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「ごめん、二人で買い出しに行ってくれる?」
ぱん、と友達が手を合わせ、申し訳なさそうに言う。
「……分かったよ」
なんでコイツとって言いたかったけれど、ここまでされて断るとか無理だろう。それに、役割が終わって暇なのは、アタシと高宮だけだったし。
女子(と、一部の男子)達の羨ましそうな視線を無視して、クラスを出る。代われるんなら、アタシだって代わりたい。こんな目立つやつと一緒とか、恥ずかしい。
「デートだね」
学校を出て、高宮はそんなことを言った。
「バカじゃないの」
付き合ってもないのにデートだなんて。そういうと、
「出かけるボク達二人の目的が合うならデートだよ」
と返された。「デートだと思えばデートだよ」とかいうかとおもったら、なんだか非常に曖昧な事を言われた。少し、胸のあたりがモヤってした。
買い出しの先は、100円ショップと、近くのスーパー。100円ショップには足りない布とか絵具を買いに、スーパーには、差し入れのお菓子やジュースを買いに行く。
カゴを買い物カートに乗せて、買い物メモに書かれているものを次々にカゴに入れていく。頭の中で大まかに計算して、予算内に間に合うかも考えながら。
「慣れてるんだね」
と、何もすることがなさそうに、手持ち無沙汰な高宮が感心したように言う。
「別に。いつもやってるだけだから」
カートを押しながら端的に答える。両親が共働きで、買い物とかはいつも年長のアタシがしてる。ただそれだけ。他の兄弟はアタシの代わりに掃除や洗濯をしてくれる。
「こういうの好きなの?」
ちら、と見ただけのお菓子をアタシに見せながら高宮は問う。ほんの一瞬しか見てなかったのに、よく気が付くみたいだ。
「さっさと頼まれたもの買うよ」
余計な情報を、コイツに与えてはいけない。
――じゃなきゃ、うっかり好きになってしまいそうだ。
彼女とボクは、次は買い出しの係になってしまったらしい。彼女が友達に頼まれて、断れなかったみたいだ。まあ、役割が終わって暇なのは、彼女とボクだけだっもんネ。仕方ないよ。
色々な感情の混ざった視線を無視して、ボク達はクラスを出る。羨望と、嫉妬。ボクと彼女、両方の分だネ。頼まれたって代わってやるもんか。一緒にお買い物なんてすっごく嬉しい。
「デートだね」
思わずそんな言葉が出た。でも、学校を出るまで我慢したんだヨ?キミってば照れ屋さんだからね。
「バカじゃないの」
付き合ってもないのにデートだなんて、と彼女は零す。そういうトコ、初心でイイね。
「出かけるボク達二人の目的が合うならデートだよ」
と返してみる。「デートだと思えばデートだよ」と言ってみたかったケド、否定されちゃうでしょ?でも、彼女は何故か怪訝な顔をしてた。
買い出しの内容は、衣装と大道具のパシリか。あとは、差し入れのお菓子やジュース。……買わなくても良くない?
彼女はカゴを買い物カートに乗せて、買い物メモに書かれているものを次々にカゴに入れていく。多分、合計金額も計算してるよね。
「慣れてるんだね」
手順も動作も滑らかだ。
「別に。いつもやってるだけだから」
彼女はカートを押しながら端的に答える。まるで主婦みたい、とか言ったら怒るかな?
「こういうの好きなの?」
一瞬、彼女の目が止まったお菓子を見せてみる。すると彼女は顔を顰めた。当たり、かな。普通は欲しいもの見せたら喜ぶのに、この子、嫌そうな反応するよネ。新鮮。
「さっさと頼まれたもの買うよ」
ぷい、と彼女は顔を逸らし、先を早歩きで進んでいく。そういうのが、凄く楽しい。
――こういうのが、『本当に好き』ってやつなのかな?




