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もうすぐ、6月が終わる。天澄との関係がビミョーになって、アタシが気持ちを自覚してから、半月ぐらい経った。
誰もいない、校舎の隅の空き教室にアタシは呼び出されていた。呼び出された理由は、告白だ。告白だなんて、ものすごく久しぶりだな、なんて考えてた。少し前まで、天澄のことでいっぱいいっぱいだったし。
『まきは綺麗でかわいいから』なんてアイツはいうけれど、アタシはあんまり可愛くない自覚はある。顔付きとか、性格とか。
告白してきた相手は、隣のクラスの男子だった。接点とか何かあったっけ?と、内心で首を傾げていると、
「好きです、付き合ってください!」
と、男子は頭を下げた。……あんまり恋愛にキョーミなんてなかったから、いつも通り「恋愛はキョーミない」って断ろうと思ってた。でも。
なんとなく、アイツのことを想い出す。最近、近くで姿をしっかり見ることなんてなかったけれど、思ったよりしっかりと思い出せてるみたいだった。
「……好きな人が居る、から」
なんて言葉が、素直に溢れた。せっかく告白してくれたのは嬉しいけれど、アタシはアイツが好き……みたいだから。
アイツはホントは誰のことが好きなんだろう。アイツの『好きな人』について考えて見ると、胸がちくりと痛む。
「……本当に、その人の事が好きなんだね」
と、告白した男子は少し傷付いたように、だけれどすっきりしたように、笑った。
「うん。ごめん」
男子は教室から静かに立ち去る。その様子を見送りながら、アタシが、あの男子を傷付けてしまった事実を痛感する。
そして、アタシが『好き』な、アイツ……天澄のことを、傷付けてしまったことを想い、『きちんと謝りたい』『会って話がしたい』と、強く思ったのだった。
散々アイツの告白を全て切り捨てて『ありえない』だなんて、酷い言葉を吐いていたアタシが抱くのは、ホントはお門違いかもしれないけれど。
6月の終わりそうなある日、彼女が告白されるところを偶然、見てしまった。テスト前だっていうのに随分と、浮かれているみたいダネ?
誰もいない、校舎の隅の空き教室で告白だなんて、……あんまりイイ感じの印象ないし、ね。
彼女は綺麗でかわいいから、モテるのは知ってた。何度か告白しようとしてきたやつを邪魔したり、牽制とかもしていたんだけどな。生徒会のやつとか。
今回告白してきたのは、ノーマークだったただのモブ男子。最近は、告白してきそうな相手には逆にさり気なくちょっかいをかけて、脇見もできないほどにボクの方に引っ掛けて、告白してきたらフってたっていうのに。
我がことながら、とんでもなくクズな男だなぁと内心で自嘲する。でも、彼女に降りかかる憂いは、できる限り払っておきたいよね?
普段、彼女はいつも「キョーミない」って告白を断るのに、
「……好きな人が居る、から」
なんて言って、告白を断った。……「好きな人が居る」だって?ボクは隠れている身でありながら叫び出したいのを、堪える。
誰を、好きなの?その『好きな人』のコトを考えたのか、少し伏し目がちに視線を逸らす彼女に、憂いを帯びた色気を見る。そのことが、胸に燻る感情を、どす黒く溶かして、焼いていく。
今すぐ彼女の側まで行って、それは誰なのかと聞きたくなる。……こんなにボクが頑張って振り向いてもらえないのに、その『誰か』は、彼女からの好意を向けられているなんて。
煮えたぎりそうな想いに、『自業自得だよ』なんて冷静なボクがいうケド、分かってる。……でも、彼女も少し悪いと思うボクは、被害者面してるっていうのカナ?
キミを、手放したくない。元から手に入ってないのは知ってる。それに、彼女に嫌われて、性別問わず沢山の人と付き合ってたボクが抱くのは、ホントはお門違いな想いかもしれないケドね。