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夏祭りの日。
今年も、いつもの通りに、弟達や幼馴染、友達と一緒に行くことになってる。アタシと友達は浴衣を、弟達は甚平を着てる。
「ほら槙乃、はやく行こう?」
「花火は良い場所取らないと、すぐ埋まっちゃうんだよー」
友達の声がなんだか遠い。
「槙乃、一体どうしたんだ。なんだかいつもと違うみたいだな」
ぼんやりしていると、幼馴染のけいが声をかけた。
少し外に跳ねる癖のある黒い髪に、穏やかな黒い目、アイツと違って身長差もあんまりないし、無駄口はあまりしなくて落ち着きがある。
……ホント、アイツと逆みたいな存在、かも。まあ、アイツと同じように頭は良いし、運動も出来るけれど。
「ん……なんでもない」
……なんとなく、ホントは天澄と一緒に行きたかった…かも。とか思ってた。……今更だけど。
あんな断り方をしておいて、今更誘うなんて事もできないし、もしかしたらすでに誰かとの予定を入れているのかもしれない。
だから、アタシは天澄に連絡を入れる事が出来なかった。……というか、アタシとアイツの関係性ってなんだろ。……友達……じゃないな。たぶん。
「そうか。まあ、体調を崩したとかだと後々面倒だから、気を付けろよ?」
結構本気で心配しているみたいだけれど、深刻な感じにならないように、冗談まじりに、けいはそう言った。『後々面倒』っていうのは友達や弟、妹たちに文句を言われる事を言ってる。
けいの、真顔で冗談をいう所なんて、昔から変わらないな、とか思いながら
「なに、それ」
思わず、笑ってしまった。……もしかすると、アタシの緊張、というか思い詰めたような顔をゆるめようとしてくれたのかも。
「……っ!?」
急に、なんだか鋭い視線を感じた……ような、なんだか、嫌な感じがした。
夏祭りの日。
今年は、いつもと違って、ボクは一人だった。色鮮やかな浴衣や甚平を着てる人々が多いケド、ボクは地味な服装でいる。今日はあまり目立ちたくなかったからね。
「ほら槙乃、はやく行こう?」
彼女の家の方向に近い場所で夏祭りが始まるのを待っていると、彼女の名前が聞こえた気がして、ボクはその方向に向かう。
この夏祭りの一番の見どころは終盤辺りで打ち上げられる花火だ。良い場所を取ろうとして、いつも人でごった返している。
ああ、人混みが鬱陶しい。
まるでボクの邪魔をしているみたいじゃないか。苛立っていると、アイツ……まきの幼馴染らしき後ろ姿が遠くに見えた。
少し外に跳ねる癖のある黒い髪に、ボクと違って高過ぎない身長。無口気味なところが『落ち着きがあって好き』とか言われてるっぽいネ。
……ホント、ボクと逆みたいな存在だネ。残念ながら、頭とかそこいらは逆じゃなくて、そこそこに文武両道のようだけど。
そして。
その横に、まきが居た。浴衣を着てるみたいだね。ちょっと遠いケド、落ち着いた色合いと大ぶりな花の絵柄が大人っぽくて似合ってるネ。もう少し近くで見たかったけど。
……ボクの方がまきと一緒に行きたかったのに。
あんな断り方をしておいて、今更誘うなんて事もできないだろうし、彼女は照れ屋さんだから偶然を装って夏祭り中に出会うって事も考えなくもなかったけど、他者のいる状況下なら、ボク達の仲じゃちょっと挨拶してすれ違うだけになりそうだよネ。
……というか、ボクとキミの関係性ってなんだろうネ。……友達……じゃあないね。ボクはもっとキミに近付きたいから。
「なに、してる……の、かな」
その彼女の様子を見て、呆然とした言葉が溢れた。彼女が、アイツと笑い合っている。ボクには絶対に見せないような、緩んだ表情で、談笑している。
「……」
うん、これは嫉妬。
ボクは、彼女に執着しているみたいだ。今更、だよね。
どうして、出掛ける約束を言ってくれなかったんだろう。でもまあ、理由は聞かないでおいてあげる。だってキミには、ボクが邪魔みたいだもんね?
一通り、祭りを楽しんでいる彼女を見た後、ボクは人混みに紛れるようにしてそのまま去る事にした。