吸血姫
ヴァイラス王国に帰還したセリス達はギルドに報告へ行った。
「大量発生したアンデットの討伐完了、確認しました!」
どうやら使い魔を使って現場の確認をし、本当に依頼が達成されたのか調べるようだ。幸いなことに私達がヘルと戦ったのはペルソナルド草原ではなく、ヘルが作り上げた『創造世界』だった為、地形の破壊などはなく事が大きくなることはなかった。
「では報酬のこれを。」
受付嬢が私に袋を渡してくる。私はそれの中身を確認する。
「6000金貨。確かに頂戴したわ。」
6000金貨、せいぜい1週間分の食料が賄えるぐらいの報酬だ。まぁ金貨なんて魔法で無限に作れるものなのだけど。
「それとセリア様。国王様からお手紙をお預かりしております。こちらもお渡ししておきますね。」
受付嬢から手紙を受け取る。国王に何か言われるようなことはした覚えはないが一体何が書いてあるのだろうか。
「セリアちゃんすげーな!初仕事でいきなり国王から感謝状か!?」
話を盗み聞きしていた冒険者達が騒ぎ始める。
騒いでるうちにまぁ読んでみようか。
私は国王から貰った手紙を開き読む。
セリア。いや、セリス・アルカディア。
城へ来い。そこで話をしよう。
それだけ書かれていた。
(接触すらしていない国王に正体がバレている…!?)
「城へ来て欲しいですって。」
などと言い、私は周囲の冒険者に手紙の内容を悟られないように誤魔化す。
「行くわよ。ザリア、ゾルザ!」
「おう!!!」
私達は国王に言われた通りに王城へ向かった。
城の見張りの門番は私達をすんなりと通してくれた。
どうやら私が魔神だということは国王以外しらないようだ。
城内のエントランスに何やら私たちを待っていたらしい男が居た。
「どうも!セリア様、ゾルザ様、ザリア様。わたくしは国王様から貴方達を部屋まで案内するように伝えられたものです。それではこちらへどうぞ。」
どうやらすんなり王の元へ連れてってくれるらしい。
私を魔神だと知っていて私たちを招待するなんて余程力に自信があるのか、それとも何やら思惑があるのだろうか。
長い廊下を歩き、大きな両開きの扉の前で止まる。
目的地はここのようだ。
「では私はここで失礼します。扉の奥で王がお待ちです。」
案内してくれた男はそう言い残しどこかに去っていった。
「じゃあ、行こうか。」
大きな扉を押し開ける。
「えっ。」
思わずそんな声が漏れる。
それもそうだろう。何故なら玉座に座っていた国王があまりにも恐ろしく
可愛らしかったからだ。
「何がえっ。じゃ!わらわをなめておるのか?」
玉座に座っている可愛らしい少女が口を開く。
「国王だと聞いていたから、てっきり男だと思っていたのだけれど?」
「ほう。言ってくれるでは無いか魔神セリスよ。それとお主ら2人もそのような変装をやめてはどうかの?」
イリーゼとザリウスが元の姿へ戻る。
「ゾルザ、既に乗っ取られていたか。まぁ良い。我こそがヴァイラス王国の国王、エリス・ドラグーンである。」
ドラグーンという名には聞き覚えがあった。6000年前の神話の時代、この周辺の地帯を支配していた吸血鬼の貴族の家の名だ。
もし仮に彼女がドラグーン家の末裔だとすれば凄いものだ。いくら寿命がないヴァンパイアと言っても6000年間も血を途絶えさせないでいるのは難しい。
「貴方吸血鬼ね?まだドラグーン家が残っていたとは思わなかったわ。」
するとエリスが少し悲しそうな顔をする。
「流石に我の顔は覚えておらぬか…。それもそのはずよな。お主と最後にあった時はまだ我は赤子だったのだから。」
この娘は何を言っているのだろう。この娘もこの時代に転生してきたとでも言うのだろうか。
「ドラグーン家はあれ以来繁栄しておらぬよ。妾は6000年前から現在まで生き続けた者じゃ。故にお主がこの国に入った時にお主が隠していた微量な魔力を感じ取り魔神セリスがこの国に入ってきたと知ったのじゃ。」
吸血鬼には寿命がない。しかし、6000年間も生存し続けるのは困難だ。何故なら人間の血を定期的に吸わなければならないということや太陽に弱い等吸血鬼ならではの弱点があるからだ。
「それで貴方は私たちに一体何をさせたいわけ?」
するとエリスは少し間を置いて
「妾はお前達がこの国に定住することを認める。その代わりにこの国に危機が訪れた時助けて欲しいのじゃ。」
国王からの認定があれば、確かにヒソヒソと姿を変えて活動する必要はなくなる。しかし、それではわざわざ国を捨ててまで冒険者を始めた意味が無くなる。
「私達が姿を変えて活動する理由は人間に敵対されるのを恐れてるわけじゃないの。だからそれは私達にはなんの利益にもならないわ。」
「そうか、だが頼む。この国を救ってくれぬか…!」
仮にも6000年も生きながらえて来た吸血鬼。その実力は並の魔王以上はあるだろう。それなのに何故わざわざ私達に助けを求めるのかわからない。
