終焉の魔眼
『終焉の魔眼』
セリスの瞳の色が赤から青へと変わる。
これが終焉の魔眼。セリスが7000年間封印し続けてきた禁断の能力。セリスの魔眼からは魔力ではない何かが放出されている。
そして眼前に見えるのは何度も肉体の崩壊と蘇生を繰り返すヘル。これこそ、終焉の魔神セリスの天賦であり権能の一つ『終焉の魔眼』その能力はあらゆるものの終着点へと対象を強制的に引きずり込むというもの。
「流石にそろそろきついわね…。」
セリスがこの魔眼を封印してきたことには当然理由がある。それは単純に長時間の開眼をすると制御ができなくなるという点にある。
(どちらが先に限界が来るのか勝負ね…。)
30秒程経ったがヘルは死神之鎌で刈り取った魂を使用し、何度も蘇生を繰り返している。
遂にセリスが魔眼を制御できる限界時間に到達した。
(もう限界ね…。)
セリスが魔眼を閉じようとする。
しかし、魔眼を閉じようにも閉じることができない。タイムオーバーだ。
「…!?」
そう、終焉の魔眼がついに制御できなくなってしまったのだ。
先程よりも魔眼から溢れ出る何かが一層濃くなる。
そして、ヘルのみならず周囲の地形も破壊され始める。
魔眼が選ぶ対象がヘル一人から周囲の地形へと増えたのだ。
周囲のマグマが蒸発して消える。ヘルのテリトリーは完全に崩壊し、虚無空間が広がった。そう、そこには何もない。あるのはただ無限に続く闇のみ。
テリトリーが破壊されたことにより、ヘルに付与されていたバフ。セリス達に付与されていたデバフが解除され、身体が軽くなる。
もうすでにヘルは1万回以上肉体の崩壊を起こしているというのに、再生が止まらない。どうやらしばらく見ない間に数多の生物の魂を刈り取って保管していたようだ。
「勇者のスキルの上位互換ね…。」
勇者は100回という回数の上限の中でなら幾度も復活できる。しかし、ヘルは刈り取った魂の数という上限の中でなら何度でも復活できるのである。
そして、蘇生に使用される魂というのは人間や魔族だけではなく、植物や、動物、昆虫などからも採取できる。
やがてこのままでは敗北すると悟ったのかヘルが行動を起こした。なんと肉体が崩壊しているというのに蘇生と崩壊を繰り返しながら私に物理攻撃を仕掛けてきたのだ。
「なんて執念なの!?」
ヘルの拳が私の肋骨を砕く。すかさず私もヘルの肉体を終焉之斧で吹き飛ばす。しかし、それでも奴は肉体を蘇生し、私に襲いかかってくる。
まさにこれこそゾンビである。
ヘルがスキルで身体を霊体化させる。だが、それも終焉の魔眼の前では無駄な行為でしかない。即座に身体が崩壊し、また元の身体に戻る。
「何故だ!?何故何故何故!?!?一体どうしてだと言うのです!?」
再びヘルが襲いかかってくる。今度は死神之斧で攻撃を仕掛けてくる。
私はそれを寸前でかわし、ヘルに遠心力をかけた蹴りを喰らわせる。
ヘルが地面に転げ回る。そこにすかさず私は上から終焉之斧で斬り掛かる。
ヘルが真っ二つに切断される。しかし即座に再生する。
「何をしようが無駄です!貴方は私を殺せません。」
「そんなのやってみないとわからないじゃない。」
恐らくヘルはまだ大量の魂を保有しているのだろう。
ならばこのまま魔眼を解放したまま時間をかけて倒していては埒があかない。
(狙うは神臓目掛けた渾身の一撃…。一撃で終わらせる!)
恐らくヘルも同じことを考えていたのだろう。ヘルは身体の崩壊と再生を繰り返しながら死神之鎌を構えて戦闘態勢を取る。
「これで終わりです!」
『地獄之審判』
死神之鎌から真っ赤なオーラが放たれる。
セリスが終焉之斧を魔眼で凝視する。
セリスの魔眼から青い光が終焉之斧へと注がれる。
『終劇』
終焉之斧から蒼のオーラが溢れ出る。
両者共に空間を蹴り前へ飛び出す。
神器同士がぶつかり合う。しかし、先程のように相殺される訳もなく、勝負が決まる。
ヘルの体が砕ける。しかし先程のように身体を再生することはできない。理由は一つ、対象をヘルの命にしたからだ。魔眼は終着点へと導く対象を大まかに決めることしかできない。しかし、終焉之斧を経由して使用することによってより細かく対象を定めることができる。
「私の負け、ですか。」
身体が砕けている最中だというのにヘルが口を開く。
「そうね。私の勝ちよ。」
するとヘルは少し笑う。
「フッ。まぁ、正面から戦って負けたんですから悔いはない…です。この力、貴方に任せます。」
「えぇ。貴方は私の中でこれからも生き続ける。貴方の力頂戴させてもらうわね。」
「それと…。」
もう身体の限界を迎えているというのにヘルはまだ口を開く。
「何?」
「ラピスを殺してください…。私の国民の…仇…を…。取ってください…。」
これがヘルの最後の言葉だった。
「分かったわ。貴方の願い、叶えてみせる。」
クリムゾンまでラピスの被害に遭っていたとは思わなかった。
何せラピスは争いをあまり好むタイプではない。多方に喧嘩を売るなど考えられない。
(裏に誰か居るかも…)
などと思いながら私はヘルの砕けている身体から神臓を引き抜き、それを口から取り込む。
ヘルが消滅する。
《死神之鎌》
セリスの手元に死神之鎌が顕現する。
「継承、完了ね。」
ヘルの肉体は滅んだが、それでも彼は私の中で生き続ける。
「さて、帰りましょうかね。」
私達は終焉之斧で空間を裂き、ヘルの創り出した『創造世界』だった空間から脱出した。
「継承おめでとうございます。セリス様!」
「流石です!」
「帰ったら祝賀会でもしようかしらね。」
ラピス•エルドラド。一体何を考えているかわからないが必ず殺す。
――そうセリスは決心した。