12
「付き合ってくれる?」
文化祭の終わった日、天澄に呼び出され、そう言われた。告白、ではないな…これは。そんな気がした。勘だったけれど。
「ほら、一緒に買い物したりしたでしょ?だから……一緒にご飯とか、食べに行きたいなぁ、なんて」
あぁ、これは『食事に』付き合ってってことか。そう、悟る。だから、
「良いよ。付き合ってあげる」
そう答えた。きっとこの男は告白してきた相手や、紛らわしい言い方を使って勘違いした相手とかを喰い物にしてきたのだろう。そう思うと、なんだかむかむかしてきた。
食事は普通に、ファミレスで食べるだけだった。「ボクが誘ったんだし、奢るよ」とか言ったので、遠慮なく奢ってもらう事にした。
良いもの選んでやろうとか思ったけれど、なけなしの罪悪感が首をもたげたので、目についたオムハヤシを頼んだ。ふわふわのオムライスとハヤシライスのルーがかかったやつ。
思った以上に美味しくて、食べるのに夢中になってしまった。滅多に外食なんてしないし。はっと我に返って天澄の方を見ると、どこか愛おしそうなものを見るような、優しい表情をしていた。
目が合うと、にこ、と微笑んで
「デザートとか頼んでも良いよ」
と言った。
「良いよ。キョーミないし、流石にそこまで入らない」
少し、嘘だ。少し気になったデザートがあった。苺と生クリームがたっぷりの、期間限定のパフェ。
でも、奢ってもらう立場で頼むわけにもいかないし、借りを作ったらそれを盾に色々面倒なことが起こりそう。そんな気がした。
「そう?じゃあボク、これ頼むね」
と言って指したのは、アタシが気になっていたパフェだった。
「ちょっと待ちな」
やっぱり頼むような、そんな気はしてたんだ。今までだったらあんまり気にしないでそれを流していただろうけど。
「アンタ、甘いの苦手だろ。頼まなくて良い」
思わず、そう言ってしまった。
「付き合ってくれる?」
って言ってみた。文化祭の終日の、特になんだか気分が盛り上がっちゃう放課後に。ホントは『ご飯に』付け合って、って意味だケド。
「ほら、一緒に買い物したりしたでしょ?だから……一緒にご飯とか、食べに行きたいなぁ、なんて」
と、彼女を見る。我ながら酷い性格をしてると思う。コレは、仲良くなった子に告白紛いなコトをして、勘違いしちゃった子達を引っかける。そして、相手が見事引っかかったらボクの勝ち、みたいなゲーム。
「良いよ。付き合ってあげる」
猫みたいな目を細め、彼女は一緒にご飯を食べてくれるらしい。
掛かった。
この瞬間を、逃すわけにはいかない。思いの外、嬉しく思うこの気持ちはなんだろう。彼女の時間をほんの少しだけど、ボクが独り占めできる。
でも、少し『コレで終わりか』、なんて残念に思ってしまう気持ちもあった。一緒にご飯を食べてる頃に気持ちが落ち着いて、あとはボクかキミが飽きるまで惰性的に付き合うんだ。今までもそうだったし。
彼女がメニューを見たとき、一瞬だけ目が止まったページがあった。彼女に気づかれないよう、そのページを確認する。……期間限定のパフェか。
「デザートとか頼んでも良いよ」
お金なら十分にあるし。そう、彼女に言うと、
「良いよ。キョーミないし、流石にそこまで入らない」
『キョーミない』なんて、嘘を吐く。遠慮してるのカナ?気にしなくてもいいのに。仕方ないな、ボクが頼もう。
「そう?じゃあボク、これ頼むね」
そうして、少しキミに分けるんだ。分け合うのって、女子とかは好きだよね?あと、友好度も上がるってどこかで聞いた。彼女は貸し借りとか苦手そうだし、このぐらいでも罪悪感とか抱きそうだよネ。
それを利用してして、もうちょっと仲良く……とか、出来ないかな?そう、思ってたのに。
「ちょっと待ちな」
怒った声で、彼女がボクを制す。……何かな?
「アンタ、甘いの苦手だろ。頼まなくて良い」
思わず、取り繕うのを忘れて彼女を見上げた。