「貴方ほどの実力があれば、魔神以外には勝てると思うけど?」
魔力を確認した所、ザリウスと互角。これほどの実力の者がいたとは…。
「それは現代の常識の範囲での話であろう?相手は『ビシュヌ帝国』であるぞ?」
ビシュヌという名前には聞き覚えがあるがビシュヌ帝国という国は聞いた覚えがない。それに、アイン・ビシュヌは自らの領地を持たない為、ビシュヌ帝国はここ6000年以内に出来た国ということになる。
「ビシュヌ帝国?聞いたことないわね…。アインとは関係があるの?」
私は疑問に思ったことをエリスに問う。
「ビシュヌ帝国はアインとは関係がない。しかし、ビシュヌの名を名乗るに値する兵力を有している。この世界で最も力を持っている国と言っても過言ではないじゃろうな。」
成程。それほどの強者が魔神以外にいるとしたらそれこそ本当の脅威になりえない。興味もあるしこの話に乗るとしよう。
「分かったわ。あなたの話聞いてあげる。」
するとエリスは安心したかの表情を浮かべる。
「本当か!良かった!じゃあまずはこれを見てくれ。」
エリスが一枚の手紙を渡してくる。そこに記されている文字を読む。
「次の満月の夜。貴様の国を蹂躙し死を届ける。国民諸共皆殺しだ。」
「これは3日前にビシュヌ帝国から送られてきたものじゃ。そして次の満月の夜は5日後。つまり5日後この国で戦争が起こるのじゃ。」
「周辺国家からの援軍は寄越せないの?」
「ダメじゃ。ビシュヌ帝国を相手取るなんて無謀だと言って皆恐れて手を出せん状態じゃ。」
なるほど。それで私達を頼ったわけか。
「じゃあ、まずは作戦を立てるとしましょう?ザリウス、イリーゼ何か意見はある?」
戦闘について私より詳しい2人に問う。
「そうですね…。国同士の戦いという訳ですから冒険者と兵士双方を上手く使って総動員で戦うべきかと。」
確かにザリウスの意見には賛成だ。こちらの軍事力が劣っているというのならば使える物は全て使っておいた方がいいだろう。
「私的には冒険者と兵士は使わずに住民の避難を優先させて戦闘は私達だけで良いと思います。戦力に余りならない冒険者達は戦場に立たせない方が良いかと。」
確かにイリーゼの意見も正しい。あまり戦力にならない彼らを戦場に出すと帰って邪魔になる可能性がある。
「なるほど。二人の意見どちらとも正しいと取れるわね。うーん…悩ましい。エリスはどう思う?」
「敵の戦力は多い…。その点からして総動員で戦った方が良いと思うのぉ。だいたい避難させたとして、住民達の安全は保証できないではないか。」
なるほど決まりだな。私達はザリウスの意見の通りに総動員でビシュヌ帝国と戦うことにした。
「すまぬが。ゾルザにその身体を返してはくれぬか?彼は貴重な時間停止の使い手じゃ。戦力にはなると思うのじゃが。」
「別にいいけど、イリーゼが使い無くなるわよ?それこそ痛手じゃないの?」
するとエリスが魔力を解放する。
エリスの手のひらからオリハルコン、アダマンタイト等の金属が生成され、金属同士が合体し人型のゴーレムへと成り代わる。
「これをイリーゼの身体として使ってはくれぬだろうか?ゴーレムの核として1000年の時を超えた魔法石を使っておる。魔力面にもイリーゼの相性とも良いはずだが。」
まさかこれほどのゴーレムを作れる者が魔神以外にいるとは思わなかった。なんならこのゴーレムを使った方がイリーゼは真なる実力を発揮できる気がした。
「イリーゼ。そのゴーレムを使いなさい。ゾルザに身体を返してあげて」
「了解です。」
イリーゼの魂がゴーレムに憑依する。ゴーレムが形を変えイリーゼの姿になる。そして同様に先ほどまでイリーゼの姿だったゾルザの身体が元の姿に戻る。
「やっと解放されたのか…?」
どうやら身体を乗っ取られていた間にも意識はあったようだ。
「よかったのぉ。ゾルザ、先程までイリーゼがその身体を使っていたお陰か、身体面、魔力面などが大幅に成長しておる。」
確かにゾルザの魔力は先程と比べ物にならないほど増幅していた。
「ゾルザ、ごめんなさいね?勝手に配下に身体を乗っ取らせちゃって。」
「あ、あぁ。それはいいのだが。エリス様、魔神と協力するなんて、、正気ですか?」
「あぁ。正気じゃよ。もうこの国はそこまで追い込まれているんじゃよ。」
「成程、この国を守るためには仕方の無いこと、ですか。そうと決まれば住民達にこのことを説明する必要があるのでは?」
確かにそうだ。総動員で戦っている中、突如として魔人セリスが出現したら戦闘員達が混乱しかねない。
「確かにそうね。エリス、今からこの城に国民を集めることは可能かしら?」
「あぁ。そういうと思ってさっき国民に魔法放送で1時間後城前に集合するように命令しておいたぞ。」
意外とこの娘有能だな。
こうして私達は1時間後国民達に自らの正体を明かし、現在の状況を説明することになった。