第5話 運が良ければ美少女と間接キスができる
「ヒカルさん、今度は驚かないんですね」
「ああ、なんか良いもん出る気がしてたからな」
「ええ!?」
この流れなら、次も良いものが出ると思っても不思議ではない。
まあ、俺は自分の運の良さを踏まえて、良いものが出ると考えたんだが。
それにしても、永遠に飲み水が出てくる瓶に、絶対無敵の天幕ときたか。
これは、旅に出ろという天からのメッセージかな?
「でも、なんで初心者向けダンジョンに、こんな凄いお宝があるんでしょうか?」
「それは俺も昨日から考えているんだけど、全然理由がわかんねぇんだよなあ。魔王を倒した勇者様が、ミラナ村の出身ってことはないのか?」
「勇者様については謎も多いので……。あ、そういえば、勇者様のパーティーにおられた賢者、ミサト様の出身は、ミラナ村の近くのサミ村というところですよ」
「へぇー、そうなんだ」
そのサミ村に行けば、この不思議な出来事の手がかりが掴めるかもしれないな。
これは……いよいよ冒険を開始することになるかも。
◇
その夜、俺はルリに、旅に出ようと思っていることを伝えた。
俺としては、ルリと離れるのは当然嫌だったのだが、いつまでもルリの世話になるわけにもいかない。
そう考え、冒険に行くことにしたのだが……、
「ダメです! 旅に出るなんて絶対ダメです!」
「で、でも、これ以上お世話になるわけにも……」
「そんなことは気にしなくていいんですよ! とにかく、冒険するのは禁止です!」
まさか、ここまで反対されるとは……。
ルリにここまで言われたら、無視して家を出るわけにもいかない。
さて、どうしようか。
とりあえずその晩は、勝手に旅に出ないことをルリと約束し、俺はベットに入った。
どうやってルリを説得するかを考えているうちに、俺は眠ってしまった。
そして、次の日……、
「おはよ〜、ってルリ、何してんの?」
「決まってるじゃないですか。冒険の準備ですよ」
え? 準備? 冒険の?
「えーっと、どういうことです?」
「だから、ヒカルさんが冒険に行くなら、私も当然行きます」
「えっ!? ルリも一緒に来てくれるのか!?」
「当たり前です! 私はもう、これからはヒカルさんと過ごすって決めたんです!」
へ? それって、どういう意味なんだ?
も、もしかして、ルリは俺のこと……、
(いやいや、いくら俺の運が良くても、それはない!)
危ない危ない。
自分の運の良さを過信するところだった。
「ルリがそう言ってくれるなら、俺はめっちゃ嬉しいよ。これからよろしく頼む、ルリ!」
「はい! よろしくお願いします!」
何はともあれ、ルリが一緒に来てくれることになった。
これ以上の幸せはないだろう。
無限の聖水と要塞天幕が宝箱から出たことで、こんなことになるとは。
俺の運、やっぱりヤバイ。
◇
一緒に冒険をすることになった俺とルリは、村の市場で色々と準備をした。
旅にかかる諸々の費用は、ルリが出してくれることになった。
申し訳ないが、俺の所持金はゼロなので今は仕方がない。また稼いで返すとしよう。
「あと必要なものは何でしょう?」
「今買ったのでだいたい揃ったと思うぞ。少し休んで、昼には出発できるな」
「そうですね! じゃあ家でお昼を食べてから行きましょう!」
「だな」
ルリの家で、出発前最後のご飯を終えた俺たちは、サミ村へ向けてミラナ村を出発した。
なんやかんやで、異世界で冒険をすることになったが、ルリと一緒なら大丈夫な気がしている。
「そういえば、ここからサミ村まではどれぐらいかかるんだ?」
「歩いて一日半といったところでしょうか。明日の夜には着くと思いますよ」
へえ、思ったより近いんだな。
でも、初冒険にはちょうどいい距離かもしれない。
だが、俺はまだ、この後に起こる大きな問題に気づいていなかった。
「だいぶ歩いたな……」
「ですね。そろそろ休憩しましょうか」
「そうしよう。ちょっと疲れたしな」
「わかりました! そういえばヒカルさん、今こそあの瓶をつかうときじゃないですか?」
「そうだった。すっかり忘れてたぞ……」
俺には体力回復を助けてくれる聖水製造機、もとい無限の聖水があったんだった。
いや〜、宝箱様々ですな。
「よし、飲むか!」
ゴクゴク。
う、うまい……。
なんだこの水は!? こんなにうまい水は初めて飲んだぞ!
「この水めっちゃうまい! ルリも飲んでみろよ」
「ありがとうございます! では、いただきます!」
俺は無限の聖水をルリに渡した。
当然だ。うまいものがあれば、二人で分けるのは当たり前のことである。
しかし、俺はここであることに気づいた。
俺たちは、市場でコップは買わなかった。
無限の聖水があるからである。
だが、瓶から水を飲むとき、必ず口をつけなければならない。
そして、ルリが今まさに中身を飲もうとしている瓶は、ついさっきまで俺が飲んでいた瓶である。
「ル、ルリ!」
「どうしたんですか?」
(これは、ヤバイ!)
どうやらルリは、今瓶から水を飲むことで、俺と間接キスすることになると気づいていない。
というより、そもそも間接キスというものを知らないのではないだろうか。
「え、えーっとだな。その、なんていうか……」
「ヒカルさんは何を言っているんですか?」
「だ、だからだな。俺が言おうとしてることわああぁぁ!!」
俺がためらっている間に、ルリは聖水を飲んでしまった。瓶に口をガッツリつけて。
これは……、素直に心の中で喜んでおこう。