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願いの白紙  作者: 森野りす
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序章

あぁ...そうゆうこと。


瑞希は漫然とした疎外感に納得した。

今まで生きてきた経験を一蹴するかのように、軽蔑の目が瑞希に向けられている。


皐月ちゃん、花ちゃん、私は何もしてない。信じて...

瑞希はほんの少しの願い...わずかな光を真っ暗闇な現実へと灯した。


...ちょうど2か月前の5月の2週目。

春が過ぎ、心地よい風が流れる初夏。

八坂瑞希は高校2年生になっていた。

私の周りには、小学校から仲が良かった友達が机を囲っている。

新藤皐月は、小学2年生の頃に苫小牧から引っ越してきた。

馴染めない中、ちょっと子鹿のように震えながら、私に話しかけてきてくれた。ちょっと人見知りで大人しいが、将来を真剣に考えていた芯のある女の子。

「ねぇ、瑞希聞いてる??昨日のドラマ凄い展開だったよね!みた??」

顔を覗かせながら、ちょっと心配そうに皐月が聞く。

「あ、ごめん!あのドラマ??昨日見逃しちゃって...」ぼんやりと昨日の出来事に頭を抱えていた瑞希が我にかえる。

「そうなんだー!えー勿体ない!すっごい面白かったのに。」

「そうそう!」と皐月に同調したのは、白崎花である。

花ちゃんは小学校の吹奏楽クラブで仲良くなった。

いつも二人でクラブの後アイスを食べに行っていた仲で、

勝ち気な性格で曲がったことは嫌い。

嫌な事は面と向かってハッキリと言う性格で、よく部活で喧嘩が勃発。

花という名前だから、おしとやかかと思いきやダリアのように鮮やかに華々しく、人生にまっすぐ向き合っている。

「まさかの、大どんでん返し!犯人は...」

「やめて!言わないで!楽しみにとっときたい!」

急な暴露に瑞希は現実に引き戻り花を制止する。

「あ、ごめーん!」と悪気はなく謝る花。

花はいつも何でも暴露する。まあ、いつも悪気なく好きなものを好きなだけ話しちゃうのが、花の良いところでもある。

「もー花ったらまた?」と皐月が呆れたように花を諭す。

「ねえねえ、今日さ駅前の稲田珈琲店行かない?今日から夏のかき氷パフェフェアー始まるんだ~」と皐月の諭しにも臆さず、わくわくしながら花は誘う。

「美味しそう!いくいくー!」瑞希は花の誘いに前のめりにのっかる。

皐月は仕方ないなと保護者気分で二人に賛同したところで、憂鬱な午後のチャイムが鳴り響いた。


キーンコーンカーンコーン...

放課後のチャイムが鳴ったと同時に、三人は目を輝かせて、鞄を手に学校を後にした。昼休みに満場一致で決まったパフェを食べに向かった。


「田島のやつ、なんか今日いつもより機嫌悪すぎじゃない??ちょっと聞いてなかっただけなのに、あんなに怒ることなくない?」花は鞄を振り回して、納得しない苛立ちを二人にぶつける。

「みたみた!急に怒りはじめたよね。田島先生のあんな怒り方は、見たことなかったな~」瑞希は花の隣で鞄を避けながらステップよく答える。

「多分、嘉藤に職員室でめっちゃ怒られてたから、あんなに機嫌悪くなったんじゃない??」肩を落としながら皐月も遅れず付いていく。

「えー、完璧な八つ当たりじゃん!ありえない!」

「田島先生、とうとうテスト中、寝てることが嘉藤にバレたとか?」瑞希は、より荒々しく鞄を振り回す花をまだ避けながら、皐月に問いかける。

「そう、瑞希正解!プリント取りに職員室行ったら、昨日の歴史のテストで何で気づかないんだって嘉藤に怒られてたんだよね」皐月は学級委員で書記の仕事を任されている。田島先生に今日の午後、歴史授業のプリントを取りに来てと呼び出されていた。

「多分、田島先生ってよくテスト中寝てるからその事だと思う」

「でも、変じゃない?気づかなかったって寝てることじゃなくて、それ以外に何か問題があったように聞こえるけど...」瑞希が、皐月の言葉に違和感を感じ聞く。

「でた!瑞希の探偵ごっこ。何かってなに??寝てたこと以外にある?」

皐月は瑞希の探偵好きにあきあきしていた。

「むむむ...」花は口を尖らせて、「だからって私に当たること無くない!?」と花はまだ田島先生への怒りに囚われている。

皐月と瑞希は花の単純さに笑いながら、目の前の見慣れた珈琲店へ吸い込まれていった。



「ありえん!どうして奴はあんな呑気なんだ」嘉藤は田島に憤慨していた。

昨日の歴史のテストで、答案用紙への妙な書き込みがあった事に誰よりも恐怖を感じていた。

「仕方ないわよ。田島先生はいつもあんな感じなんだから」と笹島は嘉藤をなだめるようにコーヒーを差し出す。

笹島は嘉藤の学校の同僚であり、プライベートでも二人の仲は阿吽のようだ。田島と同じ歴史の担当でもある。今回の騒動を知り嘉藤の自宅まで様子を見に来ていた。

「そういえば、さっき生徒の一人に見られちゃってるけど、大丈夫??」

「あぁ、2年A組の新藤か。大丈夫だろう。内容は言ってないし、俺が田島に寝てた事を怒鳴り付けてるぐらいにしか思ってないだろ。今時の女子高生は教師に対して興味ないからな。」

