第94話 気を付けること
お待たせしました!
右カノ→新作の書き貯め→右カノ
の、ペースで書いてまする(´ω`)
「こらこら、何ノックも無しに部屋へ進入して来てんの? プライバシーだよ? プライバシー」
「……てへっ?」
やかましい……。でも、飲み物は受け取っちゃう。ちょうど何か飲みたいと思っていたから、それに関してはタイミングが良かったし、運んでいただきありがとうございます、だ。
けれども、ノックをしない――それはとても良くない行為だ。手が塞がっていて、ドアノブを動かすのが精一杯だったのかもしれないが、声は出るだろう。
「マノン、お前を泊めるのは家族としてだ。『親しき仲にも礼儀あり』という言葉を忘れないでくれよ? いくら家族といえ――」
「お兄ちゃん!」
「……碧。お兄ちゃんの説得力がゼロになっちゃうよ? ノックは? ノックをしてって、いつも言ってるだろ?」
「……てへへっ?」
風呂に入り終えたばかりで、まだポカポカしているマノンに説教している途中で、これまたポカポカしている碧が入ってきた。
手に宿題を……それとお菓子を持ってきていた。
そんな碧が入って来てしまった事で、マノンの認識として『神戸青の部屋にはノック無しでオーケー』みたいになっているんじゃないかと、不安になる。
「……ふふふ」
あぁ、ダメだ。完全にそう思ってる様子である。これはつまりで部屋に居る時でさえ、油断が出来なくなってしまったということか。
部屋に鍵が付いていれば良いのだが、そんな物は家の方針的にも付いていない。
強く言えばマノンはやらなくなるのだろうが、初日から厳しくするのには躊躇いが出てしまう。どうしても加減が難しい……なんだかんだで、甘くなってしまう。
「マノン、とりあえず机使って良いから先にやってて。俺は、碧の髪をちゃんと乾かしてくる」
「えぇーっ? 今日はちゃんと乾いてるよ?」
「いってらっしゃいですー」
なぜか碧は、ドライヤーを中途半端で終えてしまう。外側をサッと乾かすだけで、内側はまだ湿っている状態なのに。
本人はドライヤーで髪が傷むのを嫌っているのかもしれないが、濡れたまま放置するのだって傷む原因だ。
「髪だって長い方じゃないんだから、大変って訳でもないだろ?」
「ぶぉぉぉ~~ん」
洗面所でドライヤーと櫛をを使いながら、碧の髪をサラサラに仕上げていく。
こんな事をしてあげるのも、まだ碧が小学生だからだ。中学生になれば、おそらくしてあげる事も無くなるだろう。
そんな一抹の寂しさを覚えていると、玄関の方から「ただいま」の声が聞こえて来た。
「……はい、これで終わり。碧、お父さん帰って来たからマノン呼んで来て」
「分かった!」
碧をマノンの元へ遣いに出して、俺は先にお父さんを出迎えに向かおうとしていた。
すると――流石と言うか、靴を脱いでるお父さんの近くには、既にお母さんが居て軽く事情を説明してくれていた。
「あなた、マノンちゃんがまた泊まりに来てくれたわよ! それも、一週間もだって」
「賑やかになりそうだな。でも、一週間って……」
「えぇ、何やら事情はありそうだけど……あの子が聞かないでくれって言うから、そうしておきましょう?」
「まぁ、マノンさんが大丈夫なら、それで良いか」
そんな会話が聞こえて、心の中で感謝をしておく。マノンを受け入れてくれる両親に、息子を信用してくれている両親に。
「青からななの……と言うよりはののさんの件については何か聞いたか?」
「うーん……それはまだ聞いていないけど、女の子を連れて来るくらいだし、深刻な状況では無いんじゃないかしら?」
「なら、良いんだがな。友達って言っていたし、仲が悪くなったりとか、あったらと思ってね」
「あなた……。そうだ! 良いことを思い付いたわ! 呼べば良いのよ」
……はっ? 呼ぶ? いやいや、それは流石に。何が良いのかも全く分からないし。
マノンが居るこの状況でのののを連れて来ると、どうなる? のののからはいろいろと問い詰められるだろう。同じクラスの女子に、同じクラスの女子が泊まっている状況を問い詰められとか……のののだから広まったりはしないだろうけど、なんかこう……精神的に追い詰められそうだ。
「皐月、それは……」
お父さんも同じ男として、俺の事を考えてくれたのだろう。
流石に、ね? 碧の部屋に三人は無理だし、他の部屋に空いてるスペースはあるけど一人だけというのもなんか申し訳ない。
俺の部屋で碧が寝れば、問題という問題は無くなる。と、そこまで考えて、危機を察知した。もっと否定する材料を集めないといけないのに、いつの間にか大丈夫になる方法を探していた自分に。
