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図書館へ行くとやっぱり、というか、普通に、同級生なんて居なかった。こんな早くから勉強するやつは、もっと頭の良い学校とか、塾とか行くだろうし。
「キミ、好きな人居るんだってネ?」
少し奥まった所の四人掛けの席を選び、座る。万が一同級生とか同じ学校の生徒に見られるとか、そうなるとなんだか恥ずかしいし。
「……それ、どこから」
顔を上げると、天澄はうさんくさい笑みを浮かべていた。
「色々♡」
「……」
もしかして、あの時アタシの告白の様子を見てた?アンタの荷物教室に残ってたし……
「……アンタの、そういう所嫌い」
聞かなくても良いところを、フツーはあえて聞かないで黙っててくれそうなことを、わざわざ聞きにくるとか。
「ねぇ、どんな人が好きなの」
「教えるわけないでしょ」
アタシの斜め前に座りながら、天澄は聞く。恥ずかしくて、言えるわけがない。
「『あまり喋らないやつが好き』とか、『身長は高すぎない方が好み』だとか言ってたケド、ボクに対する当て擦り?」
「そ、それは……」
アンタに諦めて欲しかった時に言ったやつだし、特に誰なんて、考えてなかった。
「……もしかして、……黒木 彗?」
少し低い声で天澄は名前を出す。確かに幼馴染だし、結構仲は良いけど、ただの面倒見が良い同級生くらいにしか思ってないし!だから、
「っ、アンタにはカンケーない、でしょ!」
と、否定の言葉を叫んでしまった。
「ここ、図書館だよ」
しー、と立てた人差し指を口元に充て静かにするように諭す。
「冗談なのに、ムキになっちゃって」
なんて笑いながら、天澄はカバンから明日のテスト教科の教科書を机に並べる。
「……アンタ、そういうのホント良くないよ」
あまりにも酷い、冗談だ。
図書館には、やっぱり、同級生なんて一人も居なかった。三年生や一年生が、ちょっと居たケド。受験に向けて頑張ってる、って感じカナ?
「キミ、好きな人居るんだってネ?」
まきは少し奥まった所の四人掛けの席を選んだ。万が一知り合いに見られるのを考えてのコトだと思うケド、ボクと二人っきりで人の目が届きにくいココ選ぶの、悪手だと思うよ?
「……それ、どこから」
顔を上げるまきに、微笑んでみせる。
「色々♡」
「……」
もしかして、と、彼女は何か思い至ることがあったのかボクを見る目線が鋭くなり、
「アンタの、そういう所嫌い」
と、顔をしかめた。『嫌い』と言われるうちが花、なんていうよネ?
「ねぇ、どんな人が好きなの」
「教えるわけないでしょ」
斜め前に座りながら、まきに聞く。答えるワケないってのは、予想済みだった。照れ屋さんだもんね☆
「『あまり喋らないやつが好き』とか、『身長は高すぎない方が好み』だとか言ってたケド、ボクに対する当て擦り?」
「そ、それは……」
そう茶化しながら聞くと、まきはその相手のことを考えているのか、頬を少し染めて口ごもる。面白くない。
「……もしかして、……黒木 彗?」
ソイツは、まきの幼馴染の男子。簡単に言えば、顔が整ってて面倒見が良い同級生。そして、キミが挙げた好みに当てはまってる。ボクほど高身長じゃないし、普通の男子と同じか、それよりは無口だもんね。
「っ、アンタにはカンケーない、でしょ!」
と、かっと頬を赤く染め、まきは否定の言葉を叫ぶ。
「ここ、図書館だよ」
しー、と諭すと、まきは口元を押さえて、ふいと恥ずかしそうに顔を逸らす。そういう仕草、可愛いと思っちゃうんだよね。
「冗談なのに、ムキになっちゃって」
そう笑ってみせるケド、心境は全く面白くない。ぐつぐつに煮えたぎる嫉妬心を表に出ないよう、必死に笑顔で抑え込む。
「アンタ、そういうのホント良くないよ」
不機嫌そうにまきはボクから視線を外てカバンの中からノートを出す。アタリ、かな。あーあ、なんで法律とかあるのかなァ……。




