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ALUMISに願いを  作者: 鬼桜天夜
第1章 「鎖縛に花開くダイモンジ」
11/19

あの日誓った貴方との約束

時は三日後。時刻、午後六時。予定通り、清水の居場所に変わりはないようで。

現在地、東京、元檜原村。


「ここは東京の中でも三本指に入るほど、酷い有様だと言われています。発展工事中にMAUの襲撃。元々、住人は反対意見を出していたにも関わらず、強行した工事です。住人達からはより非難の声を浴びざるを得なくなった株式会社は後片付けもせず撤退。

そうなってしまえば()もどうしようも出来ません。誰にも手がつけられなくなったここは、犯罪者にとって、絶好の隠れ場でしょうね」

私はそれを止めることなく聴いていた。あれから、どこか上の空になっている気がする。目の前で人が死んだ。他人だから問題ないわけが無い。

だって彼は、私の選択で殺した。

ゆっくり歩きながら説明をする楓慎さんの後に、私、そして後ろに桐生が着いてきている。周囲の警護だと言い、早乙女さんは付近を索敵しているそうだ。鉄筋コンクリートが剥き出しのまま放置された家々が、両側からこちらを見つめている気がする。そんな錯覚に苛まれて仕方がない。時代に見放されたと、誰も手を差し伸べはしないのだと、呪文のように響く。

彼も死ぬ間際にこんな事を思っていたのだろうか。


「また青くなってんぞ」

左頬にかなりの痛みを感じて咄嗟に犯人の手を掴んで弾く。怪訝そうな顔をしたかと思うと、いつもの顔色に戻った。本当にころころ変わるパーツだ。


「お気遣いどうも!つねる加減はしてよ!」

左手で頬を押さえる。栄司の馬鹿力じゃほっぺがちぎれる所だった。


「んだよ、結構元気そうじゃねぇか」


「このアンニュイな雰囲気に対して、どうして元気そうって感想が出るのかな」

悪態をつきながらも、内心、私は微笑んでいた。前の彼は、いや嘘、今もそうだけど。遠慮というか気遣いと呼ぶべき物を持ち合わせていないのだ。それがアイデンティティと突っぱねられればそれまでになるが、どこか人として成長して欲しいと、心のどこかでそう思っていたのだと思う。例えそれが、傲慢な願いを押し付けているだけだとしても。そう想わずにはいられなかった。


「お前の言いたいことも分かる。防げたかもしれない、失わずに済んだかもしれない」

必死に動かしていた足が、止まってしまった。目を逸らしちゃいけないのは分かっている。地面は未だ湿っていた。

後ろの二人、そしてイアン・シムル、楓慎さんも黙って耳を傾けていた。


「でもよ、ぜんぶ()()でしかないんだろ。だったら考えるだけ無駄だ・・・って、こう割り切れないから紫が悩んでるんだよな」

左手がだらんと下がり、空を掴む。


「でも、お前を待ってはいられない。そうこうしてる間に、最悪の事態が起きることなんて俺にだって想像出来る。俺は行くぞ」

なんの宣言だと普段なら鼻で笑い飛ばしてあげるところなのに、妙に足が前へ進む気がした。


「君を一人にしたら何しでかすか分かんないもん。私も行く。自分で選択した道だもの」


「それに、俺もいるしなっ」

今まで黙っていた湊斗が後ろから背中を叩いてきて、いつもと違う馴れ馴れしさに笑いが込み上げてしまう。湊斗なりに自分の心境を案じての行動だろう、良い幼なじみを持ったものだ。


「いいないいなっお兄ちゃん、これぞ青春って感じがしない?」


「ならシムルも混ざって来ればいいだろう」


「シムルはそういう事を言いたいんじゃないんだよ、イアン」

話し声の聞こえた方へ向き直すと、そこには暖かく和んだ雰囲気の三人が談笑している。とてもじゃないが、死地に飛び込む前の人たちとは思えない。


「さてお二方、ここからもう数十分歩きます。おやつの準備はいいですか?」

不敵に笑った後、変なことを口走る楓慎さん。


「おう!最近のお菓子ってスゲーのな。口の中で味が変わるんだぜ」

そう言い、私服のポケットからカラフルな袋包を取り出して口に放り込む。味を楽しむのが目に見える彼を眺め、グミに視線を移す。最近ではめっきりと見なくなった、数年前に流行していたグミだ。当時は味が物珍しいとされ大衆から喜ばれていたが、近年では似たような菓子類が多く発売して、結果、一大ムーブを巻き起こして時代の波に消えていったのである。

そんなお菓子を最近のお菓子と呼ぶのを何となく哀れに思った私は、栄司用にスマホと流行のお菓子を買ってあげようと、固く決意したのであった。


「・・・そういう意味で言ったのでは無いのですが、それだけ元気があれば大丈夫でしょう。ここから更に東京郊外に行きます。MAUと遭遇するとは考えにくいですが、警戒は怠らないよう、よろしくお願いします」

