第92話 得意の? 必殺の?
お待たせしました!
谷園谷園書きすぎたせいで、マノンじゃなくうっかり谷園と書いてしまうやーつ⊂(・∀・⊂*)つ
この作品は流行りの『学年一の美少女』『美少女とひとつ屋根の下』『後輩キャラ』『テンション低め系いとこののの』
を押さえてしまっているのか……
前にマノンを見届け、進まずに引き返した場所から更に進んでいく。さっきまでとは違い、俺が後ろでマノンが前で。
路地を進むこと五分ほどで、『児童養護施設』の看板が見えてきた。おそらく、あの保育園の様な建物がそうなのだろう。住宅街を抜けた先にあるその建物は、長い間子供達を預り育てて来たと分かるくらい、少しだけ風化が見られた。
「ここの施設の施設長がですね、私の事情を聞いて部屋を貸してくれてるんですよ。時間のある時に小さい子の世話をするという条件で」
「……ん? じゃあ、マノンはこの施設に“入ってる”という訳じゃないのか?」
「厳密に言うと、ですけどね! 住み込みのバイトって方が近いかもしれません。……少し話して来るので時間掛かりますよ?」
「そのくらい待ってるよ」
「……えへへ」
施設に入っていくマノンを見届けて、俺は入り口付近で待つことにした。
時間の決まりがあるのだろう、施設内の遊び場には子供の一人だって居なかった。
もし、マノンと同じ境遇が俺に降り注いだら……なんて事を考えてしまう。その痛みもその辛さも漠然としか分からないが、今のマノンみたいには行動できないだろう。
だから、マノンは凄い奴。嘘か本当かは分からないが、笑顔だって作れているのだから。
仮にもし、今のマノンが過去を忘れる為に笑っているのだとしたら……。
「立ち向かえる……いや、受け入れてそれでも笑える様にして欲しいな」
空が完全に暗くなったが、まだマノンは戻って来ていない。話が拗れているのか、準備に時間が掛かっているのかは分からないけど。
ブーブーと、スマホのバイブ音がポケットから聞こえた。
いつものチャットじゃなく電話。相手は碧だった。
「もしもし?」
「あ、お兄ちゃん。お母さんには伝えておいたけど……」
「ありがとう」
「あの……ののさんの事なんだけど……」
そう言えば……。碧はお母さんから聞かされたんだったな。
日曜日にのののとは会ってるし、全く知らない状態で聞かされる場合よりも、少し複雑な心境なのだろう。
「のののと学校で話したよ。どうもしない、ってのがのののの答え。だから碧も、のののは……そうだな! 『少し歳上のお姉ちゃん』って感じで良いと思う」
「うん……分かった。ののさんとお兄ちゃんが“そういう”ことなら碧は大丈夫だよ! お姉ちゃんが増えるね」
「そうそう、そんな感じで」
「お兄ちゃん、ののさんの誕生日っていつ?」
「どうした? いきなり……たしか、三月三日って聞いた記憶が」
「って事は、お兄ちゃんが十月二日で……。アレ……ちょっと待って? 碧でしょ、白亜ちゃんでしょ、ののさんでしょ……マノン姉は誕生日次第で歳下。アレ……お兄ちゃん? 本当に外で何人かいも――」
会話も終わったし、通話終了ボタンをタップした。
泊まるのが今日だけじゃなく一週間というのを伝えそびれた。だが、これはちゃんと両親に承諾を得ないといけない事だし、後回しで大丈夫案件だ。ちゃんと話すが、狙いは事後承諾である。
「…………さーん!」
施設の方から声が聞こえてくる。
建物の明かりで、シルエットが確認できた。スカートだし制服姿は変わらないのだろつが、あからさまに荷物が増えていた。マノンの歩みも遅く、その重さが窺い知れる。
「お、重いですぅ……」
「服か?」
「そうですよ……女の子は荷物が多いんです! まぁ、学校の教科書類が重たいんですけど……ねっ!」
「――っと! 確かに重たいな」
マノンに渡された学校の鞄は、中身が詰まり過ぎてパンパンになっている。
学校の鞄ともうひとつ鞄を預けられ、持っている重さの割合が、男女という事を加味しても完全に俺に比重が傾いていた。
「ねぇ? 何か俺の方がキツくない?」
「青さんの~、ちょっと良いとこ見てみたい!」
「いや、そんなノリで来られても……って、歩き出した方が懸命か」
「さすがに途中で休憩や交代を挟みますよ! では、今度こそ……行きましょう、出発です!」
家まで二十分くらいは歩くだろうか? 終業式の時並みにある荷物の量にため息が出るほど辟易するが、立ち止まる方が、今はキツかった。
「がんばれ、がんばれ、あーおーさんっ!」
「ずいぶんと余裕そうじゃないか……マノンさんやっ!」
「いやぁ~、これでも施設長との話に時間が……」
「反対されたのか?」
「いえ、むしろ賛成され過ぎて話が長引きましたね! あっ、今度青さんを連れて行く事になったので、よろしくですよっ!」
何その展開。施設長に会っても何も話す事が無いけれど……まぁ、お呼ばれしたなら、行くしかないか。こうしてマノンを連れ出してるのも、その施設長が許可をくれたからだし。
まぁ、とりあえず……余裕なんだな!