「だと良いんだけど...あの件はどうするの?校長に言った方が良いんじゃない?なんかあったら...遅いし...」

「だめだ!あの事がばれたらどうする。俺たち転勤だけじゃなくて教師免許も剥奪されるかも知れないんだぞ」

「じゃぁ、どうするの??このまま何もしないなんて、気がおかしくなりそう!!」

「俺だって...どうすればいいか考えてるさ。まず、田島に詳しく聞かないと...」

「聞くって何を!?あの人に聞いても覚えちゃいないわよ。第一、寝てたんだから」

「そうだが...何か分かるかも知れないだろ。筆跡とか、答案の枚数とか」

「分かるわけないじゃない。答案は全員分あったし、筆跡も筆書きなんだから。全員に書道でもしてもらうつもり?」嘉藤をなだめに来たはずの笹島が嘉藤に感化されたのか苛立っていた。

「美和、美和、落ち着こう。俺たち焦りすぎだ。このままだとボロが出る」

「そうね。ちょっと柄にもなかったわ」笹島はカフェインで正気を取り戻すかのように飲み干す。

「とりあえず明日、駄目もとで田島に聞いてみるさ。俺もシャワー浴びて頭冷すわ」

「分かったわ。じゃぁ、私、帰るわ。お休みなさい」

「ああ、気を付けて。送ろうか?」

「大丈夫!私、そんじょそこらの男にも負けないから。じゃぁね」

「おー怖いね~」と嘉藤は冗談混じりに答えた。嘉藤は笹島が柔道2段で黒帯であることを知っていた。なぜなら、笹島の反感を買い背負い投げされた記憶は、嘉藤の中ではまだ新しい。

嘉藤は、今日の職員室での出来事に何か糸口は無いかと、ベッドの中で考えている内に意識が次第に遠退いていった。


翌朝...寝ぼけ眼の嘉藤は携帯に一件の着信マークが点灯している事に気づいた。美和という文字に反射的に飛び起きる。時間は朝の4時、特にメッセージもなく、5秒だけ鳴っていたようだ。嘉藤は昨日の件で、かなり疲れていたため、着信に気づかなかったが嫌な予感が頭をよぎる。美和は度々、酔って電話してくる事もありいつもは気にしないのだが、今回は何故かいたたまれない不安と心の底から無事であることを願い、連絡がつかない笹島の自宅に向かった。


ピンポーン、ピンポーン。

朝6時半、郊外の分譲マンション14階で廊下にインターホンの甲高い音が不気味にこだまする。嘉藤は、笹島の部屋の前でインターホンを強く押していた。

「美和、居ないのか、居たら返事してくれ」

笹島のマンションはオートロック式でセキュリティも万全だが、嘉藤はマンションのオーナーであり、マスターキーと顔認証で容易に中へ入れる。居てくれと願いながら、嘉藤は反応が無い部屋にマスターキーをかざす。

中に入ると、人の温かい気配は無く、靴が無いのに電気が付いたままだ。

「美和!いないのか!美和、美和」

リビングには、昨日着てた服が床に脱ぎ捨てられており、鞄は机に置いたまま、スマホも無造作に置いてある。ただ、美和の生身の姿だけが無かった。

昨日の他愛も無い会話が最後だったと思いたくない嘉藤は、必死に何か無いか手当たり次第、部屋を探した。


ピンポーン。コンクリート部屋に鳴り響くインターホン

「美和!?」

嘉藤は体の中に混み上がる体温を感じて、勢いよくドアを開けた。


目の前には美和ではない、見知らぬ背の高い男性が立っていた。

嘉藤は、嫌な予感が目の前に突きつけられてしまう気がしてその場に凍りつく。

「おはようございます。警察の者ですが、笹島美和さんはご在宅でしょうか」

「いえ、今はいませんが...」嘉藤は平常心を装い答えた。

男性は、いかにも刑事ですと言わんばかりのよれたコートに無精髭姿で話かけてきた。

「あのー、失礼ですが、貴方は...」

「笹島の友人です」

「ご友人の方ですか。笹島さんはどちらにいらっしゃいますでしょうか」

「わかりません。私も連絡がつかなくて...もしかしてと思ってここに来たんです。あの、美和になにがあったんでしょうか」

「捜査上のことは詳しくお話しできませんが、昨日笹島さんからご連絡頂きまして...」

「連絡?なんのですか?事件の事ですか?」

「事件ですか?何故そう思うんです?」

「あ、いや、警察の方だったら事件かなと思って」嘉藤は誤魔化しきれないと思いつつも嘘をつく。

「そうでしたか。笹島さんがご不在のようなので、また来ます。では」

「ちょっと待ってください。美和は、どこにいますか?無事ですか?」

「すみません。現在、捜査中ですので...」

「捜査中?見つかったら、僕にも連絡頂けないでしょうか」

嘉藤は精一杯の機転を利かせ名刺を渡した。

「そうですか...わかりました。何か分かりましたら連絡致します」

嘉藤の気持ちとは裏腹に、刑事はその場をあっさりと立ち去った。

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