第0話 プロローグ
「俺が交通事故で死ぬとはなあ」
俺、天草光は自分で言うのもなんだが運が良かった。いや、むしろ運が良すぎて怖いぐらいだった。
宝くじは買えば億当たっちゃうし、鉛筆転がしたら県で一番の高校に受かっちゃったし、友達や先生にも恵まれてばかりだし。
だが、さすがに運が良すぎたのだろう。俺は西暦2020年10月10日、奇しくも十六回目の誕生日の朝に交通事故に巻き込まれた。
(これまで運が良すぎた分の反動がきたか? まあ、これからは天国でゆっくりするか)
そんなことを、今俺は考えていた。ああ、なんだか不思議な感覚がする。そろそろ天国に着くのだろうか。
……ちょっと待てよ。俺は死んだんだよな? なんで今こんなことを考えられてるんだ?
そう思った途端、辺りは激しい光に包まれた。
◇
気がつくと、俺は草原に立っていた。おかしいぞ。俺は死んだはずなんだが……。
ドドドドドドドドド!
「な、なんだ、この音は!?」
物凄い音だ。しかも、こっちに向かっているような……。
「はい?」
俺の方に向かってきたのは……、真っ赤な鹿だった。え? 真っ赤な鹿?
っておい! このままだとこの鹿、俺とぶつかるぞ!
「うわあっ!」
鹿の突進を、俺は間一髪のところで避けた。今のめっちゃ危なかったぞ。
俺以外なら、間違いなく直撃してたな……。
ヒーン!
真っ赤な鹿は、鳴き声をあげながら、再度突進してきた。
「うわっ!」
それを俺は、またしてもギリギリで回避する。同じことを何回か繰り返していると、突然頭がクラクラした。
(な、なんだ?)
ヤ、ヤバイ! この状態だと次の攻撃は避けられない……!
イーン!
鹿が突撃してくる。この距離では、もう回避はできない。
う、うわああぁぁ!
「はあっ!」
咄嗟に防御姿勢を取った俺の目の前で、真っ赤な鹿は吹き飛んだ。鹿が吹き飛ぶ直前に聞こえたのは、女の子の声だろうか? 一体、何が、起こって……。
ドサッ。
そこまで考えたところで、俺はその場に崩れ落ちた。