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話が少し長め。
「ちょっと槙乃、先生に呼ばれてるよ」
「えっ?」
後ろの友達に突かれてふと意識を戻すと、先生がアタシの方を見ていた。
「はい、」
慌てて立ち上がると、
「23ページの問題4だよ」
と耳打ちしてくれたので、それを答える。すると先生は満足そうに頷き、アタシは答えが合っていたことに安堵して、席に座る。
「一体どうしたのよ」
後ろから友達が声を掛けるので、
「別に。ただ考えごとしてただけだよ」
そう、短く答えた。
「へぇ……高宮のこと?」
からかう声色で問う友達に
「そんなのじゃないから」
少し強めに言ってしまった。天澄のことを考えてたとか、そんなんじゃない。天澄がなんでアタシに構い倒すのか、その原因を考えてただけだし。
「ふーん」
違うって言ってるのに、微笑ましいものを見てるみたいなその目が釈然としない。
そうこうしているうちに、昼休みになった。アタシはいつも、家で自分が作ったお弁当を食べる。友達2人は、アタシと食べる時もあれば、他の部活の仲間とか別の友達と食べる時がある。今日は2人とも別の所で食べるみたいだった。
……で、そういう日は。
「ねぇ、まき。一緒にご飯食べよう?」
天澄がアタシのとこまでやってくる。
「嫌だね。アンタと食うくらいなら銅像と食うよ」
と、席を立とうとすると、
「ここの席借りるね」
そう言って、天澄は近くの席をアタシの移動先を塞ぐように置いて座る。
「ちょっと!」
なに勝手なことしてんの、と咎めると
「キミが逃げようとするからだよ」
と、なぜか嬉しそうに天澄は答えた。アタシの机の上に勝手に置かれた昼食は、コンビニで買っただろうおかずパンがいくつか。
「……なんの用?」
逃げるのを諦め、じとっと睨み付けて話を促す。
「今日も一緒に帰りたいかなって」
会話できるのが嬉しいと言わんばかりの態度にため息が出る。
「いつも聞かなくても勝手に付いてくるクセに」
不機嫌に呟けば
「そんなことないよ」
と言ってのける、にこにこ上機嫌に笑う天澄から顔を逸らした。
「……なに」
じっと見つめる視線に耐え切れずに、天澄に聞く。さっきからコイツアタシを見てばっかで全然ご飯食べてないような気がする。
「もぐもぐしてるの小動物みたいで可愛い」
頬杖を突いてアタシに触れようとする天澄の手を払う。
「変なこと言わないで。殴るよ」
ぎっと睨み付ければ、
「キミになら良いかもね」
なんていう。
「……キモい」
「そんなこと言うのキミだけだよ」
なんでコイツこんな変なセリフばっか言えるんだろ。
「ふん、」
天澄の相手はせずに、お弁当を食べるのに集中することにした。
「好きだよ」とか「可愛いね」とか、気持ちのまま、甘い言葉を吐いてみる。それに対して、まきは「やめろ」とか「キモい」って、酷い言葉を吐く。でも、なんだかそれでも構わないと、思えてしまう自分がいた。彼女が暴言を吐くのはボクだけだろうし。
「永瀬」
と、教師がまきを呼ぶ声に、ふと意識を戻した。少し反応が遅い気がして、ちら、と彼女の方を見ると
「はい、」
友達に急かされて、丁度立ったところだった。授業中に考えごと?珍しいネ。
退屈な授業が終わって、昼食の時間になる。最近は、まきのオトモダチがボクのために退いてくれるから、一緒に食べられて嬉しいヨ。
「ねぇ、まき。一緒にご飯食べよう?」
せっかくボクがココまで来たんだから、一緒に食べる以外に選択肢は無いけどネ。
「嫌だね。アンタと食うくらいなら銅像と食うよ」
まきはチッと小さく舌打ちをして席を立とうとする。
「ここの席借りるね」
そう断って、近くの席をまきの移動先を塞ぐように置く。置くだけだと直ぐ退かされるから、ついでに座った。彼女の席、壁際にあるんだよ。コレで、完全に閉じ込められたね。
「ちょっと!」
なに勝手なことしてんの、と、まきは怒ったケド、ボクだから勝手に席使っても大丈夫だと思うんだ。断ったし、大丈夫。
「キミが逃げようとするからだよ」
どうにかボクから離れようとするまき、可愛いね。机を動かされる前に、昼食を机の上に勝手に置く。お弁当とかじゃなくて、コンビニで買ったおかずパンだけど。
「……なんの用?」
逃げるのを諦め、じとっと睨み付けてまきは席に座った。
「今日も一緒に帰りたいかなって」
その嫌そうな顔も可愛いね。なんだかボク、キミのどんな顔も可愛いって思えるみたいだ。
「いつも聞かなくても勝手に付いてくるクセに」
不機嫌な顔も可愛いネ。そういえば、嫌そうな顔や怒った顔は良く見るケド、笑顔とか近くであんまり見た事ないなァ。
「そんなことないよ」
声かけて、キミが(どんな内容でも)返事するから付いて帰るんだヨ。不機嫌に顔を逸らし、まきはお弁当を食べ始める。このお弁当、彼女が自分で作ってるんだってね。凄いなァ。
「……なに」
食べてるその様子が可愛くてつい見ていると、まきがじとっとした目でボクを睨み付ける。彼女を見てるだけでなんだか胸がいっぱいになってくる。
「もぐもぐしてるの小動物みたいで可愛い」
その頬に触れようとすると、まきに手を払われた。そして、
「変なこと言わないで。殴るよ」
睨まれる。猫が威嚇してるみたい。『殴る』、ネ……ボク、あんまり痛いの好きじゃないんだよね。でも、
「キミになら良いかもね」
そう思う。
「……キモい」
「そんなこと言うのキミだけだよ」
キミといると、冗談みたいに色々な言葉が出る。それは嘘でも、真実でも。……正直で真っ直ぐそうなキミと一緒だと、釣られてあんまり嘘を言ってない気がするな。
「ふん、」
鼻を鳴らし、まきはボクを無視してお弁当を食べ始める。今日はココまでか。
まきとの昼食を楽しんでいると、1年生の女子に呼び出された。……いま、とても楽しいんだケド。ちら、とまきの方を見ても、彼女は全く興味がない様子で、黙々とお弁当を食べている。
「ちょっと出るね」
と、まきに声をかけると
「さっさと行きな。そして戻ってくんな」
って言われちゃった。戻った時にはきっと、ボクが動かした席は元の場所に返されているんだろう。