原初
エルファルドとの戦闘が終わった後、私達はエリスの部屋に集まった。
「とりあえずなんとか勝ったみたいね。」
そう、私達はビシュヌ帝国との戦争に勝利したのだ。
どうやらこれは前代未聞のことらしい。
「街の損傷も最低限に抑えられた。全く、お主達には感謝しかないのぉ。」
エリスが私達に頭を下げ、礼をする。
「まあそれはいいのだけれど、エリス、約束の話は?」
「あぁ。そうじゃったな。そう言う約束だったのお。」
エリスが私達に語り始める。6000年前のあの日のことを。
それは妾がまだ幼い子供の頃だった。
「お父様。いつこの魔神様達の戦いは終わるのですか?」
私、エリスは父とそんな他愛のない会話をしていた。
「そうだなあ…。それは父さんにもわからんな。だが、大丈夫だ。父さんがエリスを必ず守ってやるからな。」
父が私を抱きしめる。
「ははは!お父様恥ずかしいよ!」
これが父との最後の会話だった。
父はその日死んだ。
父は私の眼の前で勇者アレフに殺された。
「お父様…!?どうして!?どうしてこんなことを…!!」
私はアレフに激怒し、殴りかかった。
しかし、私の攻撃はアレフには届かず、アレフに蹴り飛ばされる。
「これは必要なことなんだ。悪い…。俺は魔神戦争を終わらせなければならない。その為に邪魔者は全て排除する。」
そう言い残し、アレフは戦場へと向かって行った。
そして私はアレフをこっそり尾行したのだ。
私は見てしまった。魔神戦争の結末を。
アレフが向かった先には16人の魔神が勢揃いしていた。
そしてアレフと魔神は激闘を繰り返した後、魔神達は消滅した。
アレフが魔神を倒した訳ではない。何事もなかったかのように魔神達は一瞬のうちに消滅したのだ。
「これでよかったのでしょうか…。」
アレフは空を見上げてそう呟いた。
アレフは涙を流していた。
その後、人間達には魔神達は共倒れしたという情報が流れた。
しかし、魔神達はアレフに倒されたと思い込んでいる。
それは魔神達の6000年前の記憶の最後はアレフとの戦いだったからだ。
後にアレフは聖剣で首を断ち切り自殺した。
「つまりお主達魔神はアレフに倒されたのではない。もっと上位の存在、何者かによって魔神戦争は強制的に終わりを迎えさせられた。それが妾の見解じゃ。」
「つまり私達の真なる敵はその上位の存在ってこと…?」
複雑な心境だった。私達はただ力を求めて争っていた。
だが、もしかしたらそれすらもその上位の存在による目論みだったのかもしれない。だとしたら何故前回の魔神戦争は強制的に終了させられた…?
「そう言うことになるのお。そして魔神より上位の存在と戦うのなら、神器は全て回収する必要があると妾は思うのお。」
「何故そう思うの?」
「簡単なことじゃ。神臓がある限り、お主らは争い合うしかない。力を合わせることなんて不可能。ならその力を一つの魔神に集めてしまえば良い。」
確かにこの世界に魔神以上の存在はいない。
エリスの言っていることには同意できる。
「なるほど。つまり今は魔神の神器を集めることを目標にしてて良い訳ね。」
「その通りじゃ。それとすまぬが妾は今から少し用事がある。2.3時間席を外すぞ。」
エリスがそう言い残し、部屋を出る。
「全く、急に誘ってくるなとあれほど言ったじゃろう…。」
エリスの手から魔法陣が展開される。
『時間逆行』
「指定時間逆行…。15年前。場所指定…。アベル王国…。」
エリスの体が光のようになり、消える。
エリスが転移した先は15年前のアベル王国のとある家の前だった。
「入るぞ。」
エリスが家の扉を開く、するとエリスは眩い光に包まれ、特殊な空間に転移した。
「あら、いらっしゃい。」
そこに居たのは白い女だった。髪の毛から瞳、そして着ているドレスも白い。まるで白いキャンパスに描かれた色の塗られていない女の肖像画のようだ。
「久しいのぉ…。アルストロメリア。」
「あらやだ。その呼び方辞めてちょうだいって言ったでしょう?アルスでいいわ。」
「そうか。アルス、今回は何用じゃ?」
「そうねぇ…。今日はもう1人お客さんを呼んでるんだけど、その娘が来てからでいいかしら?」
アルストロメリアの手からティーカップが生成され、紅茶が自動的に注がれる。
「妾にはくれないんだな。」
するとアルストロメリアはきょとんとした表情をする。
「何故君にお茶を出す必要があるの?」
「そ、そうだな。」
ガチャりと扉が開く音がした。
扉に目をやるとそこには
聖剣を抜いてこちらに殺意を剥き出しにしている勇者オリビアが居た。
「ここは一体何ですか?質問の返し方によっては貴方達2人とも斬ります。」
オリビアが私たちを睨みつけながらそう淡々と言う。
「そんな物騒な物を持った君になぜ答える必要があるの?」
アルストロメリアが落ち着いた口調で言い返す。
「そうですか。なら死んでもらいます。」
オリビアが私達に向かって斬りかかってくる。
しかし、私もアルストロメリアもオリビアの攻撃を躱そうとはしない。
「いつ私が攻撃していいと許可を出した?」
すると聖剣を振りかぶっていたオリビアの位置が自動的に扉の前に戻される。
「…!?一体何を…!」
「何を驚いているの?貴方は初めからその扉の前で聖剣を抜いているだけで何もしていないよ?」
『暗天雷轟』
今度は魔法での攻撃をオリビアは仕掛けてきた。
エリスとアルストロメリアの頭上に雲が現れ、雷が降り注いでくる。
