第1話 美少女との出会い
空気に匂いがある。
心地よい風が吹いてきた。
なんと居心地の良い場所なんだ。もう少しだけ寝てようかな……。
「いや、待て待て」
なんで俺はこんなことを考えているんだ?
俺は死んだんだよな?
「けど、手足も動くし、感覚もあるんだが……」
そもそも、俺が今いる場所はどこだ? そう思って周りを見渡してみる。
「どう見ても天国って感じじゃねーよな……」
俺がいる場所は、どうやら木でできた家の中の一室らしい。そして、俺は部屋の端にあるベットで寝ていたようだ。
「どうして俺はこんなとこにいるんだ?」
そう考えるも、とにかく部屋の外に出ようと思った俺だが、そこで自分が変な格好をしていることに気づいた。
「なんだこの服? 俺こんな服持ってないんだけど」
俺が身につけていたのは、シンプルなシャツとズボンだった。まるで、RPGゲームの主人公が最初に着ているような。
おいおい、一体何がどうなってるんだ? とにかく部屋から出ないと何も解決しない……、
ガチャ。
俺が部屋を出ようと床に足をつけた瞬間、部屋の扉が開いて、誰かが入ってきた。
「あ、起きてる! 目が覚めたんですね! 体調はどうですか?」
か、可愛い……! こんな可愛い子、今まで見たことないぞ。
顔のパーツはどれをとっても完璧。おまけに身長もいいぐらいの高さだし、何より胸の大きさが俺の好みにドンピシャだ。この大きすぎず、小さすぎない感じが……。
「あの、顔が赤いですけど……。も、もしかして熱があるんじゃ! ちょっと失礼しますね!」
そう言うと、少女は俺と自分のおでこをくっつけた。
すいません、熱があるんじゃなくて、不埒なことを考えてただけなんです……。けど、今はその勘違いに感謝感謝。
「良かった! 熱は無さそうですね。でも、しばらく安静にしとかないとダメですよ! なんせ三日も寝てたんですから」
「え、俺三日も寝てたの!?」
「はい。三日前に私が住んでる村の近くで倒れてから今日までずっと」
マジか……。ということは、俺は死んだんじゃなくて、ただ少しの間、意識が無かっただけだったんだな! 良かった良かった。
何はともあれ、まずはこの方に感謝の気持ちを伝えねば。
「見ず知らずの俺を拾って、看病までしてくださって、本当にありがとうございました。お礼したいのは山々なんですけど、まずは両親に連絡をとりたいので、電話を貸していただけますか?」
「電話? 何ですか、それ?」
「えーっと、電話ですよ。離れてるとこにいる人と連絡できる……」
「? そんなもの聞いたことないですけど……」
ま、まさか、令和の時代にもなって電話を知らない人がいるとは……。
まあ、知らないなら仕方ない。別の方法を考えよう……、
(待てよ、そもそもなんで俺はこの人の家にいるんだ? 普通、ケガ人がいたら救急車に電話だろ? もし仮に電話を知らなかったとしても、さすがに病院ぐらい知ってるだろうし……)
「すみません、俺が倒れてるのを見つけたとき、俺どんな状態でしたか?」
疑問解決のために、とりあえず事故直後の俺の状態を聞いてみよう。もしかしたら軽傷だったのかもしれないしな。
「倒れてるあなたを見たときの、あなたの状態ですか? ……そうですね、全くケガをしてないのに、意識がないからビックリしました」
なんだと? 全くケガをしていない?
いくら幸運な俺でも、車と正面からぶつかって無傷ってことはないだろう。
「本当にケガしてなかったんですか?」
「ええ、身体中全部確認しましたけど、ケガなんてどこにも」
本当に無傷だったのか? 確かに、全然身体は痛くないけど。
俺の運の良さがヤバ過ぎるとはいえ、さすがにそれは……、
「そういえば、なんであなたは倒れたんですか? 何も持っていませんでしたし……」
え? 何も持っていなかっただと?
俺、鞄とか財布とか持ってたはずなんですけど?
「ホントに何も持ってなかったんですか?」
「はい、着ておられた服以外は何も……」
「その服は今どこに!?」
俺は大声で服の在処を聞いた。なんだか嫌な予感がしたからである。
そして、この嫌な予感は的中することとなった。
「どこって……。今あなたが着ているじゃないですか」
うん、やはり色々とおかしい。
車に轢かれたのに傷一つないし、持ってたものは全部なくなってるし、着ていたはずの制服は消えてるし。
(何が起こってるんだ?)
一つわかっているのは、俺は死んではいないということだけだ。
それ以外は何もわからない。となれば、次にやるべきことは必然と決まる。
「あの、ここどこですか? 住所とか教えてもらえます?」
「住所? が何なのかはわかりませんが、ここはミラナ村ですよ」
待て待て待て待て待て! ミラナ村? どこだよそれ! そんな名前の村聞いたことがないぞ!
突然意味不明な村の名前が出てきて混乱した俺だが、そこに追い打ちをかけるようにあることを思い出した。
「……今ふと思い出したんですけど、俺、真っ赤な鹿に突撃された記憶があるんですが……」
「真っ赤な鹿? ああ、あのレッドホーンなら私が倒しました!」
今の言葉を聞いて、俺はある一つの仮定を立てた。もしかして俺は、異世界に転生したのだろうか?
ミラナ村なんて聞いたこともないし、真っ赤な鹿なんて地球にいないし、そして異世界に転生したと考えると、今起きてる謎の事の全てに説明がつく。
異世界転生なんて、SFの世界でしか起きないと思ってたけどな。いや、まだ異世界に転生したと限られたわけじゃないけど……、
(これは完全に異世界転生だろ……。俺はこれからどうすればいいんだよ……)
放心状態って、今の俺の状態を言うんだろうな。色々と考えているようで、実はまだ何も考えていない。というより何も考えてなんかいられない、今の状態を。
しかし、こういった時、いつも俺を助けてくれるものが存在する。そう、運である。
俺の目の前に立つ可憐な少女は、俺の顔を覗き込み……、一瞬の間を置いて俺を抱きしめた。
「……今、あなたが何を考えいるかは、私にはわかりません。でも、話を聞くことならできます! あなたが不安そうにしている理由を話してください! 今、私にできることは、あなたの傍で話を聞くことぐらいですから!」
神様、ありがとうございます。
俺と、こんなに可愛い少女を出会わせてくださり、本当にありがとうございます。
何があろうと、絶対に生き抜いてやる。運とこの少女がいれば、もう何も怖くない! ……あ、そういえば俺、まだこの子の名前聞いてねーや。