第97話 つい安心して
お、お待たせしました……
もう、ね? 全然アイデアが降ってこなかったこの休日な訳ですよ……
一応、書けましたけど何かがブレブレの可能性もアリっちゃアリかもですね(/。\)
月曜日、頑張っていきましょ……
よろしくお願いします!
「……とは、言ったものの」
「どうした、神戸?」
先に帰るか、マノンが先に帰るのを待つか。少しだけ迷うところだ。
のののはもう帰るのか、鞄に荷物を詰め込んでいる。勝也も部活に出掛けた。寄り道でもしようかと考えてみるも、それならさっさと家に帰りたい感じもある。
「いや、この後どうしよっかなぁ~って」
「暇?」
「帰宅部だしな」
「私も」
荷物を詰め込んで、帰る準備万端を整えたのに帰らないののの。俺も帰る準備を整える。
そして――何も言わなくたってそれが当然の様に、歩き出せばのののも歩き出す。「一緒に帰ろう」なんて言葉で確認する必要は微塵もない。
都合が悪ければそれぞれ勝手に帰るし、都合が良ければ一緒に帰る。遠慮や気を遣うなんてしなくて良い関係ってのは、とても楽だ。
「どこか行きたい所ってある?」
「……どこでも良い」
「そっか」
「でも、出来る男は」
どこでも良いと言いつつも、俺を容赦なく試しはするらしい。
どこに行くのが正解なのか考えつつ、学校を後にした。
◇◇◇
「アイスココアとアイスカフェラテで」
本屋にでも行こうとも考えていたが、やって来たのは珈琲チェーン店だ。
ここなら座って時間を潰せるし、のののから借りた本だって読める。のののからしたら正解じゃないかもしれないが、及第点くらいはなんとか欲しいところだ。
レジで飲み物を受け取り、二階の隅っこの席へと移動した。
「今日も終わったな~」
「疲れた」
「まぁ、何事も無かったし良い一日と言ってもいいかもな」
「本、貸した」
「まぁ、そうだけど。ここで言う『何事』は平穏が揺るぐレベルの何かだから」
「ふむふむ……それなら一つ。あえて言わないけど」
何か意味ありげな空気を纏っているが、あえて聞かないでおこう。本当に平穏が揺れるレベルのなら怖いしな。そのレベルじゃなくてもなんか怖そうだ。
カフェラテを一口飲んで、借りた本を鞄から取り出す。
普通なら目の前に居る相手と会話を楽しんだりするものだが、特に今は話す事も無い。ましてや沈黙がツラいなんてことが、のののとの間にあるわけもない。
だから遠慮無く、続きのページから読みだした。
ペラ、ペラ……とゆっくりめに本をめくる音が二人の間に流れる。周囲の会話は雑音にしかならない。
「今、何ページ?」
「五二ページの三行目だな」
「『オレンジの色に染まった並木道を二人で歩きながら』……ってとこ?」
「正解」
のののの声より周囲の雑音の方が大きいのに、ハッキリと聞こえるのは何故だろう。意識を向けると違うものなのだろうか……そこまで考えて、そうだろうと結論を出して、また本に意識を戻した。
物凄い記憶力に驚くこともせず、三割程度に減った自分のココアと、七割近く残っている俺のカフェラテを隠す素振りもなく交換しているのののの行動すらも気にせずに、ただ本を読むことに時間を割いていた。
結構な時間が経過した事に気付いたのは、何気なく本から視線を外に向けた時だった。夕日が街をオレンジ色に染め上げ、さっき読んでいた情景と重なっていた。
「『もう、こんな時間か。綺麗な空だ』……なんてね」
「『空は見る人の心次第で、その美しさが変わるのよ』……だっけ?」
「同じ本を知ってると、こういうやり取りもできて楽しいよな」
「楽しい」
たぶん、本を見ない状態なら印象に残るシーンしか言う事はできないだろう。それでも……少なからず同じネタを知ってるというだけで、それだけで楽しかったりするものだ。
本に栞を挟んで鞄に入れる。それからコップを返却口まで持っていき、俺達は店を後にした。
こんな時間の使い方は一人の時か、のののと一緒じゃなければ出来ないだろうと思った。二人で居て沈黙していても決して気まずくない。碧とでさえ同じ状況になれば、もっと話さないといけない……という気持ちが出るはずなのだ。
本当はのののだって、もっとちゃんと会話をしたいと思っているかもしれない。