まぁ、お父さんが断ればお母さんも考え直すだろう。
「ななも呼んで、皆で話し合うのも良い機会と思うのよ。ヒートアップしそうでも、第三者のマノンちゃんが居てくれるから落ち着けると思うし」
「流石だな、皐月。それでいこう!」
「ちょっと待った! お父さん! そこ、否定する流れでしょ!?」
あっさりと流されてしまうお父さんに、つい黙っていられずツッコミを入れてしまった。前々から思っていた事ではあるけど、ちょっとばかし、お母さんに甘すぎる気がする。
のののだけじゃなく、なななさんも呼ぶとか……いつかは会いに行こうと思っていたけど、絶対に今じゃない。のののにはマノンの、マノンにはのののとの話をしなければならないし、それは両方にとって良いものか判断が出来ない。
うちの両親に何か言われても、マノンは断れないだろう。「良いですよ」と言ってしまう。本気のマノンから本当に良いのか、良くないけどそう言ったのか見抜く自信が無い。
「おぉ、ただいま青」
「おかえりっ! のののを呼ぶのに俺は反対」
「お母さんは賛成、まぁ……ななが来るかなんて、そもそも分からないけどね」
「青、冗談だから大丈夫だ。マノンさんが居る手前……な。お前とののさんの関係が悪くなければ、それで良い」
「だ、だよね? 少し焦った……」
足音が二つ、近付いて来る。呼びに向かわせてから、思ったより時間が掛かっているがマノンと碧も玄関に集まった。
いらっしゃい、お邪魔してますという、お父さんとマノンのとても簡単な挨拶が終わり、お父さんの動きに合わせる様に皆で一緒にリビングの方へ移動した。
「マノンさん、一週間くらい泊まるんだって?」
「はい、お世話になります」
「まぁ、うん……気楽にして大丈夫だから。分からない事は青か母さんに聞いて」
「分かりました! 何かお手伝い出来ることがあれば、いつでも呼んでくださいねっ!」
マノンの明るさは、お父さんにとっては新鮮な様でどこか落ち着かない様子に見えた。気持ちは分かる。
普通は相手との距離を少しずつ近付けていくものだが、マノンは逆で、最初に踏み込んで少しずつ離れていく。そう多くない距離感の掴み方をするタイプだろうな。
「青には勿体無いくらいの良い子だな~」
「いえいえ、そんなことは無いですよ! 無いですとも!」
話の流れが変わるのを感じる。
これは、完全に会話に加わらなくてもイジられるパターンのやつだ。どうせこの後、得意気に「青、マノンさんを泣かせるんじゃないぞ!」とかお父さんが言い出す。間違いない。
「青、いつからお付き合いしてるんだ?」
「おぅ……予想の斜め上の感じで来たよ。別に付き合ってる訳じゃないよ?」
「えっ……あー、そうなんだ。女の子を泊めるって事はそういうことかと……こりゃ、失礼しました」
「い、いえいえ……でも、青さんには仲良くして貰って感謝してますよ!」
どちらかと言えば、お父さんの考えの方が正論な気がしてくる。付き合ってて泊めるのと、付き合ってないのに泊めるのでアンケートを取れば……たぶん、八対二くらいの結果になるだろう。
お父さんやマノンはまだ話したい事があるかもしれないが、これ以上ここに居ても俺はイジられるだけだろう。だから先に、さっさと退散しようと思った。
「俺は部屋に戻ってるから」
「碧も、宿題!」
「あっ、そうですっ! 私も宿題があるので、失礼します」
「そうか……皆で頑張って。じゃあ、私はご飯にでもしようかな?」
「すぐ、準備しますね」
子供組の俺達は、リビングを後にして部屋へと戻って来た。
マノンと碧の宿題は、途中どころかまだ始まっていない。俺はもう終らせてあるから高みの見物といきたいが、いつもの勉強時間の開始が少し遅れていて、そんな余裕は無い。
予習しながら碧が持ってきた“俺の”お菓子を食べ、復習をしながらマノンの持ってきた“俺の”ジュースを飲む。
飲み物に関しては冷蔵庫に入れていたからバレるのも仕方ないが、お菓子に関しては完全に机の引き出しから取られている。
俺がこの一週間で気を付ける事の最たるモノは、自分の飲食物に名前を書いておくことかもしれない。
碧というお菓子を貪るハイエナに指示を出せる、マノンというハイエナの上位種が現れてしまった。武器は無い状態でお菓子やジュースを守り切るには、知恵が必要だ。何か対策を考えておかないと。
そもそも買わないという結論は、何か負けた感じがするので却下である。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
ちょっと、喉がやられそうな予感……気を付けねば