第93話 内弁慶と内向的はちょっと違う
お待たせしました~
全然、話は進みませんよ(´ω`)
よろしくお願いします!
「お父さんはまだだから、青はそっちに座りなさい?」
「分かった」
「私も運ぶの手伝いますっ」
手伝うマノンと、躊躇わずに着席する神戸家の兄妹。お母さんからの視線に気付いてても、動かない。理由がある訳ではないけど、マノンが居るからといって“いつも”を変えるのは違うだろう。
マノンが手伝うなら、俺や碧、お母さん……そしてマノン自身の為にもなる。タダで泊まるのはきっと、マノンの心情的にも気を使うだろうし。
つまり、俺と碧はこうして座っているのが正しい選択だと言えるだろう。
「はぁ……マノンちゃんが居てくれて助かるわ」
「何でもお手伝いしちゃいますよ!」
「同じ高校生なのにねぇ?」
「いや、お母さん? 俺はやれないんじゃなくて、やらないだけだから」
何となく雰囲気で言い返してみたものの、よく考えたらただのクズ発言だった。まさかの、碧からの視線が厳しい。同類だろうに。
まぁ……俺が手伝わなくてもマノンが手伝ってくれるのなら、それで良いじゃないか。一週間は働いて貰えるだろうし。
「はい、青さん。ご飯の量はこれくらいで大丈夫です?」
「ありがとう」
「はい、碧ちゃんもどうぞ!」
「ありがとうマノン姉! 嫁力が高いね~」
それからお母さんの分、自分の分を用意してから席に着いた。うちのお母さんはずっとニヤケっぱなしだ。今にも「こういう子」が欲しかったとでも言いそうである。
「手伝いをしない青と交換して欲しいわねぇ」
「ひでぇ……」
想像の倍近く酷い発言だった。だが、気にしない。ご飯が目の前にある状況なら、どんなお小言だって聞き流せるものだ。
でも、ちょっと悲しいから一番最初に「いただきます」をして、食べ始めた。
「もう少し早くマノンちゃんが来るって知ってたら……もう少し豪華にしたのにね」
「いえいえ、とっても美味しいですよ! 私も見習いたいくらいです」
「あらぁ~、これはもう……明日から気合い入れちゃうしかないわね」
俺と碧が黙々と食べる傍ら、マノンとお母さんの会話が盛り上がっていく。調理法が知りたいだとか、一緒に料理作りましょうだとか。
別に盛り上がらないよりは全然良いのだが、馴染み過ぎでは無いだろうか? 慣れは油断に繋がる事もあるし、マノンには特に緊張感というものを持って欲しいのだが。
だが……これを言うと、会話に入れない嫉妬みたいに思われそうで口に出せない。黙々と食べ続ける以外の行動が、思い付かなかった。
当然、一番に食べ終わってしまった。
レストランのコース料理とかだと、一緒に食べている相手とペースを合わせるのがマナーらしい。特に女性の場合は一口が小さく、会話も多い。
つまり、ペースを合わせるのは慣れないと中々に難しい。今回、先に食べ終えた俺だが、マノンはまだ半分くらい残っている。
紳士ならば、一緒に会話を楽しんだりするものだ。でも俺は内弁慶の気質がある。外では大人しい紳士タイプだが、家という安らぎの場では、ほんのちょっと少しだけ、意外と思われるだろうけど怠惰になる。
「ごちそうさまでした」
食べた後の食器をキッチンの流し台に持って行き、水を張るくらいはするが、そこまでである。机の上に忘れてきたコップを「コップくらいなら……」と、取りに戻らない程には怠惰だ。
「あっ! 青、風呂掃除お願いね」
「……分かった」
「そのまま、先に入っちゃいなさい」
内弁慶と言ってはみたものの、お母さんには逆らえない弱さだ。
という事は……もしかして、逆に外弁慶か? と少しだけ思ってみたが、当然、外弁慶という訳でもない。
つまりはそう……ただの内向的な人なだけでした。
言われた通りに行動しちゃう辺り、将来は使い勝手の良い歯車になる予感しかない。だが、きっと社会もそれを求めているだろう。時代は潤滑油ではなく、錆びにくい部品なのだ。
そう……つまりはステンレス。将来、圧迫面接で何かに例えなければならない時が来たら、「ステンレス製の歯車です!」とか言ってみようか……ただ、他の歯車達と反りが合わない可能性があるから、やっぱり潤滑油は必要かもしれないけど。
