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第96話 自分を信じる力……すなわち


お待たせしました!!

あと4話で100話ですねぇ(´ω`)


よろしくお願いします!


 


 教室に入って、最初に勝也と目が合った。軽く手を上げて挨拶を交わし、荷物を自分の席に置きに向かう。


「おはようののの」

「おはよ」

「グッドモーニングののの」

「グモニ」


 文庫本から目を離しはしないのののとも、朝の挨拶はしておく。

 反対側の席の紅亜さんは……どうやらどこかに行っている様で今は居ない。遠くの席で、マノンがクラスメイトとお喋りしているのも見えた。

 椅子に座り、机の中に教科書類を入れてホームルームの時間まで待機する。いつもと変わらない。

 いつもと変わらないという事はどういうことか。それはつまり、俺はこの四〇人近く居るクラスメイトの中で、気になる人物が勝也、ののの、紅亜さん、マノンの四人しかいないという事だ。


 前はもっと普通に接していたクラスメイト達だが、今は用事が無ければ話し掛けに行かない関係だ。別に寂しいとは思わないけど、少しだけ勿体無いと思ったりする。

 楽しい出来事は、分かち合える人が多ければ多いほど楽しくなるからだ。四人も入れば良いと思ってるからこそ、本腰を入れてまた仲良くなろうとしていないのだが……。


「おは、よう……」

「あっ……おはよう」


 横から静かに挨拶が届く。その声にいつもの覇気は無かった。

 昨日もそうだった様に思える……やはりまだ日曜日の事を引きずっているのかもしれない。

 気持ちは分かる。俺だって、気まずくないと言えば嘘になる。『かなり』ではないけど『そこそこ』の気まずさで、別れた直後みたいな気まずさとも違う。

 お互いに何を考えているのか分からないから、こんな雰囲気になってしまうのだろう。だが、何をどうすれば良い方に転がるのか、そもそも良い方向とは何なのか……分からないの沼へと沈んでいってしまう。


 挨拶を返したっきり、紅亜さんから声が掛かることもなく担任の桜先生がやって来て、ホームルームが始まった。


「はい、今日もこれと言った事はありませんが……もう五月も終わって六月になりますね。体育祭とかで忙しくなるので、体調管理には気を付けるように。じゃあ、一時間目の準備に入ってくださーい」


 一時間目は現代文で、準備するものといえば教科書とノートくらいだ。

 先生が教室から出ていくとすぐに、各所から話し声が聞こえだす。出歩く人もいる中で、俺は座ったまま机に片肘をついてボーッとしていた。


「神戸」

「ん~? どうした、ののの?」

「暇なら本」

「まぁ……たしかに何もしてないけど、暇って訳じゃなくて、ただ何もしたくないだけみたいな?」

「……本貸す」

「よほど面白い本だったんだな……分かった分かった。借りるよ」


 読んで欲しいくらいオススメらしく、無表情ながらもその瞳は感想を期待している瞳をしていた。

 たしか前に、体育館で本をオススメしてくれるとかなんとか、そんな話した覚えがある。この本もきっと、初心者向けの読みやすい本なのだろう。


 のののから受け取った本のカバーを外し、表紙や帯を確認するとジャンルは恋愛もので、『話題の』とか『泣ける』とかの文字が目立つ様に書かれていた。

 いろんなジャンルの本を読むのののだけど、タイミングの問題という可能性もあるが、最近は恋愛系の小説を読むのが多い気がする。

 ミステリーや純文学や何かの専門書だって読んでいるのだろうが、何を読んでるのか聞いてみた時は、だいたい恋愛系を読んでいるし。


「のののみたいに早くは無いからな?」

「終わったら話す」

「はいはい、休み時間にでも読み進めるよ」


 何もすることが無かったし、たまには読書も良いだろう。別に休み時間の度に誰かが話し掛けてくる訳でもないし、時間だけは他の人よりも確保しやすいのだから。


 そのまま昼休みまでの休み時間に、ずっと本を読み進めてみたが……十分(じゅっぷん)の休みではなかなか進まず、もう数日は掛かりそうな気がした。


「青、パン買ってくるから待っといて」

「了解」


 昨日とは違い、マノンがのののと紅亜さんを俺達から離れた席に誘っていたから、今日は勝也と二人で食べることになりそうだ。

 先に弁当箱を広げて……思った。そういえば、前はマノンに俺の弁当箱を貸して、俺がタッパーだったけど今日は逆なのだろうか? と。それとも、もうひとつくらい弁当箱が家にあったのか。

 思い出そうとしてみるも、自分が普段からそんな事を気にしていなかったのが、分かっただけだった。


 マノンの所まで見に行けば解決だが、まぁ……そこまでするほどの疑問でも無い訳で。それをするくらいなら借りた本を読む方が待ち時間を有効的に使える訳で。

 さっそく本を取り出して、(しおり)の挟まっているページを開く。


「読んでる?」


 水筒を取りに来たのだろう。本を読んでいる俺に気付いたのののが、水筒を片手に近付いて来た。


「読んでるよー、まだ序盤だけど」

「そう。……神戸、美味しそうな卵焼き(・・・・・・・・・)

「そうか? ののの、ひとつ食べてみる?」

「いただく」


 のののに手で食べさせるのもどうかと思い、食べる準備をしていただけでまだ使ってなかった箸を貸した。

 あまり口を大きく開けないののの、「あむっ……」と噛んだ一口では、半分ほども食べれていなかった。


「美味しい」

「そりゃ、良かった。他のも何か食べてくか?」

「味見はもう十分(じゅうぶん)