最後に不穏な空気を匂わせた楓慎さんの言葉に、一抹の気がかりを胸に留め、紫は更に西へと進んでいく。






奥へ進むほど、影と木々の濃さが増していっているのが肉眼でも分かる。隠れ蓑にする為にこの場所はあるのか、そう疑ってかかってしまうほどに、入り組み、複雑化しているのだ。鉄と荒地に囲まれていた所から少し離れたここは、森の割合が多くなり、見通しが悪くなる。興味本位で電子機器で時刻を確認してみるが、悲しいかな。それとも予想通りと言うべきか、圏外表示が無機質に画面に出てくるだけ。舌打ちを心の中でして、改めて目的地の建設現場を見据える。

見たまんま、想像通り、建設途中となったそこは、廃墟ビルもドン引く酷さであった。鉄骨も見え、ツタを伸ばしっぱにした結果、壁や外から中へ入ろうとするツルまで発見できてしまう。ここら一帯は気候変動の影響下にあり、急な豪雨が季節を問わず近年、と言っても十数年単位になるのだが、昔から降り始めている。その急が今来てしまったのか、空模様は曇りつつある。日本の天気予報の精度は、第二次産業革命以降、元々高かった水準がかなり上がっているのだ。その技術力を持ってしても間違いを犯すのだから、今回ばかりはどうしようも無い。ずぶ濡れで帰る結末を覚悟しながら、イアン・シムルを待つ。

彼らが目的地付近の偵察を行っている間、私たちは建物の見張りを任されていた。だがこれといって動きがある訳でもなく、ただぼーっと長い時間が過ぎていくだけだった。霧が立ち込めてきそうな物々しい雰囲気の中、決戦の地を再度見やる。

あそこに、清水 綺嗣が居る。

私と彼には何の関連性もない。でも、だからこそ出来る手があるのを、私は知っている。それを知っているからこそ、ここに立っているのだから。


「暇だから聞くけどさ、桐生はあのー、なんだっけ。昨日俺の家に来たヤツらに心当たりは無いんだよな?」

こういう沈黙に不慣れだったためか、私と向かい合わせになるように立っていた桐生に話題を振った。栄司はというと、私の真上にある貧弱そうな枝に両足を揺らしながらちょこんと座っている。枝が折れた先は容易に想像できるので、少し右にずれて桐生の返答を待つ。

ちなみにこうして栄司が木の上にいるのは単なる気まぐれではなく、今回はちゃんと意味がある。私と桐生は未だ学生の身で、更に言えば、私には親族が居ないことは調べればすぐに分かってしまう。だから、今ここにいるのが私、桐生、そして楓慎チームだけという事にしておきたい。なるべく痕跡を遺さない為には、まず下足痕(げそこん)を無くすのが第一に挙がった。よって栄司と早乙女さんは人間離れした身体能力、地形を利用して地面に足をつくことなく移動することになったということだ。さっきも私に喋りかけていたが、木の上を飛び回りながらの高等テクを駆使しながらだったのである。それにしてもこの居候男、さりげなく自分の家だと言い張ったな。


「菅原に下手な嘘はつかないさ。それに、彼らを庇ったとして俺になんの利益がある」


「実はあいつらの仲間でしたーとか?」

仮にもこれから一緒に戦う仲間に、よくもまぁ裏切りを匂わせる発言をするものだ。感心半分、やっぱり頭おかしいと再認識半分。


「もしそうなら、もっと良い作戦を提供出来たよ。話によれば、民間人に対して令状もなく強行突破しようとしたんだろ。万一菅原の言う通り、政府が関わっている組織だとしたら俺ならまずそんな事はさせない。殺し、又は誘拐が目的なら更にないな」


「誘拐って・・・」

口について出た言葉が、徐々に現実味を帯びていく。確かに法的な理由がないのなら、これは誘拐事件として処理されていたのかもしれない。そうなったら、私の家はどうなっていたのだろうか。元から誰もいなかったかのように片付けられ、棄てられていたのかもと考え始めると、嫌な想像ばかり頭に浮かぶ。


「そっか、ならあいつらホントに何が目的なんだろうな」

特に意味もなく発した何気ないこの言葉に、誰が何を返す訳でもなく静かに溶け込んで、雨に流された。

あの場にいた全員、アルミス、もしくはレグリアスだと考えるのが妥当だ。もしかしたら、私が知らないだけで、裏ではもう誰かが暗躍し、関わりのない人を手にかけているかも。だがその一方でこうも思う。前に助けに来てくれた、ドレス姿のアルミス。彼女のように人助けをしている人達もいるかもしれない。全ては憶測に過ぎないけれど、もしそうだとしたら、私も知りたい。

