白銀の騎士と霧の騎士
ーー6000年前
「セリス様…!本当にお一人で行かれるのですか!?」
「我らも最後の戦いに連れて行ってください!」
ザリウス含め、終焉の騎士の者達は一人で勇者と決着をつけると言ったセリスを全力で引き留めた。
だが。
「もう良いんだ。それに私は必ずここに帰ってくる。そう約束しよう。全ての神器を勝ち取り、世界を救うのは私だ。」
「セリス様…。ですが。」
するとエルファルドがザリウスの言葉を遮る。
「もういいだろう、ザリウス。セリス様は帰ってくると俺たちに約束してくれたではないか。」
「確かに…。そうだな。我が主を信じるとしよう。」
だが結局セリス様が城に帰ってくることは無かった。
「ちっ。あの野郎負けたのかよ。クソが、もういい、俺降りるわ。」
「エルファルド!貴様!!」
「勇者なんて雑魚に負ける奴にはようはねぇ。俺は本当の強者の下につきたいんだ。」
「いつか後悔しても知らんぞ。」
そのままエルファルドは俺達の元を去った。
――いつかセリス様が復活なされたとしたら。
――その時は。
――俺がお前を殺す。
主を失った俺とイリーゼ以外の終焉の騎士達は世界中に散らばった。
だが、俺とイリーゼは主の復活を信じ、眠りについた。
念願だった。6000年経った今でも俺はセリス様を裏切ったエルファルドを許すことができなかった。
「さて、さっそか始めるとしよう。エルファルド。」
「あぁ。俺もお前をずっと殺したかったんだぜ。霧野郎」
両者が共に剣を抜く。
そして同時に斬りかかる。
「ウォォォォォォォ!!!死ね!ザリウス!!!」
「甘いぞ…!」
魔剣と魔剣がぶつかり合い衝撃が空間に走る。
城全体が揺れるほどの衝撃だった。
「流石終焉の騎士の騎士団長様だな。まあその程度じゃ俺は倒せないがね。」
『フレイムバスター』
魔剣グレイシスが炎に包まれる。
「相変わらず炎が好きなんだな。」
「ふっ。以前の俺の刃とは違うぞ。俺は貴様らと違い、6000年間も鍛え続けたんだ。」
エルファルドが地面を蹴り、ザリウスの間合いに入る。
「取った!」
その剣筋は以前の物とは全く違った。6000年前の力任せなエルファルドの剣筋と違い、軽く、速さが出ていた。
だが。
魔剣グレイシスはザリウスの首を落とすことが出来なかった。
ザリウスの甲冑に阻まれ、肉を削ぎ落とすことが出来なかったのだ。
「クソが。何故切り落とせない…?」
「簡単な事だ。お前の剣筋には以前のような力がない。速さを求めて力を捨てたのは失策だったな。」
ザリウスがエルファルドへキッパリとそう言い張る。
「以前のお前だったら俺の首を落とせていただろうに。」
ザリウスの甲冑が青い炎に包まれ、炎と共に消える。
「最も、それは以前の私が相手だったらの場合だがね。」
ザリウスの甲冑の中身は霧だった。
黒い霧が人型を保ってその空間には存在していた。
「先程、俺を霧野郎だと呼んだな。俺の正体はイリーゼとセリス様しか知らないはずだが?何処からその情報を貰った?」
「し、知るか!そんなこと!」
エルファルドはザリウスの真の姿を見て明らかに怯えている。
恐らくザリウスの正体が霧だと言うことを何者かから聞いたがこれほどのものだとは思ってもいなかったのだろう。
あれは終焉の霧だ。嘗て6000年前、セリスの魔法によってアルカディア周辺を覆っていた霧だ。
神級魔法以外の魔法は全て書き消し、いかなる剣ですら切れない。そして、霧に触れた対象は魔神でもない限り消滅する。
「続きをやろう。エルファルド。6000年も鍛え上げたお前の剣だったら甲冑を捨てた俺を切れるかもしれんぞ?」
ザリウスが魔剣に魔力を込めるレイヴァティン・ギルスが暗黒の霧に包まれる。
「やっと本気を出せるな。レイヴァティン。では、行こう。」
両者が共に時間を無視する。
魔剣と魔剣がぶつかり合う。
だが、先程のように剣同士が衝突し、衝撃が走ることは無かった。
魔剣グレイシスがレイヴァティン・ギルスに触れた瞬間、溶けるように切断されたのだ。
そしてそのまま、魔剣レイヴァティン・ギルスはエルファルドの体に向けて真っ直ぐ下ろされる。
魔剣グレイシスと同様に白銀の甲冑も溶けるように切断され、エルファルドの体を真っ二つに切った。
「…ッ!?一体何を…!!」
体を真っ二つに斬られたというのにエルファルドはまだ存命していた。
「流石魔人と言ったところか。しぶといな。」
「何が起こったんだ…?俺…は。死ぬのか…?」
「最後に言ってやろう。先程、以前のような力があれば俺を切れたと言ったが、それだけでは無い。」
魔剣レイヴァティン・ギルスをエルファルドの首に向ける。
「お前の剣には信念がない。」
魔剣レイヴァティン・ギルスがエルファルドの首を落とす。
やがてエルファルドの体は霧のようになり、消滅した。
「馬鹿野郎…。」
最後にザリウスはそう言い残し、セリスの元へ向かった。