第4話 運が良ければ宝箱からは必ずヤバイものが出る
一旦落ち着こう。
もしかしたらルリの勘違い、なんてこともあるかもしれないからな、うん。
まずは、ルリに運命の水晶について聞いてみるとしよう。
「なんで昔の人たちは、そこまでして運命の水晶を手に入れようとするんだ?」
「詳しくことは、何もわかっていないんです。ですが、特殊な力があるとか、勇者様が魔王を倒すために使ったとか、様々な推測がなされています」
なるほど。運命の水晶には、特別な力があるかもしれないのか。
だが、国が数国滅ぶほどの戦争を起こしてまで手に入れたいって、一体どんな力なんだ?
「そんなヤバイ水晶を、俺が持ってて大丈夫なのか?」
「私にもわかりません。けど、今のところヒカルさんには何も異常ありませんから、何か特別なことをしなければ問題無いと思います」
ふう、良かった。すぐに何かが起こることはなさそうだな。
ただ、この水晶の扱いには気をつけよう。下手なことをしたら、とんでもないことになりそうだ。
「とりあえず安心したぞ。この水晶は大切に持っておくから、ルリも心配しないでくれ」
「わかりました! ところで、ヒカルさんはその二つのお宝を、村の近くのダンジョンで手に入れたと言ってましたよね?」
「ああ、そうだ」
「あのダンジョンのどこにあったんですか? 伝説の神器がなんでこんなところにあったのか、とても興味があります!」
「えっと、説明するのは全然構わないんだけど、口で言っても信じてもらえるかどうか……」
「ヒカルさんが嘘をつくとは思ってないので、口頭での説明でもいいです! でも、せっかくなのでダンジョンに連れて行って説明してください!」
「お、おう。わかった」
「ありがとうございます!」
ルリの勢いに押し切られてしまった。
だが、別にダンジョンに行って説明することに問題などない。
それより、ルリにあそこまで信じてもらえているとは……。泣きそうなぐらい嬉しい。
この子、マジで天使だわ。
◇
翌日、約束通り、俺とルリはダンジョンに来ていた。
俺は、ルリが危険な目に合わないかどうか心配だったのだが、どうやらルリは少しなら魔法が使えるらしい。
言われてみれば、ルリは俺を守るためにレッドホーンなる魔物を倒してくれたんだったな。
その時も魔法で倒したんだろう。
「魔法が使えるなら、戦闘の心配は必要ないよな?」
「はい! このレベルのダンジョンなら、ヒカルさんの手を借りなくても、なんとかなります!」
頼られることがないのは、少しだげ残念だが……。
ルリの身が安全ならそれでいいな。
それに、俺まだ魔物と戦ったことないからな。
ルリの身を守れると断言できる自信はなかったし。
「よし、じゃあ行くか!」
「はい!」
そう言って、元気よくダンジョンに入ったまでは良かったのだが、昨日に引き続き、今日も最下層に着くまで、一匹も魔物と遭遇しなかった。
こういう場合、俺の運の良さが裏目に出るな。
今だけ、この運の効果を消せないかな?
まあ、ルリが無事なので良しとしよう。
「まさか、魔物と戦わずに最下層に来れるなんて。ビックリしました」
「昨日の俺も、全く同じこと考えたよ」
「昨日も魔物と会わなかったんですか!? それはおかしいですよ! この近くで何かあったのかな……」
「そ、そんなことはないと思うぞ。それよりほら、あそこだよあそこ」
「うわ、壁が崩れてる!? あれ、ヒカルさんがやったんですか?」
「イエス」
「一体どうやって壁壊したんですか!? ダンジョンの壁って、隠し部屋とかじゃない限り、絶対に壊れないはずなんですけど?」
「その隠し部屋を見つけちゃったんだよな〜」
「そうなんですか!? 凄いです、ヒカルさん!」
「いや、ホントに運が良かっただけなんです」
「それでも凄いですよ! どうやって見つけたんですか?」
「えっと。確か、休憩しようと思って、こんな感じで壁にもたれかかったら……」
ガッシャーン。
え? 何今の音?
「ヒ、ヒカルさん。後ろ……」
ルリに言われて後ろを見ると、昨日と同じように崩れた壁があった。
「そうそう、昨日もこんな感じで……。じゃなくて、なんで壁壊れてるの!?」
「私が聞きたいです!!」
まさかとは思うが、この先って……、
「やっぱり隠し部屋かよ……」
こうなった以上、隠し部屋を探索しないわけにはいかないな。
お宝がある気しかしないし。
◇
案の定、隠し部屋にあった階段を降りると、宝箱があった。数は昨日と同じ二つだ。
「ヒカルさんって、もしかして運が良いんですか? 宝箱って、こんなにポンポン見つかるものじゃないと思うんですけど……」
「も、もしらしたらそうかもな。俺、運が良いのかもな!」
別に、俺は何も悪いことはしていないが、こんなに運が良いことをルリに言うのは避けた。
さすがに、俺の運の良さは尋常じゃないからな。
「ともかく、この宝箱開けて見ようぜ」
「そうですね! 何が出てくるか楽しみです!」
「まずは一つ目……」
ちなみに、俺がこの時欲しかったものは、綺麗な宝石だった。
宝石といっても、運命の水晶みたいなヤバイやつではなく、純粋に綺麗なものだ。
俺が宝石を欲しいと思った理由はただ一つ。
ルリにプレゼントするためである。
だが結論を言うと、宝箱から宝石は出てこなかった。
そのかわり、宝箱から出てきたものは、結果的に、宝石よりも良い出来事をもたらすとは、この時の俺はまだ知らなかった。
「これは、瓶?」
「…………」
「ルリ? なんで急に黙るんだ?」
「ヒカルさん、その瓶、無限の聖水ですよ!!」
「何それ?」
「その瓶からは、飲むと全身を癒して、体力をみるみる回復させる魔法の聖水が永遠に出てくるんです!!」
「なんですとおぉぉ!?」
前言撤回。
多少裏目に出ることはあっても、俺は運の効果を絶対に消さないぞ。
それにしても、俺の運、やっぱりヤバイわ。
しかも、宝箱はまだもう一つある。
「次も良いものが出ますように!」
そう言うと、ルリは一生懸命祈り始めた。
それはとても嬉しいことなのだが、多分、宝箱から出てくるものは良いものだと思うぞ。
「これは、折りたたみ式のテントか?」
二つ目の宝箱から出てきたのは、折りたたまれたテントだった。
うん、このテントにも、何かヤバイ効果がある気がするぞ。
「ルリ、このテントに見覚えはあるか?」
「そ、そのテントは、勇者様がこの世界を旅されていたときに使っていたといわれる、要塞天幕じゃあ……」
「要塞天幕?」
「確か、このテントの中にさえいれば、外からどんなに凄い攻撃を受けようと、全くダメージを受けることがないとか……」
ほらな、俺の思った通り、良いものが出てきただろ?