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親友だけれど敵である

作者: clown

この作品は歴史を基にしています。

国名を変えたりなどしていますが、他の読まれる方のためにも不快な発言はお控えください。

「テメェのことだけは!!僕がこの手で殺す!!!」

「そうか!!俺もお前のこと、殺したいと思ってたよ!!!」


「殺し合いで終わるとか……最高じゃーないか!!!」


どこかの世界線。

世界は三つの国によって統治されていた。

ハーラプツ。独裁政権と軍事力で殺意の高い対外政策と初手砲撃の好戦性で生き残る軍事国家。

エグレイド。平和国家を謳う、悪逆非道の粛清国家。逆らう者は、兵士であろうと老人であろうと赤ん坊であろうと手を下し、恐怖によって台頭する大国。

アッカルンバ。腐りきった世界経済の中心を取り仕切り、何世代も先の技術力を我が物顔で振りかざす、世界最強の工業国家。

その三国は常に啀み合い、憎しみあい、殺し合い、百数年の間戦火が途絶えることはなかった。小さな国々はこの三国のどれかの傘下に入らなければ地図の上から消滅させられる。こんなにも息のしにくい世界はないと、誰かが語っていた。


さて、そんな三国にいるトップの話をしよう。これは奇跡としか言いようがなく、果てしなくどうでもいいが、それでも歴史の教科書で語られるべき事実なのだから。


「なんでこんなのに調印しなきゃいけないのー?適当に福相がやってくればいいじゃーん」

「僕だって一緒だよ。国に裏切り者がいたらしい、すぐにでも帰りたい。この手で殺して安心したい」

「殺意高いなぁwwwそんなのだから軍隊が弱くなるんだよ。多少我慢したら?」

中立国スルーツムの豪奢な円卓が置かれた会議室。かつての名残からか、多くの椅子が置かれているが、今現在、その椅子が埋まることはあり得ない。

我が物顔で充てがわれた席に座ることができるのはたったの三人だけである。

漆黒の軍服のボタンをきっちりと一番上まで留め、明るい黄色のネクタイを締めた品行方正という言葉が似合う茶髪の男がハーラプツ、と紙切れに書き込む。

投げ渡されたそれを忌々しげに眺めながら諦めて手に取った黒い手袋、モノクル、緑のコート型の軍服の黒髪の男が乱雑にエグレイドと書いてそれを放った。

その先にいた目に痛い青い軍服と対照的に色のない白髪と橙のマフラーを揺らす男は笑いながら受け取り、アッカルンバと書き込んだ。

三国の名前が書かれたその紙を、椅子に座った主人の後ろで眺めていた秘書官たちが確認して静かに息をつく。その場所の唯一の部外者であるスルーツムの代表が冷や汗を流しながらその紙を手に取った。

「こ、これでアッカルンバとエグレイド、ハーラプツの影響下にあった国の紛争が全面停戦となりましたことを、今一度確認いたします、ご足労ありがとうございました」

「全くだよ。俺は問題ないけれどそこのバカ2人が文句を言って貴重な時間を無駄にしたのだけは許せないなぁ」

停戦条約が結ばれた直後の爆弾発言。誰かがヒュ、と喉を鳴らした。

「バカだって?今すぐうちの軍を貴殿の国へと攻め込ませてやろうか、殺すぞ?」

「裏切り者には最大限の敬意と殺意を、流石だよなぁ、ていうかよく生き残ってるよね?そろそろ死ね」

「はっはっはー2人ともうるさいから核ぶち込んでいい?最悪、最悪だー、時間を浪費したとかじゃなくてーなんとなく気分を害されたー」

3人の発言に少しずつ確実に部屋の温度が下がっていく。和やかなのは3人の口調だけ。向けられた敵意に、周りは何も発せなくなっていく。代表の手に握られた紙切れが、力がこもることでシワがつく。

「……まだ殺さない。まだその時じゃない。僕の親友であるクラウスとバリーの準備が整うまでは、な?」

「どの口が親友って言ってるんだ?ただ万全の状況でないレフとバリーを殺したところで面白みなんて、なぁ?」

「面白さだとかさー、結局いつもそんなんじゃないかー、クラウスもレフも大人になりなってー!」

「「少なくともお前/てめぇより大人だ」」

「キャハハ!!」

殺意を撒き散らす彼らの耳にへばりつくようにしてつけられたピアス。

本当の親友で戦友で、今は憎しみ合う敵同士。そんな関係が、彼らをつなぐ絆の名前だった。


〜Side.E in R

血のような真っ赤な絨毯の上を歩く。等間隔で並べられた兵士が全員震えるほどに背筋を伸ばし、決められた角度で敬礼をする。その光景にイラついて、言葉を吐き出した。

「敬礼をやめろ」

呟くように言ったその言葉を近くにいた兵士が聞いたのか気をつけの姿勢に戻る。奴の額から溢れる汗が暑苦しいが、それよりもその兵士が敬礼をやめたことに他の兵士がざわついたほうが耳障りだった。

