開戦
1時間後私達は城内で国民に自らの正体と現在の状況を説明することになった。
「よく集まってくれた!皆の衆。皆に聞いて欲しい話がある!」
エリスがそう口を開くと、少しザワついていた周囲がシーンと静かになる。
「実は数日前、ビシュヌ帝国から宣戦布告を受けた。」
すると静かになっていた国民達は騒ぎ始める。
「嘘だろ?」
「俺たちもう死ぬのか…?」
「終わりだ…。」
「いや、セリアさんやゾルザさんが俺らにはいるから大丈夫だろ…」
なるほど。ここまでビシュヌ帝国とやらは国民達に恐れられているのか。
「そこで、この国に協力してくれる助っ人を連れてきた!」
裏に隠れていた私は国王の横に立つ。
「セリアちゃん…?どうしたんだ?」
冒険者達が何やら困惑している。
「紹介しよう。彼女の名はセリス・アルカディア。神話の時代に終焉の魔神と恐れられていた魔神じゃ。そして…」
ザリアの姿をしたザリウスとゾルザの姿ではないイリーゼが裏から出てくる。
「その配下のザリウスとイリーゼじゃ。」
ザリウスが幻覚魔法を解き、元の姿へ戻る。
私はそれに合わせて黒翼を展開する。
国民達の顔が青ざめる。
「ザリウス…!?イリーゼ…!?セリスだって!?」
「魔神と協力なんてできねえよ!!」
「ふざけんな!!」
「俺達を騙していたのか…!?」
やはりそうなるか。魔神と人間は本来なら相反する存在。
つまり協力するなど今までの常識の範囲ではありえない話だった。
「静まれぇい!!!」
エリスが大声で叫ぶと国民達が静まる。
「ビシュヌ帝国は皆が知っているように強い。このまま戦えば我らは間違いなく死ぬじゃろう。」
エリスがさらに一層声を大きくし、叫ぶ。
「皆殺しにされるくらいなら少しでも生き残れる可能性にかけてみないか!」
そうすると国民達はなにかに気づいたのようにハッとした表情をし、
「確かにその通りだ!」
「魔神の問題はその後に考えればいい!」
「俺はやるぞ!!」
と急にやる気を出し始めた。
「流石長生きしてきただけあるわね。」
「ふっふっふっ。どうだ!これが妾の力じゃ!」
国王をやっているだけある。今まで数々の国王を見てきたが、これほどの統率力を持っている者はなかなかいなかった。
幼女のような見た目からは本当に考えられない。
「皆、少しの間かもしれないけどよろしくね?」
私はそう言うと皆はそれを受け入れてくれた。
5日後
今日は開戦の日、まだ肝心の満月は上がっていないが、早速非戦闘員の避難が開始していた。
「こっちだ!」
「戦えない者は城に避難しろ!」
冒険者や兵士達が非戦闘員を1人も残さぬように誘導する。
「大変そうね。」
私とエリスはそれを城の出窓から眺めていた。
「そろそろかの…。」
そうエリスは言うと何やら魔法を唱え始めた。
『完全防御結界』
おぉ。嘗てエリスの祖先が魔神同士の戦いから領土を守るために使っていた彼らの固有魔法だ。
故にこれを使えるのはドラグーン家の者のみである。
指定した範囲を結界で囲い、外敵からの攻撃を防御する。
恐らく城を防御するためだろう。
「懐かしい魔法ね。」
「そうじゃろう?妾がまだ赤子だった頃、父のこの魔法で私はお主達の戦いから身を守っていたのじゃぞ。」
神話の時代は今と比べ、人も魔族も自らを守る力を保持していた。故に魔神同士が争っていても現代程の損害は出なかった。
「セリス。この戦いが終わったら話がある。」
エリスが突如私にそんなことを言う。
「話?別にお礼なんていいわよ?」
「いや、お礼などではない。寧ろお主からしたらこの戦いなんかより重要なことじゃろうからな。」
「勿体ぶらずに今すぐ話して頂戴?」
「いや、無理じゃな。これも交渉じゃ。この国を守ってくれたら話してやろう。」
「しょうがないわね…。約束だからね?」
「うむ。」
全ての非戦闘員の避難が完了した頃には日が沈みかけていた。
戦闘員を全て城の大広間に集めた。
「予告状通りでは、もうしばらくするとビシュヌ帝国がこの国に攻め入ってくる。だが皆の衆、相手がなんであろうと妾達は勝って生き残られなければならない。決死の覚悟で戦うのじゃ!」
「オオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!」
集められた戦士達が雄叫びをあげる。
今、開戦の幕は切って落とされたのである。