覚醒
「貴方の目的は何?」
私は歩み寄ってきた白髪の男に問う。
「クククク…アンデッドを一掃したと聞いて飛んできたのですがまさかあなただったとは、しかし残念です。自分の正体すら思い出せず。力も覚醒していないとは…無様ですねぇアルカディア。」
男はニタニタと笑いながら言う。
「正体?一体どういうこと?私あなたと会ったの初めてだと思うのだけど?」
「まぁ良いでしょう。貴方にはここで死んでもらいますから。」
白髪の男が魔力を解放する。
(これはまずいわ…一体こいつ何者なの?凄まじい魔力…魔力だけで地形破壊なんてできるものなの?)
白髪の男の魔力で地面が少しづつ削られていく。
すかさず私も魔力を解放する。
(相手に1度でも魔法を放たれたら即死ね…なら、せめて先に魔法を…!)
『絶対零度』
私は氷属性最高レベル魔法を放つ。周囲が一瞬で凍りつき。地面から氷の柱が出現し白髪の男を貫通する。
(やった…!)
しかし、
「全く残念だよアルカディア。この程度で俺が死ぬと思われていたなんて、、」
無傷の白髪の男が一瞬で目の前に現れる。
(ありえない、、確かに私の魔法は命中したはず!?)
『破壊之神』
(聞いたこともない魔法…!?対策が分からない!)
対策を考える暇もなく、私の四肢が一瞬で吹き飛ぶ。
血が止まらない、そして白髪の男はどこから出したか分からない巨大な剣で私を滅多切りにする。臓物が飛び出る。
(あぁ、終わりだ。私はここで死ぬのだろう。)
しかし何故か意識が途切れない。これほど大量に出血し、臓物すら飛び出ているというのに。
「まだ死なないのですか?やはり貴方にトドメを刺すのは私の『神器』が相応しいのでしょうかね!」
『神器』という単語を聞いて私は理解した。こいつの正体を、こいつは『魔神と何らかの関わりを持つ人物』だということを。
《死神之鎌》
空間から赤いオーラに包まれた巨大な鎌が出現した。
そして奴は鎌を振りかざし私の首を跳ねた。
何も無い空間に私は居た。
「ここは一体?」
数歩歩くと玉座に座った金髪の女が暗闇から現れた。
肩あたりまで伸びているその髪はこの世の物とは思えないほど美しい。
「貴方は?」
私は問う。すると彼女は答える。
「私は終焉の魔神セリス。正しくはセリス・アルカディア。あなたの前世。そして、貴方に力を継承した者よ。」
その瞬間セリスが生きた無限とも言える時間の記憶が倍速を掛けた映画のように私の頭の中で再生される。
私は全てを思い出す。魔神戦争の事を。
魔神戦争で魔神は共倒れになった訳では無い。
私はアレフに共闘を唆され、騙され、神器と同等の力を持つ聖剣によって殺されたのだった。
恐らく他の魔神もアレフに騙されて殺されたのだろう。しかし魔神達がただ死ぬ訳もなく、伝説級魔法の転生魔法を発動し、この時代に転生したということを。
「全てを思い出した?」
セリスは問う。
そして私は頷く。
「なら、覚醒完了ね。」
セリスが光となって私の中に入っていく。
気づけば私は四肢を再生し死神之鎌の一撃を躱していた。
「…ッ!?」
白髪の男、いや、魔神ヘル・クリムゾンは驚く。
「何を驚いてるの?覚醒だよ。私がただ貴方に殺されるとでも?私を誰だと思ってるの?」
「私は、セリカ、いやセリス・アルカディア。誰よりも高みを目指し、いずれ世界を支配する終焉の魔神よ。」
姿形がセリスへと変わる。
するとヘルは笑う。
「真の魔神?ご冗談を。貴方はまだ覚醒したて、せいぜい魔力も第六天魔王クラスでしょう?」
ヘルが死神之鎌をふりかざそうとする。
「神器解放!」
《終焉之斧》
私は暗黒のオーラを纏った巨大な赤黒い斧を持つ。
そしてデスサイズでの一撃を相殺する。衝撃で草原が一瞬で砂漠と化す。
「何!?何故、魔王程度に神器が召喚できる!許されない!!これは許されないですよ!!神にのみ与えられる特権を…!!!」
ヘルは激怒する。そしてさらに魔力を解放し周囲の草と大地を吹き飛ばす。
「神にのみ与えられる神器ですって?笑わせてくれますね。ヘル。終焉之斧は神の物ではなく、私の物よ。故に私が神に劣ろうと何も問題ではないわ」
「クッ…。貴様、今度こそ絶対に殺してやります!!」
ヘルの姿が瞬時に消える。恐らく魔神共通の天賦の『時間無視』だろう。魔神は時間には囚われない。故に魔神以外になら先手を必ずとる事だって可能である。
「クックックッ、アルカディアよ。甘かったですねぇ。時間に囚われている貴方に勝つ術なんて最初からなかったのです!」
見えないが声がどこからが聞こえる。恐らくこれも魔神共通スキルの『思念伝達』を使ったのだろう。
「えぇ。そうね、私には貴方に勝つ術はない。私にはね。」
その時どこからか空間を切り裂きながらこっちに飛んでくる斬撃が来た。
「グァッ…。」
ヘルがその場に倒れ込む。ヘルの胴体は真っ二つに切断された。
「い、いったい、、、」
ヘルが吐血しながら言う。
「どう?6000年の時を超えて喰らう私の一撃は。」
「ま、さ、か、、あな、たは、」
私の終焉之斧の一撃は次元・時・世界を超えどこへでも届く斬撃を飛ばすことだってできる神器。つまりヘルが今くらった一撃は、
「6000年前の私が放った一撃を喰らった感想はどう?」
ヘルの体が半壊する。
「こんなことが、あっ、ていいはずが無いのです。私が、、魔王程度の魔人に、、、やられようなど、、しかし…!」
『転移』
「く、く、く、そして!!」
転移する瞬間、ヘルは死神之斧を自らの心臓に突き刺した。
ヘルの姿が転移魔法によってどこかに消えていく。
「逃げられたわね。」
ヘルの死神之斧は文字通り魂を刈り取り掌握する神器。自らの神器で自らの魂を掌握し、体が崩壊した後に完全治癒魔法を使い、再生するつもりだろう。
「ふぅ、流石に疲れるわね。」
私は砂漠と化した大地に寝転ぶ。
「はぁ、全てを思い出したとは言っても、あっさり人間を辞めちゃうとはねぇ…。」
そう、私はもう人間ではない。もう人間の魔法使いのセリカ・アルカディアはいない。もう私は魔神、セリス・アルカディアなのだ。もう私は人間の王国には帰れない。
「なら行くとこは1つしかないわね。」
そう、私が帰れるところは1つしかないのである。嘗て魔神セリス・アルカディアが神王として君臨した魔族の国。
「帰りましょうか、『アルカディア』に。」
私は堕天使を彷彿とする鴉の羽のような翼を展開する。
そしてアルカディアを目指し、西へと飛ぶ。
ついに覚醒したセリス。
ここから主人公の名前がセリカからセリスに変わります。