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「ねぇ」
帰り道、アタシはどうしても気になっていたことを聞くことにした。
「なぁに、まき」
当然のようにアタシに付いて帰るこの男は、アタシが声をかければ打てば響くように、すぐに返事する。
「アンタさ、付き合う時ぐらい一人に絞ってあげたらどうなの」
歩みを止め、後ろの天澄に振り返った。アタシの横に並び、同じように天澄は足を止める。
「……なんで、そんなこと言うの?」
よく分かんない、と首を傾げる天澄に言葉を続ける。
「相手との関係に部外者のアタシがいうことじゃないけどさ」
そこで一旦言葉を止めて、きちんと天澄の琥珀の切れ長な目を見つめた。
「付き合う相手に失礼だよ」
断って関係が気不味くなるとか、相手を傷付けたくないとか、そんな崇高な気持ちなんて持ち合わせてはいないだろうけれど、これは言わなきゃいけない、コイツにきちんと届けないといけない言葉だと、アタシは思った。
「……そっか」
少し目を見開いてそう答えると、天澄は再び感情の読めない笑みを浮かべる。
「次からは気を付けるよ」
なんて、あんまり響いた様子がないから、無駄だったのかな、と少し落胆する。そういえば、コイツは驚くほどのマイペース野郎だった。
でも、アタシが言いたいことはコイツに言ったし。それをどうするかは天澄次第だ。あんなふらふらした不誠実な事ばっかりしていれば、将来、後ろから刺されて死んだってしょうがない。……アタシがコイツの将来を側で見ることなんてないだろうけれど。
アタシは天澄から家への帰り道の方に向き直して、歩き出す。そのあとを、天澄がまた勝手に付いて歩き出す。
幼馴染でも、付き合っているわけでもない。横に並んでいるわけでも、主従関係があるわけでもない、その微妙な距離感をアタシが今、楽しんでるってことだけは、なんとなくはわかる。あんまり認めたくないけれど。
天澄は、アタシとの関係をどういう風に思っているのか、少しだけ気になった。でも、意地でもアタシは聞くつもりはないから、一生分からないまんまなんだろう。
まきとの帰り道は、なぜだか心が弾む。どこかに行くなんてこともなく、ただ歩くだけなのにね。
それを少し不思議に、そして面白く思っている自分がいる。
「ねぇ」
帰り道、まきは振り返ることなくボクに声をかけた。
「なぁに、まき」
そう返事すると、足を止めて振り返る。その真剣な顔に、足を止めてまきを見下ろした。
「アンタさ、付き合う時ぐらい一人に絞ってあげたらどうなの」
何を言うのかなと思っていたら、まきはそんなことを言った。
「……なんで、そんなこと言うの?」
まきにとっては他人同士でのやり取りなのに、よく分からないな。付き合ってるならともかく。そう思っていると、
「相手との関係に部外者のアタシがいうことじゃないけどさ」
そこで一旦、まきは言葉を止めた。そして、
「……!」
まきの、猫のような灰色の目と、しっかりと目線が合わさった。
「付き合う相手に失礼だよ」
どうしよう。結構大事な話をしているのは分かっているんだけど。彼女と目がこんなにしっかり合ったことなんて、初めてじゃないだろうか。
ただ、付き合いたいと向こうが言うから、付き合う。興味が湧いたから、付き合う。そう言う感じで今までずっとあんまり考えずに、欲求に合わせていたけれど。
「……そっか」
キミからすると、『相手に敬意を払わない嫌な奴』みたいに、そう見えるのか。
「次からは気を付けるよ」
他の人の言葉だったら、きっと響かなかっただろうケド、まきの言葉はなぜだかすっと入ってくる。キミの忠告に、従ってみよう。その方がきっと、もっと楽しくなる。そんな気がした。
まきは自身の言葉をボクに強制してこない。それをどうするかはボク次第だっていってるんだろうな。面倒見の良い彼女はきっと、将来とても良いお嫁さんになるんだろう。……ボクが、彼女の将来を側で見ることなんて、あるのだろうか。
彼女はボクから家の方向に向き直して、真っ直ぐに歩き出す。そのあとを、ボクは付いて歩いてみる。
幼馴染でも、付き合っているわけでもない。横に並んでいるわけでも、主従関係があるわけでもない、その微妙な距離感をボクは今、楽しんでるってことだけは、なんとなくはわかる。不思議な気持ちだ。
まきは、ボクとの関係をどういう風に思っているのか、少しだけ気になる。でも、聞いたって彼女は意地でも答えてくれないだろうから、一生分からないまんまだろうね。