「はあ…。全く、いつ私が許可を出した?聞き分けのできない子は嫌いだよ。」
雷が降り注いだというのエリスとアルストロメリアは無傷だった。
正確に言えば最初から魔法など発動してなかったのである。
「2度も私に攻撃をしようとしたこと。後悔させてあげるわね。」
アルストロメリアが指を弾く。
その途端、オリビアの体が引き裂かれる。
しかし、オリビアは天賦の恩恵で復活する。
「あぁ。懐かしいわね。アレフのスキルね。」
アルストロメリアがもう一度指を弾く。
すると空から『獄天槍貫』が降り注いで来た。
獄天槍貫がオリビアを貫く。
しかし、オリビアは先程と同様に復活した。
「何度やったって無駄ですよ。」
「そう?じゃあ試しに自分の残機でも確認してみたら?」
するとオリビアが何やら驚き焦ったような顔をする。
「一体…?何をしたのです!?」
「驚いたかしら?まあ無理もないわ。貴方の残機残り一個だものね。」
相変わらず恐ろしい奴だ。アルストロメリアは今の一撃で勇者の残機を全て消費させたようだ。
「まあ貴方にはこの戦いに生き残ってもらわないと困るのよね。」
パチンとアルストロメリアが指を弾く。
「私は最初から君に対しては何もしていない。」
「貴方は何者なのです…?」
オリビアの残機が元の状態に戻ったようだ。
「そうねぇ…。答えるのなら全ての『原点』ってとこじゃないかしら。」
オリビアが何かを察したように目を見開く。
「やはり貴方がセリス。いや、セリカ・アルカディアの母親。アルス・アルカディアですか。」
オリビアが再度聖剣に手をかける。
「まあそういうことになるわね。厳密には少し違うけれど。」
アルストロメリアが魔法で椅子を生成する。
「まあ立ち話なんてしないで座りなよ。君は私が招待した客人の1人なんだから。」
オリビアは聖剣にかけた手を離し、アルストロメリアが用意した椅子に座る。
「それで貴方は私に一体なんの用があるんですか?」
オリビアの問いに対しアルストロメリアは不敵な笑みを浮かべて答える。
「貴方には私の娘。セリス・アルカディアがこの戦いに勝利できるように協力して欲しいの。」
オリビアがテーブルを叩き、立ち上がる。
「ふざけるな!私にあの殺人者に協力して欲しいだと?お前、あの魔神が何をしたのか知っているのか?」
「クロムウェル王国の国民全員を殺し、滅ぼした。」
アルストロメリアが即答する。まるで何も悪いことなんてやっていないと主張するように。
そしてアルストロメリアはニヤリと笑う。
「大体君は感謝しないといけないんだよ?セリスに。」
「どういうことだ!何故私がセリスに感謝しなきゃ行けない!」
アルストロメリアが舌舐めずりをする。
そして笑いながら答える。
「だってアナタ、セリスがクロムウェル王国を滅ぼなさなければとっくに死んでるんだから。」
オリビアは何が何だか全く理解できていない様子だ。
しかし、アルストロメリアの奴、クロムウェル王国が滅んでいなければオリビアはもう死んでいるとは一体どう言うことだ?
「その話、妾も気になるな。」
「あら?エリスが気になるとは意外ね。」
するとオリビアハッとした表情を浮かべる。
「その容姿にエリスという名前…。貴方はもしかしてヴァイラス王国の…。」
なんだ妾が王だということに気づいていなかったのか。
なら、ここは王の威厳を示す為に名乗っておかなければ。
「そう!妾こそヴァイラス王国の国王!エリ」
「エリス•ドラグーン。」
アルストロメリアに妾の自己紹介は遮られる。
「なっ!お主!何故妾の威厳ある自己紹介を遮るのじゃ!」
「たがたが一つの国を治めているだけで図に乗るのは少し気に食わないからねぇ。」
ぐぬぬ。とした表情でエリスはアルストロメリアを睨む。
「まずクロムウェル王国の国民全員にはとある術式がかけられていた。」
アルストロメリアが空中に手をかざすと紋章が浮かび上がる。
「これだ。この魔法術式にはゾンビ化の魔法と絶対命令の魔法の効果が付与されていた。」
「その命令っていうのは一体なんなのです?」
アルストロメリアがオリビアに向かって指を指す。
「貴方を殺すように命令させられていたわ。例え何度死んだとしてもね。」
オリビアは困惑している様子だ。それもそうだろう。共に協力関係を結び、魔神を討伐すると約束した仲間が自分を殺すように仕向けていたという事実に直面しているというのだから。
「つまり、アイルとクロムウェルは最初から私を殺すつもりで接触してきたということですか?」
真剣な顔つきでオリビアが問う。
「それはどうだろう。なんせアイルの正体はあの暴力の魔神とも呼ばれているアイン•ビシュヌなんだから。」
ドン、と机を叩きオリビアが立ち上がる。
「アインですって!?」
「あぁ。アインだ。これはあくまで私の推測なのだけれど彼ら君達人類を利用して魔神戦争に勝利しようとしているのではないのかな?」
確かにただでさえ魔神最強と謳われているアインに勇者陣営、つまり人類が味方につくとなると勝利は確定と言えるだろう。
「まあそんなことはどうでもいいんだ。後々どうにでもなるしね。さて本題に入ろう。」
アルストロメリアが立ち上がり指を弾く。
空間が変異し、私達は気づいたら宇宙空間に居た。
「ここは…?」
「第24宇宙。たった今創った。」
アルストロメリアがオリビアに歩み寄る。
「君にも話さないといけないからね。私達の目的を。」
アルストロメリアが打ち明ける。
この戦争の真の目的を。