「――っと、風呂掃除も終わり! 今日はシャワーで済ませるかなぁ~」
湯船にお湯が溜まるのを待つくらいなら、このままシャワーをした方が何かと楽だ。特に汗を掻いてたり、疲れてる訳でも無いし。
早速、部屋に着替えを取りに戻った。そして、湯船に少しずつ貯まっていくお湯に、シャンプーやボディソープの泡が入らない様にだけ気を付けながら、サッと洗い流してすぐに浴室から出た。
前にブラックに借りて読んだ漫画には、お風呂場イベントや夜中トイレイベントなんてものがあった。たしかに、マノンはアホだ。何をやらかすか分からないビックリ箱みたいな奴。
だがそれだって、俺が注意していれば良いだけの話には違いない。細心の注意を払えば、回避だって難しくはないはずだ。
「念入りに……くらいで丁度良いんだろうなぁ」
俺は、急いで身体を拭いてシャツとパンツを身に付け、最終防衛ラインを作り上げる。これで仮に、突然マノンが入ってきても最低限は大丈夫だ。ま、そんな事はないだろうけど。
「お兄ちゃん? お風呂上がったぁ?」
「……ふぅ。碧、もうすぐで丁度良くなると思う!」
「分かったぁ~」
まさかの最短フラグ回収かと思って、少しだけ焦った。でも、セーフ。初日で危険のありそうな事や場所や物は把握しておかないと、一週間でどれくらいのミスを起こしてしまうか怖くなる。
一個のミスがかなりのダメージになりそうだし、機嫌的な意味での回復アイテムも保険として買っておかなければな。
少しだけ雑に髪を乾かして、すぐさま自分の部屋へと逃げ帰った。
◇◇◇
『何か、用事でも出来たん?』という、勝也からのチャットに気付いたのは今になってからで、意味は無いと分かっていても急いで返信をしておいた。
それと、五時間目終わりの休み時間に、簡単過ぎるほど簡単に話した紅亜さんとの出来事を、話せる部分を再度纏めてチャットで送っておいた。
勝也なら、多少変な部分があったとしても上手く脳内変換して理解してくれるだろう……と、謎の信頼感と共にスマホをベッドの上に放り投げた。
机の引き出しからお菓子を取り出し、学校の鞄から宿題を取り出した。宿題は勉強時間に含まない。さっさと終わらせて、予習復習に力を入れる……最近になって、ようやく勉強も頑張り始めた。
とても楽しくない。やっぱり勉強を面白いとは思えない……と思うのは、やはりその教科に苦手意識や実際に苦手だったりするからだろう。
得意教科が楽しくて、苦手教科はつまらない。そんなの誰だってそうだろう。だから……まず最初に俺がやったのは、苦手教科の中身で自分の好きになれる部分、を探すことだ。
例えば――野球が嫌いだとする。
その場合、野球の何が嫌いなのかはとりあえず放置して、好きを可能な限り探し出す。
すると……自分がプレイするのが苦手なだけで、見るのは意外と好きかも、と気付くかもしれない。
そういう気付きが一つでもあると、見方が変わる。見方が変われば、見えるモノも違ってくる。そして少しずつ、苦手と遠ざけていたモノと歩み寄れる。
その方法を取った結果として、勉強を面倒臭いと思うことはあっても、嫌いでは無くなった。
テストもだんだんと近付いて来ている。
テスト前になれば、のののが勉強を教えてくれるらしい。
その時になって、あまりに出来が悪いのも恥ずかしいし、のののにガッカリされるのは少し悲しい。
それが原動力になっている面は、たしかにある。でも、理由は大事だ……頑張る理由があれば、人は頑張れるものだから。
「少し、集中するか――」
勉強時間を確保する為に、気合いを入れて、数学の宿題に取り掛かった。
「青さーん! ヘルプマノンちゃんですよー?」
それから三十分ほど経った頃に、パジャマと言うよりはゆったりしたルームウェアを着たマノンが、二人分の飲み物と自分の宿題を手にして――意気揚々とやって来たのだった。
ヘルプマノンちゃん。それはきっと、『マノンの助け』ではなく『マノンを助けて』という……所謂、ヘルプミーって意味だろうな。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
ガチャ運に恵まれて、気分が良い……ぐふふ
去年の爆死から立ち直れる、ぐふふ