「今声を出した奴をつまみ出せ、早くしろ」

少し声を張り上げて言った発言を聞いて廊下が阿鼻叫喚の騒ぎとなる。赤い絨毯が本物の赤と染まるのに、ほんの少しだけ心が満たされた。

「本日はお疲れ様でした」

「……」

「本日我が国で発見された裏切り者の数は15人。国家運営に支障はないと思われます」

「……そうか」

「どう言う処罰を?」

「労働場にでも入れておけ」

「了解しました」

余計なことを一切喋らず、決められた任務報告と自分の問いかけにしか答えない秘書官。喋ることは許されず、気配を極力殺すことを命じられた護衛。

そして僕。

静かな空間だが気を抜くことはない、こいつらであれどいつ裏切るかわからないのだ。ここに安心できる場所などないのだから。

「秘書官、君はあの2人(・・・・)に会うのは初めてだったか」

「ッ……?!……はい、前任者から引き継いでまだ一ヶ月なので…」

「どうだった?」

「と、言いますと…?」

「そのままだ。あの2人を見てどう思った」

「……失礼ながら、アッカルンバのバリー様はあの技術力でのし上がる国を統治しているとは思えないほどの無邪気さ、と言いますか、サインにも乗り気ではなかったようですし、まだ余力があるように思えました。ハーラプツのクラウス様は野蛮な国家を運営しているとは思えないほどの綺麗さ、が目に焼き付いているように思います。どこからあの非情な国家運営が生まれるのか私には分かりません」

「……ふ、はは、ははっはははははははっはははははははははははははは!!!!」

秘書官が驚いたような顔をして、青い顔をして感情を押し込んだ。

「そうだよなぁ、そう見えるよなぁ、あいつら、くっ…ははは!!……はぁ、いや何、そのままの感想すぎて面白くなくてな。逆に笑えてしまった」

「申し訳ございません!!自分の浅慮で不適切な発言をっ……!!」

「別に構わない。あーだが君がこの先の人生を有意義に過ごすために僕から助言をしておこう」

秘書官だけではなく、護衛までもが抑えきれない驚きでこちらを見ている。自分が今まで行ってきた行動の自覚はあるつもりだが、こんなにも驚かれるのは心外だ。

窓に映る自分の顔がひどく嬉しそうに歪んでいるだけなのに。

「バリーは、僕たちの中の参謀でな。よく頭が回る。あの口調は反動みたいなものだ、どうせ駄々をこねている間に少しでも時間を稼ごうとでもしていたんだろう。あいつが面白半分でやった作戦で十数年間続いた戦争が終わるくらいだからな。クラウスは指揮系統はただの暴れ馬だ。あいつほど雑な作戦で戦勝を重ねる国主もいない。自由奔放なリーダー様はカリスマがダダ漏れで優秀な人材が周りに集まるんだよ」

椅子から立ち上がり、窓の外を見る。

どんよりと沈んだ空気が流れるこの国が今も昔も変わらずに自分に向けて現実を突きつけてきた。

「軍隊に準備をさせろ」

「?!」

「あの条約で顔を合わせたのは確認だ。そろそろ飽きてきた頃だからな」

平和とは言えない世界に生まれて、毎日顔を合わせて遊んで、飽きたから徒党を組んで軍の中で台頭し、それにすら飽きてそれぞれ好きな国で敵として遊ぶ。世界が自分たちの遊び場だ。

何億人死のうと構わない。【最高の親友(裏切り者)に最大限の敬意と殺意を。】

「世界最強は我が国だと、証明する」


〜Side.A is B〜

自分が住む国だけ大陸が離れているせいで、移動に時間がかかる。今回の会談のためにあいつらは1日しか時間をとってないだろうなー、とか思いながら船内をうろうろと歩きまわった。止まっていると思考に溺れて気持ちが悪くなる。落ち着きがないと昔言われたけれどそいつはバカだったから特に耳は傾けなかった。

