騒ぎ
アベル王国にて。
「ペルソナルド草原の砂漠化。ふむ、興味深い。」
セリスとヘルの戦闘の跡が発見されるのにそう時間はかからなかった。王国の依頼でペルソナルド草原に向かったセリカが3日以上経っても帰還しなかったからである。
「ゲウス。これについてどう思う?」
アベル王国の国王。アベル・ドルザークはゲウスに問う。
「あれだけ広大な草原を3日間の内に完全に砂漠化、そして周囲の魔物の消滅。こんなことが可能なのは、」
「やはり神器しかありえんか、」
国王が言うと周囲がざわつく。
「神器なんてありえないと思いますぞ!あれは魔神にしか使えないはずでしょう!?」
貴族達が騒ぎ始める。
「ならこの事実をどう説明する!?」
国王が怒鳴る。周囲が静まる。
ゲウスには心当たりがあった。
(生死不明、行方不明の魔法使いの名は確かセリカ・アルカディア。彼女は何者からか力を継承していた…。)
(セリカ…?セリカ?セリ…カ。セリス。はっ!?)
「そんな馬鹿な!?」
ゲウスは何かに気づき思わず大きな声を出してしまう。
「なにか気づいたのか?ゲウスよ。」
国王に問われたからもう正直に答えるしかない。
ゲウスはセリカとの事と、自分の考えを全て議会に集まっている者全員の前で話した。
「つまりゲウスよ。お主はセリカに力を継承した人物の正体はあの終焉の魔神。セリスだと?」
「それだけではありません。国王。彼女は継承の魔術の際、魔法陣に捧げたのは起動用の自身の血液のみだと言っていました。供物は継承源にもっとも縁のあるもの。つまり、」
さらに周囲がざわつき始める。
「魔神が復活したと、それはつまり、魔神戦争の再開…。」
議会の参加者全員が唾を飲み冷や汗をかく。
魔神戦争が始まってしまえば、当然人間達も無事ではいられないだろう。
ゲウスが唇を噛む。
(この責任、私が取らなければ…。継承の事を知っていて気づけなかった私の失態だ…。)
終焉の魔神。セリスは私が討つ。そうゲウスは決心した。
遠く離れた死者の国。『クリムゾン』にて
「はぁっ…。はぁっ…6000年も時も超えているというのに何だこの桁外れの威力は…。まさか120万回も蘇生を繰り返すことになるとは…。」
私、ヘル・クリムゾンはセリスの神器の威力に困惑した。まさか蘇生魔法で肉体を再生しても肉体の崩壊が止まらないとは。
(やつは危険だ…!覚醒する前に殺しておかなければ…!)
私はアルカディアを目指し移動していた。
魔族の森を抜け、海を抜け、砂漠を抜け、氷の大地を抜けてしばらくすると、アルカディアがある。
「やっと着いた…。神器を使って空間を割いて移動しても良かったけれどなるべく騒ぎは起こしたくないのよねぇ…。」
私はアルカディアに到達した。
「昔と全然様子が違うわね…。」
アルカディアは私が支配していた時と比べ、活気が無くなっていた。住人の魔物達からは生気を感じられない。まるで無理やり支配されているかのようだ。
「城に行ってみるべきかしらね。」
嘗て私が暮らしていた王城に行くことにした。城に着くと門番の騎士から道を塞がれた。
「オマエ、ダレダ。ココカラサキハ、マオウ、アドゥメル様ノ城ダゾ。」
アドゥメルという名前には聞き覚えがあった。6000年前、第六天魔王の内の1人にそのような名前の魔人が居た。
「ほう?じゃあお前達はこの国の支配者はそのアドゥメルだと言うのね?」
「ソウダ。トットトタチサレ。」
「ふーん。私に対して立ち去れとお前達は言うのか、残念ね。じゃあ死んでちょうだい。」
『破壊之神』
騎士の魔物が消し炭と化し消滅する。
「さて、勝手に私の国を支配する愚か者に罰を与えなければね。」
私はアドゥメルがいるであろう玉座の間へと向かった。
私は玉座の間へと繋がる重い扉を開く。やはり予想通り玉座にはアドゥメルが座っていた。
「誰だ?貴様。ここは王の座だぞ?」
アドゥメルが私を睨みつけてくる。
「王?随分と低い位に就いているのね。それだから国民から生気を感じられないんだわ。」
「ほう?このアドゥメルに喧嘩を売っているのか?なら買ってやろう。」
アドゥメルが玉座から降り、戦闘態勢をとる。
「さぁ、かかってこい!愚か者!」
「愚か者ってのは貴方みたいな奴のことを言うんじゃないのかしら。」
『地獄乃炎』
最上級炎魔法を私は放つ。地獄から黒い炎が召喚されアドゥメル目掛けて飛んでいく。
「ほう、最上級魔法か!しかし甘い!!」
『完全反射』
光の壁が現れ、地獄乃炎が反射され、こっちへ飛んでくる。
『破壊之神』
反射された地獄乃炎を粉砕する。
(やっぱり、このレベルの魔力じゃ魔法戦ではイマイチ決定力に欠けるわね…。)
私は神器を召喚する。
《終焉之斧》
「…!?」
アドゥメルが1歩後ろへ下がる。
「そうか、貴様は終焉の魔神。セリスか!」
「その通り。それであなたはこれからどうする?アドゥメル。」
するとアドゥメルが笑い出す。
「クックックッ。いくら魔神だとは言え。貴様のその魔力じゃ私には到底及ばんよ。」
「なるほど。死にたい訳ね。」
配下に加えてやっても良いと思っていたのに残念だと思いながら私は終焉之斧を軽く振るう。
振った終焉之斧から斬撃が飛ぶ。
「クックックッ。甘い!」
『完全防御』
しかし終焉之斧の斬撃は意図も容易くバリアを破壊しそのままアドゥメルに命中し、一瞬で城諸共塵となりアドゥメルは消滅した。
「さて、この事を国民に知らさなければ。」
『魔法放送』
指定された範囲内にいる対象の脳内に直接映像と音声を流す魔法だ。
「この国の王、アドゥメルは今、終焉の魔神。セリス・アルカディアが討ち取った。よって、この国の体制を6000年前に戻す。喜べ皆の衆。神王セリス・アルカディアの復活である!」
国中の魔族が歓喜のあまり雄叫びをあげる。
こうしてアルカディアに活気が戻った。
当然この情報が国だけで収まるわけもなく。
情報は世界中に回った。この事によって魔神が眠りから目覚めたという情報は確定されたのである。
「さて、ここに私の城を建てましょうか。」
『創造』
私は更地となった城跡に一瞬で新しく城を建てた。
そして私は玉座に座り、これからどうするか考える。
(とりあえず、死んでしまった私の側近達の復活の為に魂を集めながら完全に魔神になるまで待つとするか…。)
私の側近『終焉の騎士』の7人はそこらの魔王より強いため、蘇生には沢山の魂が必要になる。私は魂を効率よく集める計画を考えながらニヤリと笑う。
「まずは人間の国を一つ滅ぼすとしましょう。」
終焉之斧が強すぎるって話。