 そう言って箸を返してきたのだが、弁当箱にはネズミにでも(かじ)られたかの様な卵焼きが残されていった。二つあった卵焼きの半分を食べるか聞いたつもりなのだが、ののの的には一口だけで良かったのかもしれない。

 それから少しして、勝也がパンをいくつか手にして戻ってきた。


「待っといてとは言ったが、一口食べるくらいなら先に食べ進めても良かったんだぞ?」

「かなり腹が減ってたらそうしてた。これは、のののが齧ったやつだから気にするな……よし! さっさと食っちまおうぜ!」

「まぁ、そう慌てんなって! ゆっくりしようぜ? 聞きたいこともある訳だし」


 聞きたい事……とは、おそらく紅亜さん関連だろう。俺も相談するなら勝也に、と思っていたから助かる。昨日は俺の都合で、放課後の予定を無しにしてしまったから、勝也からまた話題を振ってくれたのもありがたい。

 やはり、出来る男は違うなと感心してしまう。俺は声のボリュームを少し下げて、周囲の様子を見ながら話を切り出した。


「まぁ、なんつーかなぁ~。ギクシャクとは違うんだけど、変な気まずさがある……みたいな気がする?」

「なぜに疑問系……そりゃ、青は新山さんの“出方”を待ってるのかもしれないけどさ、新山さんだって自分の振る舞い方が分かんないんだろうよ」

「そういうものか?」

「例えば俺と青が喧嘩して、その原因が青の勘違いだとするだろ? しかも、青からめちゃくちゃキレて来たとして、何日も経ってから勘違いと知ったとしたら……どうだ?」

「間が開けば開くほど……なんかあれだな、言い出しづらいというか……謝るのはもちろんなんだけど、変な壁が立ち塞がっているような?」


 とても分かりやすい例え話だった。

 あの優しく頼りになる勝也に対してキレて、めちゃくちゃ怒らせてしまったとするなら、関係を修復させようにも元通りにはならない可能性だってある。

 どこかで「あの時……」みたいに思い出して、気を遣い、元の気軽な関係には戻れないかもしれない。

 しかもそれは、一番仲直りが上手くいったパターンで、だ。下手すると形だけの仲直りなんて事もあり得る。


「完全にそうとは言い切れないけどさ、今の新山さんもそんな感じなんじゃねーの?」

「なぁ……俺はどうすれば良いと思う?」

「好きにすれば良いんじゃない? 笑い話にしてやるのも()し、別々の道を選ぶのも()し」

(まよ)って(まよ)って……自分で決めろってことか」

「まぁ……アレだ。うちのバスケ部の先輩が言ってたぞ『俺は選択肢が多いと迷うタイプだから、ドリブルを極める』って。それもひとつの方法じゃね?」


 一点突破に振り切った考えだとは思うけど、だからこその強さもあるように思った。自分に出来ることを最大限に発揮するって考え方は、けっこう好きだ。

 何より、自分で決めた事を貫く姿勢に格好良さを覚える。


「その先輩は……」

「強いぞ。フリースロー対決なら負けないんだが、一対一じゃ勝率がちょっと……な?」

「でも、試合だとパスやシュートをしないといけない場面だってあるだろ?」

「そりゃあ、な。でも、あの先輩からドリブルの練習を一番多くした事に関して、今までに『後悔した』みたいな発言を聞いたことは無いな」

「なんなの? バスケ部って見た目も中身もイケメンが入部条件なの?」


 知らない先輩だけど、その格好良さに男気みたいなのを感じる。

 自分はドリブルしか出来ないのではなく、ドリブルなら負けない。そう言えるまで練習した自信とかが、全ての源になっているのだろう。だが、普通はそこまで特化したことをするのは難しいと思う。

 平均的に能力を上げようと思うだろうし、その中で得意な部分を伸ばそうとするのが普通だと思うし。

 自分で進む道を決めるというのは、失敗しても誰も責めることが出来ないということだ。決めた時点で、動かないのも失敗だし、途中で止まってしまうのも失敗になる。選んだ事が本当に正しいのかも分からない中で、ただ進んでいくしかない。


 ――だからこそ……その道を、進めば進むだけ迷わないという強さが自分に返ってくる。自分を信じる力……『自信』ってやつだ。


「いやいや、その先輩が少数派なだけだって。憧れはするけど、俺は俺でオールマイティーを目指してるしな」

「たぶん……大事なのは自分で決めるってことだよな。ありがたい言葉をありがとう。やっぱり、相談して良かったわ」


 勝也はカレーパンを口に含みながら、親指を立てて反応を返した。

 話の方に比重が傾いていたこともあって、弁当箱の中身はまだ半分以上残っている。まだ時間的な余裕はあるから問題は何も無いけど、少しだけ食べるペースを上げてみた。


「昼休みの残りはどうするよ?」

「ん~、駄弁りで良いんじゃない?」

「だな。下世話な話でもするか」

「最高に暇を持て余している感じ、俺は嫌いじゃないぞ勝也」


 昼休みの残りは、くだらない話で盛り上がってそのまま過ぎ去り、午後の授業も何とか乗り越えた。

 そして、部活をしている者にも帰宅部にもお待ちかね、バイトがある人は知らないけど、つまり……ほぼ全校生徒にはお待ちかねの放課後がやって来た。

 とは言ったものの、帰宅部はすみやかに帰るだけなんだけどな。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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