「バリー司令官」

「んー??」

「お部屋に戻られてはいかがですか?もうすぐ本国です。少しでも体を休めた方がいいですよ」

『バリー、動きを止めるな!!!馬鹿な俺にはわからん!!!』

『っるせ、おいバリー、通訳してやるから取り敢えず話せ。てめぇが居ないとここいら全滅だ』

「んーんーんー???」

「それとも何か不備が?指示とあらば本国に繋ぎますが」

『親友だから言わせてもらうけどな、こんな作戦は認めねぇ。誰の犠牲も無しに戦争をしようとするな。僕は死にたくない』

『レフのは私情を挟みすぎだと思う、けどな!!これだけ優秀な人材がいるんだ!極限までこき扱ってやれ!!』

こいつも馬鹿だ。みんなみんなバカで馬鹿ばっかでどいつもこいつも阿呆面してただ上を見上げて睨むだけだ。

いつもいつも同じ目線で間違っていると言ってくれるのは2人だけ。親友の、2人だけ。仲は悪いし、殺したいし死にたくないし、けど分かってるはずだよ。

「少なくともねー、あいつらは馬鹿だけどー阿呆ではなかったよ」

頭が悪いなりに頂点まで登りつめて全員殺してたよ。

1人は残虐に。

1人は冷酷に。

秘書官が訳の分からないっていう顔をしてる。それでいい。今はその方がわかりやすい。

「あぁ、そうだー、本国にねー、全部隊出航って指示だしてー」

「は………?」

「戦争だよ!最後の戦争だよ!!」

『戦争は楽しい!!!』

『あの戦争(ゲーム)は面白い』

唯一共感できなくて、それでも理解してやれた。

「レフとねークラウスをねー奴隷にして遊ぶんだー」

「お戯れを……!!!先の戦争で兵は疲弊しております!!本日の条約「黙れよ」」

「馬鹿の言い分なんざ、関係ないよ」

足をまた進める。少しだけ気分が悪くなってけど、あいつはどうせ本国に連絡するよ。それから戦争が始まるよ。

「我々はこれより!!!ハーラプツへと向かう!!」


〜Side H in K〜

国が沸いていた。

特に執着もなく、思い入れもなく、ただ強くなれそうだと強大な指導者を必要としていただけの自分にとって都合のいいだけの場所だった。

国が沸いていた。

当たり前のようで当たり前ではないその光景に震えが止まらなかった。

「ご報告を!!総統閣下!!!」

「なんだ」

「エグレイドと、アッカルンバが、我が国に宣戦布告を……!!」

「どういった要件で?」

「いまいちはっきりしません…。エグレイドは恩を仇で返すため、アッカルンバは頃合いだと思って、というものです…」

「ふぅん……」

俺たちは今はもうない国の弱小軍の出身だ。名前を出せば、そんな訳ないと誰もが笑うだろう。

そこから散り散りになって、こうしてまた出会って、あぁもしかしてレフにとっては当たり前で、バリーは予想通りだったかもしれないけれど、まぁいいや。

いつだって天才司令官(考えるの)()()()鹿()で、いつだって最強の護衛官(闘い続けるの)()()()()()なのだから。

俺はただ隊長として(前を向いて)あいつらの()()()を受け入れればいい。

語れるのは、これだけなのだから。

「全面戦争だ!!!全力を持って奴等を迎え撃て!!我らの目指す先にあるものは全ての改革である!!この国を世界の頂点にするのだ!!ただ前進するのみである!!!」





戦争は激化した。

後の時代に深い傷を残すほど。

人が毎秒、毎コンマ死んでいく。

赤い大地で、3人の化け物が対峙した。

彼らが歴史に描かれる理由はただ一つ。

「久しぶり、というほどでもないな」

人を人と思わず殺すその冷酷さと戦争をゲームと言い切るだけの圧倒的な実力でもなく。

「そうだねー、まぁ大体わかっててあれしたんだしねー」

先を見通すだけの頭の良さと戦争が嫌いなのにあっさりと国を壊す無邪気さではなく。

「分かりきってあれだけ時間を稼いだお前らがすごいよ」

圧倒的なカリスマ性と残虐に人を殺すのに歩みを止めないその気概でもなく。


彼らが親友だから語られていくのだ。


親友だけれど

親友()だけれど

その武器を違えることはない。


3人のお揃いの武器が、鈍い音を立てる。

ピアスが悲しげに光る。

結末がわかったままに殺しあう(語り合う)



「………………予想、どお…り……」

「逝ったか……」

「お前もどうせ死ぬ」

「知ってた」

頭の良さもカリスマ性も武力で制したものに勝てるわけがない。

「おめでとう、レフ」

生きた者の音がない世界にたった一つだけ鼓動が響く。

赤い大地に、最も赤が似合うものが残った。

多くの者の命を吸った大地に一滴だけ涙が流れた。

「1人に、すんなよ…」

側に敵の亡骸を置きながら。


司令官を失ったアッカルンバは指令系統が乱れ、呆気なく全滅。

総統を失ったハーラプツは恨み言を吐きながらの特攻を繰り返し、鎮圧された。

世界はエグレイドに支配されたがその体制はすぐに崩壊。世界総帥の最後は公にされぬまま、世界は再び多くの国を所有することとなった。

この戦争で失われた命は約五億人。

世界人口の十分の一にも相当し、その後の被害は何十年と蔓続けた。


歴史の教科書は多くを語らない。

歴史の教科書()多くを語らない。


それは世界から爪弾きにされた極東の小さな国のお話。


『────!!』

『──w─────?』

『─────!』


間違えてしまった、親友たちの物語(日記)


時代が、再び遡る。

ここまで読んでくれてありがとうございました。

感想をお聞かせ頂けると幸いです。

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