さの髪を束ねた男と栄司がバチバチと火花を散らしている。それを退屈そうに眺めるフランクな格好の男。殴り合いになったら間違いなく勝てるだろうけど、大事は起こしたくないのか、栄司も手は出してない。賢明な判断だ、グッジョブ一ポイント。

距離は目測十メートルほど。まだそこそこの距離がある筈なのに、高身長で退屈そうな男がこちらに顔を向けてきた。これには流石の私も驚いた。気配を出した覚えも故意に消した覚えもなかったからだ。あくまで自然に近寄ったつもりだったが、秒で見つかってしまった。


「おっ、キタキタ。なぁ兄弟、アレだろ?俺らの探しもの」

虎の目の様な瞳孔と目が合う。人をなんとも思ってない感じだな、だから目の嘲笑が隠せない。親指でぴっと指をさされると眼鏡の男と栄司がこちらを向いた。


「・・・あぁ、貴方の言う通りですよ。顔が写真と一致しますね」

眼鏡の奥から覗く野心、なるべく敵に回したくない相手だ。いかにもなインテリヤクザ、それ以外の印象が思い浮かべられない。


「なっ!?お前今来んなって連絡しただっ・・・!」

怒りの言葉が出かかったが、墓穴を掘ったと言わんばかりに口を押さえて黙り込む。もう遅いと誰もが思った。しかし、連絡?スマホの電源を付けてメッセージ欄を確認する。通知は0件だから表示されてない。

なるほど、搦め手も活用してくるか。どうやら無策で突っ込んでくるような連中ではないってわけ。


「お嬢さん、すみませんがこちらにお住いの方が誰か知っていたりしますか?」

私の住むアパートを指し示しながら温厚そうに微笑みかけて問いかけてくる。こいつ・・・。


「・・・ここの住人は私だけです」


「はぁぁ!?お前正気か!!こいつらはお前を探して・・・!」


「栄司黙ってて。そんなの分かりきってる」

栄司を手で制止しながら言う。ここで「知らない」と返して逃げても良いけど、そうなったらどちらにしろ見張りの連中に捕まる。仲間がどのくらい居るのか分からない今、そんな強硬手段は使えない。かといって、「知っているけど教えない」と言えばすぐさま手を出してくる。高身長のやつが。必要なのは時間だ。長引かせて通行人が奇跡的に来る可能性、できれば情報も聞き出したいし。むろん、出来るのなら警察に通報したかったが、監視の目がありすぎて通報を怠ったのがミスだった。いや、無駄な思考は省こう。

ゆっくりと瞬きをする。慎重に、はっちゃけるな、私。


「それで、貴方がたと面識ありましたっけ?私の間違いじゃなければ、一度もお会いしたことは無いと思いますけど」

用心しながら距離を詰めていく。人質に取られて後々大変になるのは私だ。近くにいる栄司じゃない。つーっと冷や汗が背中を伝う。相手は動揺を示した様子は無い。

菅原 紫は普通に生きていれば有り得ない数々の死線をくぐり抜けてきた。昨今に起きた「死刑囚 清水綺嗣脱獄事件」も然り。かの事件に於いて、彼女はその中心部で動いていた。そして事件の収束に導いたのも彼女であった。


「いえ、貴女とは初対面ですよ」


「でしたら、なんの御用件ですか?私は貴方がたに用件なんてこれっぽっちも無いのですが」


「まぁまぁ、そう邪険にしないでください。菅原 紫さん?」

喉からヒュっと変な音が鳴る。顔が割れてる時点でまさかと思ったけど、名前に住所、個人情報はほぼバレてると仮定した方がいい。しかも今は最悪な事に制服だ、隠しようがない。


「おい紫!お前だけでもここを離れろ!一時しのぎにしかなんないかもだけど」


「いいよ。お兄さん方、なるべく手早く済ませましょう。貴方達の目的は何?私個人を狙う目的を聞かせてもらいましょうか」

遮るように私は言葉を被せる。

相手は私の問いかけを無視して、自分の手の内のカードを切ってきた。長引かせてくないからかは分からないが、乗ってあげた方が本題を聞けるかもしれない。


「そうして頂けると大変助かります。私たちの目的は」


「おいおいおい、お前らいい加減にしろよ?」


「黙って聞いててやりゃァ何だよ?つまんねェ、つまんな過ぎて立ち寝してたぐらいだぜ。なぁお前」


「わたし?」


「お前、喧嘩強いだろ?見りゃ分かる。あぁ!否定も謙遜も要らねェ!甲斐があったってもんだ!!」

頭の上にはハテナが飛び交っていた。殴り合いが強いというのは謙遜しないし、そこに気づいたことにも驚きは無い。ただ、甲斐があった、という言葉の意味を理解するのに一瞬の間が空いた。困惑した表情を写した瞳は熱を上げていく。この感覚!


