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7月になると夏休み前のテストが始まって、いつもより帰れる時間が早くなる。みんなはその時間でちょっと勉強したり、先生たちにバレないように遊んでる。


アタシは友達に誘われれば遊ぶけれど、今日は友達は二人とも用事があるみたいで今は、アタシは一人だ。沢山の生徒たちの帰宅の波に合わせて、アタシも帰る。


と、目の前に見覚えのある背中を見つけた。このチャンスを逃がさないように、彼に向かって走り出す。


「天澄!」


必死過ぎて、初めて名前を呼んだ。そう、ふと我に返って恥ずかしく感じる。振り返る天澄は相変わらず、涼しげな感情の読めない笑みを浮かべていた。


「……やぁ、まき。久しぶりだね?」


気恥ずかしさ耳まで赤くなったのを、どうか走ったせいだと勘違いして欲しい。息を整えるアタシを、天澄は目を細めて待っていてくれた。


「ごめん!」


目が合って直ぐ、アタシは頭を下げる。


「……なにが?」


首を傾げる天澄に、アタシは『なんでもない』なんて言って、誤魔化したくなった。天澄が気にしてないんなら、あえて言わなくても良いんじゃない?って、臆病なアタシが、囁きかける。でも、


「アタシが、無遠慮だった」


「……うん」


少し考えるように視線を動かして、天澄は頷いた。


「だから、アタシに気とか使わなくていいよ」


……あんまり素直に謝れてないのは、自覚してる。でも、上手く言葉に出来ない。ごめん。ちゃんと、言葉にしたいのに。


「そう」


天澄は短く相槌を打って、ついと目を逸らした。それを見て、『ホントは、アタシに飽きて離れただけかもしれない』なんて、嫌な予想が頭によぎる。それもそうだ。ずっと拒絶しておいて、否定しておいて、今更何を言ってるのだろう。


アンタは、アタシとこうして話すこと、まだ『嬉しい』とか、言ってくれるんだろうか。


「因みに、ホントの思惑は?」


「え……」


予想外の言葉に、思考が止まる。思惑?謝って関係を元に戻そうとか、そういうこと?そう、天澄の言葉の意味を考えていると


「勉強?見てあげるよ」


と、勝手に結論を出されて、図書館でアタシの勉強を見てくれることになった。


「……うん」


……そういえば、テスト期間だった。アイツは頭良いから、アタシが勉強を教えてもらいたくて寄って来たんだと思ったみたいだ。


……そうじゃない、のに。



7月になって夏休み前のテストが始まり、いつもより放課後が早くなる。この期間はテスト勉強に使う為の時間だけど、学校側の思惑通りに勉強してる生徒なんてほんのひと握りなんだろうね。ボクは、そのひと握りにはならない方☆


勉強なんかシてる場合じゃない。まきの『好きな人』について、探りたいから。どうやって探す?彼女を尾行してみようか。


と、


「天澄!」


後ろから、ずいぶんと久し振りの、とても聞きたかった声がボクの名前を呼んだ。あれ、もしかしてハジメテ呼んでくれた?


「……やぁ、まき。久しぶりだね?」


動揺を悟られないように極めて冷静に、なんともないように返事をする。振り返ると、走ったせいか、耳まで真っ赤にしている。その様子が可愛い、なんて思いながら息を整えるのを見ていた。


「ごめん!」


目が合うや否や、まきは頭を下げる。


「……なにが?」


その謝罪は、何に対するものだろう。ボクを受け入れられないとか、ボクへの拒絶なら、その謝罪は、欲しくない。


「アタシが、無遠慮だった」


「……うん」


どうやら、まきは彼女自身の思慮の浅さを謝罪したようだった。……これじゃあ、あのことで、キミがボクをどう思ったのか、受け入れられるのか、拒絶するのかなんて分からないなぁ。


「だから、アタシに気とか使わなくていいよ」


「そう」


ボクは、キミから拒絶されるのが怖かっただけ。キミに気を使ってたワケじゃない。キミからの『本当の』拒絶が怖くて、ボクから離れたんだ。キミは優しいから、言葉では色々いうケド、こんなボクを本気で拒絶しないから。


キミがボクの元に戻って来てくれて、『キミが』ボクに話しかけに来てくれて、嬉しかったよ。だけど。


「因みに、ホントの思惑は?」


「え……」


戸惑った顔をしてるケド、ボクのことが嫌いなキミは理由なく話しかけるコトなんてしないだろ?


「勉強?見てあげるよ」


まきから思惑があったなんて認める言葉とか聞きたくなくて、そう提案する。


「……うん」


図書館とかどう?とか聞いてみたりして。テスト期間なら、教師に見つかっても怒られない場所の方が邪魔も入らないもんね。


あれ、まき……なんだか、がっかりしてる?


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