この力を何に使い、見極め、どう生きているのか。

分からないままなんて、嫌。

心の中で投資を燃やすと同時に、ふと気になったことを彼に訊ねてみた。


「あまりよく見た事無かったけど、桐生は目の模様、幾何学模様(きかがくもよう)なんだね」

敵地の只中に入っていて警戒レベルが高まってるのか、早乙女さんも武装状態になっているようだ。その証拠に桐生の目には二つの円が重なり合う模様が浮き出ている。

どうやら想定していない質問だったらしく、不意をつかれた後、すぐに返答した。


「あぁ、俺からすれば数学の塊みたいなものだ。正直、気に入ってる」


「確かに桐生は数学得意だもんねぇ。よっ!数学だけ学年首位!」


「よせよ褒めんな」

満更でもないという顔をしてみせるが、実際、桐生はダントツで頭が良い、はずなのだ。そう、私の言葉通り筈なのである。ケアレスミスとご縁のある彼は、そのお陰で未だに五教科満点に到達したことがなかった。そのくせ私よりいつも点数が高いとか、悔しい以外の何物でもない。


「その模様に名前とかあるの?」


「名称はヴェシカ・パイシス。全体の名前ではなくて、円と円が重なり合う部分のことを言う。神聖幾何学模様の中でも始まりを表す形で、魚の浮き袋と呼ばれているそうだ。」

そんなの知らないけどな、という呆れた声が聞こえそうな口調で説明を続ける。


「ナニカとナニカが出会う場所、そういう意味合いもあるらしい。俺が社交的なのは認めるが」


「自分で言うなっ」

軽口でツッコミを入れる。しかし出会いの場所ね、楓慎さんとの交流といい色んな人脈があるのも事実だから、意外と的を得ているのかも。

すると先程まで黙っていた栄司が上から喋りかける。


「おっ、やっと帰ってきたみたい・・・あいつらの後ろ、なんか居ねぇ?」

怪訝そうな声で話す栄司を他所に、音源の方へ顔を向ける。先程から草を掻き分ける音は聞こえていたが、確かに栄司の言う通り、音が想像より大きい気がする。桐生もその異変に気が付いたのか振り返り、さらに音が近づく。

いつでも逃げられるように走る体制を整えたと同時、木々を分けて来たのはこんなところでも仲良く一緒にジャンプしてきたイアン・シムルだった。驚いて飛び退くと視界に写ったのは、久しぶりに生で見るMAUの群れだ。

着地からのバネも軽やかに、シムルが走りながらこう伝えた。


「社長なら別方向の安全地帯まで下山!!私もそこまでMAU誘導するから、あとよろしく!」

わざわざ私の目の前まで来てウィンクを披露し来た道を引き返していく。さっそく作戦に支障が出てきたようだ。滞りなく物事が進まなさすぎて、障害に何も感じない自分が怖くなってきた。


「清水の実力は未知数だ。そしてこの異常事態、俺達もなるべく手早く片付けられるようにする。下手(へた)に動くんじゃないぞ」

MAUからの攻撃を足蹴で返しながらイアンは視線を送ってすぐにシムルと同じ道を下った。

彼らの狙い通り前衛のMAU数十体は後を追い、急カーブをかけて下っていき、ひとまずはそれで良かったが、第二陣のMAUは私達を今日の夕飯にしたいらしい。あくまで冷静にこちらまで引いてきた彼に問いかける。


「早乙女さんの位置は把握出来る?」

すぐさま思考の湖へ落ちるが早く、二秒にも満たず返答が来た。


「ここまでの到着見込みは急いでおよそ十分。それまで栄司一人で持ち堪えることになる。逃げの一手はしたくないんだが、行けるか?」

簡潔に、事実のみを突きつけられる。状況は嫌な方に傾いてはいるが、窮地に陥っている訳では無い。だが、ここを突破しなければ次にいけもしないし、雪辱も晴らせないのだ。相手はこんな山奥にいる野良のMAU、動物と同じように、MAUにも野生本能があると仮定すると加減をすればこちらが負ける。栄司の戦闘能力はアルミス戦の経験で、アルマに劣っていたにも関わらず、凌ぎきった。実力的には申し分ない。

考慮すべき点は多対一の戦闘を、私も彼も一度もした事が無いことだ。今までのMAU狩りもせいぜい五体が最大個体数だったが、今回は甘く見積って十五体ほど。私達との距離も離れすぎず、且つ、攻撃が当たらない絶妙なポイントを常に頭に留めながら位置取りをする。それに、護身術も武器も何も無い桐生を庇いながらの戦いとなる。

逃げない。それ即ち、戦い、勝つ。

それらを複合して、ある結論を導き出す。


「大丈夫」

絶対的な自信を持ったその言葉は、桐生を説得するに足る強さを持ち合わせていた。

小さく微笑んだ。私の考えを理解したようだ。


「栄司!」


「あいよっ!!」

目線を交わさずとも、意思が通じ、次の行動が開始される。その様子をさっきとは打って変わってぼーっと心無く見ている湊斗の手を強引に引く。


「ほら行くよっ!私達がここに居たら危険!」

こんなこと、湊斗には言わずともわかるだろう。でも声をかけた時の湊斗は、様子がおかしかった。私の知らない、彼がいたような気がした。







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