「何言ってっっ!?」

息を飲むのと同時に左側から空を切って足蹴が来る。高身長の男が飛び込んで回し蹴りを、顔に食らわそうとしてきた。咄嗟に左手が先に出るが、あまりに想像と重さが違い過ぎて右腕で支えないと吹っ飛ばされただろう。よろめきながらも何とか姿勢を保つと、足を退かしてキンキン響く声で叫ぶ。


「ヒャハっ!!イイねぇ最高だねぇ!!!!」

私を挑発しているのだろうが、乗っかりたくても乗れる状況じゃない。下を見て、より一層歯痒くなる。さっきの蹴りの衝撃で腕が痺れていた。直で受けた左腕は赤くなってしまっていたし、ヒリヒリして痛い。AESCの巴月の蹴りですら、ここまでダメージは負っていなかった。深呼吸で新たな酸素を取り込む。痛みは和らぎこそしなかったけど、気持ちは切り替えられた。


「今度はお前の番だ!!どっからでもいいぜェ!!?」

狂気の笑顔を張りつけて男が言う。


「なら遠慮なくっ!」

この挑発に乗ったあたり、血の気が多いと言われても認めざる得ない。

一気に距離を詰めて相手の足元を崩そうと、ブレイクダンスのような動きで蹴り技を出す。どの手が通用するのか分からない分、手数で攻めていくしかない。反動で立ち上がって見たソイツで、足元が歪んだ。近距離からの攻撃でもう二秒は反撃に転ずることは出来ないはずなのに、私の目の前に拳を振りかぶっていた。防御よりも疑問が飛び出してしまい、もろに一撃を喰らう。アッパーをもらう形であまりの衝撃で体が二メートルほど吹き飛ぶ。


「紫!!」

静観してくれていた栄司が駆け寄ってくる。しかし私はそれを手で止めた。受け身、そしてすんでのところで鳩尾(みぞおち)は避けたが、威力が強過ぎて対して変わらなかったのでは、と考えがよぎった。とりあえず、血は出なかっただけマシと言える。殴られたお腹を片手で押さえ何とか立ち上がれた。


「一発が重すぎるでしょ・・・!」

心からの本音だ。あのひょろい外見(ガワ)してなんであんなに強いパンチになるのか。メリケンサックをつけてる訳でも無い。体が痛むと言うよりは臓腑に響く感じだ。


「オイオイ、今のはかなりイイのが入っただろ?」

有り得ない、そう目が物語っていた。だがウザったらしい事に、口元には底知れぬ闘争心が見え隠れしている。それとは反対に私の熱は理性を帯びていく。


「そうね、良いのが入ったのは認めるけど、致命傷って程じゃない」

その言葉を聞いて、男は口元をさらに歪める。私の手は未だにお腹に添えられていたし、潤んだ目、これだけ劣勢の条件が揃っているなら、これがこれが虚勢だと言うのは誰が見たってわかるだろう。


「見栄張んのは良いけどよ、全然動けんならもうちょいギア上げても良いってことだよな?」

んなわけなねぇだろ。

盛大に悪態をつくが、戦況が大ピンチなのは変わらない。覆そうにも、栄司(切り札)は無闇にきれないのが苦いところだ。多分、というか絶対、栄司は戦ったら次第にヒートアップして、人らしく振る舞えないだろう。それが出来るほど自制心が無いのは、既に立証済みだ。

認めたくは無いが、目の前の男と私とでは、フィジカルの差は絶望的な程に離れている。それをこの短時間で埋めるのは不可能だし、この男の底、相手の人数差が知れない以上、作戦の立てようがない。

だが、一矢報いたい、その思いが膨らんでいく。相手の思いどおりにはさせたくない、ただその一心が体を貫いた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