第36話 特訓の成果
0.000000000000000001%の確率でしか落ちてこない実を、なぜか落とすことに成功した俺。
そのことに驚いていたが、リーリブが実の説明をしてくれると聞いて、すっかりそっちに興味が移った。
「で、この実の効果は?」
「まず、この実の正式名称ですが、『魂の実』と言います。そして、この実を食べると、食べた人に物凄い力を与えると言われています」
「…………え? もしかして説明それだけですか?」
「これだけですね」
「最初に会った時みたいに、実はもっと詳しく説明ができるオチか?」
「今回は、私も詳しいことはわかりません」
「マジかよ……。っていうか、最初のは確信犯だったのかよ!」
リーリブのセリフに思わず突っ込んでしまったが、今大事なのはそこではない。
大事なのは、この実がどんな効果を持っているのか、具体的にわからなかったことだ。
「この実食って大丈夫なのか……?」
「少なくとも、食べたら死ぬなんてことはないと思いますが」
「いや、まあ、それはそうなんだろうけどさ……」
確かに、食べたら俺にとって悪いことが起こる可能性は低いだろう。
だが逆に言えば、食べた時にどのぐらい良いことが起こるのかも未知数なのだ。
しかも、リーリブの説明では「食べた人に物凄い力を与えると言われている」となっている。
食べたらその後ずっと物凄い力が俺の身に宿ることになるのか、食べた時に一時的に俺の力が上がるのか。この説明では、それすらわからないのだ。
「とりあえず、今食べるのはやめておくとするか……」
「賢明な判断だと思います」
リーリブもこう言ってるし、今は食べずに取っておくとしよう。
そう思い、俺は魂の実を異空間袋に放り込んだ。
「これで私の用は終わりました。明日からの旅、頑張ってください。よろしくお願いします」
「任せとけって。サクッと魔王討伐して、またここに来るよ」
「はい!」
初めてリーリブの笑顔を見た俺は、そのまま要塞天幕へと戻った。
◇
俺が奇跡(俺はまだ、0.000000000000000001%の確率を引き当てたことを奇跡だと思っている)を起こした翌日の朝。
俺たち運魔弓槍+伝説の聖龍は、霊峰キリサネを後にした。
「うーーん。とりあえず、魔物と一回戦いたいな」
「ヒカルさんの二刀流、早く見てみたいです!」
「正直言って、今のヒカルなら、この辺にいる魔物は相手にならないと思うけどね」
なぜかミナが俺のことを評価してくれたが、変に反応すると良くないことが起こりそうなのでここはスルー。
それより、魔物いないかな? ルリに良い所を見せるためにも、一回戦闘したいんだけどな。
そんな俺の願望は、リンカの一言によって簡単に叶うこととなる。
「うん? あそこにいるの、魔物じゃないか?」
リンカのこの一言を聞いて、みんなの視線が一つの場所に集中する。
そこにはリンカの言う通り、魔物がいた。
「よし! 早速二刀流を試すか!」
そう叫ぶと、俺は剣を鞘から抜いた。
左手には、俺の愛剣、神速の剣。
右手には、新たな相棒、勇者の剣。
両手にずっしりとした重みを感じながら、俺は魔物の元へと疾駆する。
ここ数日の特訓で、俺は剣の腕だけでなく、戦闘スキルも磨いた。そのおかげか、魔物の所に辿り着くまでの時間は、体感で前の半分だった。
「ハアッ!」
神速の剣が魔物を切り裂き、勇者の剣が魔物の身体を穿つ。
(手応えあり!)
走ってきた勢いそのままに、魔物に斬りかかった俺はそう感じた。
さすがに今の二撃で倒せてはいないだろうが、体勢を大きく崩すことには成功したはず……。
そう感じて、素早く次の一撃を繰り出そうとした俺が見たのは、既に倒れている魔物の姿だった。
「へ?」
あれ? まさか、最初の攻撃で倒したの? 嘘だよな? 嘘だと言ってくれ。
「やっぱりこうなったわね……」
「いきなり斬りかかるなよ。いくら何でも魔物が可哀想だろ?」
「ヒカルさん、カッコ良かったです!」
「うむ。なかなか良い攻撃だったな」
ミナとリンカには批判され、ルリとグレイルには褒められた俺。
この場合、俺は悲しめば良いのか? それとも、喜べばいいのか?
一瞬のタイムラグの後、「ルリに褒められたから喜んでおこう」と思った俺。
そして、そんなこと(後から思えば、ルリに褒められたことは、そんなことではないのだが)よりも大事なことが今はあることに気づいた。
「俺、こいつを一撃で倒せる攻撃力あったんだ……」
「今更何を言ってるんだ?」
「そんなの、わかってたことじゃない……」
え? そうなの?
と思った俺の心の声が伝わったわけではないはずだが、リンカとミナから呆れた目を向けてくる。
確かに、特訓ではミナとそこそこ良い勝負ができていたが、あれはあくまでも特訓。実戦ではそんなにうまく行かないと俺は思っていた。
「まさか、本気で驚いてる?」
「そりゃ驚くだろ。まさか特訓みたいにうまく行くとは思わなかったんだから」
「……私の本気を上回る力を特訓で見せてた奴が何言ってんのよ」
「え? 何か言った?」
「何も言ってない!」
ボカッ!
なぜか急にご機嫌斜めになってしまったミナに、俺は思い切り殴られた。