だとしたら――それは俺が謝らないといけない案件だ。でも、“それ”を込みで表情にも口にも出さずにただ静かにしているのなら、俺は謝罪ではなく感謝をしないといけないだろう。
俺に気まずさを与えず、何も言わない事であやふやにして謝らせない。これすらも憶測で、実際にのののがどう思っているのかは分からないけど、俺もそれに従って無粋な言葉を口に出すのは止めるべきだろうな。
と、すると――だ。さっきのやり方を使い回すのが良いだろう。俺は再度本を取り出して、ページをめくっていく。
「ええっと……何ページだっけな。あった……六八ページの二行目の終わりから三行目あたり」
「――うん。約束」
のののにしか使えないが、便利なやり方だと思う。使うには、まずもって俺が本を読み漁らないといけない訳で、言いたい事が本に載っているかは分からないのが難しい所ではあるけれど。
それから駅までのののを見送り、帰り道の途中にあるコンビニにちょっと立ち寄って、本命と偽装用の駄菓子を買ってから、少し騒がしさの増した我が家へと帰宅した。
「ただいま~」
「あっ、お兄ちゃんお帰り~」
気の抜けた言葉に気の抜けた言葉で返して来たのは、たまたま洗面所から出てきた碧だった。家では“ちゃんと”ダラける性格はいったい誰に似たのだろうか。
碧と入れ替わる様にして先に手洗いうがいを済ませてから、部屋に戻った。
――ナチュラルに部屋に居座っている碧とマノンに、今さら驚きはしない。
「お帰りなさいですよっ」
「はいはい、ただいま。さ、出て行った出て行った」
「まぁまぁ、そうお堅い事は言わない約束でしょ?」
「そうだよ、お兄ちゃん! マノン姉が居る時くらいは、ね?」
「のののの後に、お前達を見ると……アレだな。落ち着きが足りなく見えるな」
もともと性格的にものののとマノンや碧では、その基礎テンション値に大幅な差があるわけなのだが、知っていても脳がついて来ない場合もあるのだと、今知った。
別に明るいマノンが悪いという事ではないのだが……暗い場所から急に明るい場所に移動したかの様な、そんな感覚がある。
「ほほぉ~……ののさんとどこに行ってたんですかぁ?」
「珈琲店だ。そこで本読んでたな」
「……えっ。私が言うのもなんですけど、それだけです?」
「そんなもんじゃないか? 普通」
「いえ、場所は良いんですけど……もっとこう、最近ハマっている物について話すだとか、一日を振り替えってみるとか」
「おっ、それならしたぞ? 『今日も終わったな』『疲れた』って!」
「かぁ~、ののさんが不憫でならないですよ私は! ああいう性格なんですから、青さんがもっと引き出してあげなきゃじゃないですかっ!」
そうか。やっぱり、それはそうなのか。気まずくないからとか、沈黙でもうんぬんとかではなくて……俺から普通にお喋りをするのが正解なんだな。
マノンなら勝手に喋ってくれる。勝也だって話題を提供してくれるから、自分から積極的に話を展開させる事を最近は忘れていたかもしれない。
のののは口数こそ少ないが、意外と最初の一言をくれる事が多い様にも思える。だから、話し掛けて来ないなら話す事が無いんだと、なんとなくで判断していた。そこに安心しきっていた部分がたしかにある。
「す、すんません……沈黙でも気まずくないから安心してました」
「なんですか! それは! 逆に羨ましい……じゃなくて、フォローが大事ですよ、フォローが」
「フォローねぇ……後でチャットでも」
「とことん青さんはノンノンノンですね……」
「指を左右に振るなよ……いったい今日は何キャラなの?」
「マノンちゃんはいつだってマノンちゃんですよ! ですから、いわゆる『鉄は錆びないうちに』?ってやつです!」
おそらく、『鉄は熱いうちに打て』みたいな事を言いたかったのだろう。なんとなくのニュアンスで伝わりはしたけれど、たしかにマノンらしい。
せっかくのアドバイスだし、早めにチャットを送っておくことにしよう。だが、その前に――
「さ、出て行った出て行った」
「ちぇ~、ですよ」
「一旦引き上げよう、マノン姉」
晩御飯の時間になるまで部屋でのののとチャットを交わし、呼びに来たマノンと共にリビングへ向かって行った。今日の夜ご飯は肉じゃがだとか。
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