「連れて行く事に“なってる”んだな? まぁ、良いけどさ……とりあえず俺の鞄をちょっと持って。それならバランス良いだろ?」
「仕方ないですねぇ……。そうです! 連れて来てと頼まれたとかじゃなく、もう連れて行くって“なってる”んですよ!」
「得意の事後承諾?」
「必殺の既成事実です!」
やはり怖いな、既成事実って。既に成ってる事実だもんな。それはつまり、もう覆らないって事だ。事後承諾もだいたい同じニュアンスだが、既成事実の方が取り返しのつかない事って感覚があるのは、どうしてだろう。きっと、そういうアレ的なアレのせいだろうな。
ゆっくり歩いたせいか、二十分以上は掛かってしまったが、ようやく神戸家が見えてきた。肩が痛い。
「マノン、もしかするとうちの両親にある程度の事情話すかもしれない。それは良いんだな?」
「……はい。お世話になりますし、当然ですよ」
「分かった。お父さんはまだ帰ってないかもしれないけど、お母さんはもう居るから」
「りょ、了解です!」
自分の住んでいる家だが、玄関に付いているカメラ付インターホンを鳴らす。その呼び出しに出たのは、碧だった。
『お帰り! マノン姉、いらっしゃい! お母さーん、来たよー』
『いらっしゃいねマノンちゃん! また来てくれて嬉しいわ! すぐに玄関まで行くからね』
声がプツンッ……と途切れたと思ったら、玄関の方から直接声が聞こえて来た。
俺とマノンは一歩下がって距離を取る。すると、タイミング良くドアが開き、お母さんと碧の二人で出迎えてくれた。
「マノン姉!」
「マノンちゃん、いらっしゃい」
「碧ちゃん、こんばんはです! お、お義母さんも……お邪魔させてもらいます」
息子でありお兄ちゃんである俺よりも、はるかに手厚い出迎えを受けているマノンの横を抜け、そっと荷物を家の中に運び入れる。
とりあえずはまた、碧の部屋に泊まってもらうから部屋の前に運んでおけば、後は自分で運ぶだろう。
「……っこらせ。ふぅ~疲れた疲れた。碧ぃ~、部屋の前に荷物置いておくから!」
「はーい! お母さんが、お兄ちゃんも手洗いしろってさー」
言われた通りに洗面所に向かう。
途中、先に洗っていたマノンと、一緒に居た碧とすれ違った。と言うことは、だ。お母さんは一人ということ。マノンについて説明するには良いチャンスである。
お母さんさえ攻略してしまえば、大丈夫。お父さんは駄目とは言わない筈だ。たぶんだけど。
家計を握るお母さんの了承を得られるか……それだけが心配だけど、やってみせる!
――俺は、リビングに入ると同時に喫茶店のマスターに教わった『土下座』を全力でやっていた。
「お母さん! 実は……マノンを泊める話だけど、一日じゃなくて一週間ほどお願いしたいです。どうか、よろしくお願い致します」
「ふーん? マノンちゃんのご両親は?」
「マノンサイドは大丈夫です。事情を話す許可はマノンにも貰ってるけど、たぶん……マノンも気を使われたくないと思う。でも……」
「話さなくて良いよ、青。マノンちゃんが大丈夫なら、いつまでも泊まってくれて大丈夫よ」
「――ありがとう、お母さん」
キッチンに立つお母さん。晩御飯の調理を進めながら、俺の話を『そんな些細な事。何事でも無いよ』という感じで聞いてくれた。いつもの感じで、特別な事じゃないという風に。それが……母の優しさってヤツなんだろうと思った。
「それにしても……“マノン”ね? 青、引き換えにその辺の話はちゃんとして貰いましょうか!」
「ふ、深い意味は無いよ? 本当だよ? 友好度が上がっただけだから、面白い話は……ないよ?」
「青がフラレたって話を聞いた時から面白い話も無かったしねぇ~、お母さん的にはどの子でもオッケーよ?」
「…………ちょっと、部屋に戻るから」
俺は逃げる様にその場を後にした。晩御飯はもうすぐで、すぐにイジられるというのは分かっているから、せめてもの逃避だ。
「息子の浮わついた話を面白がる親ってどうなのって話だけど……って、何してんの?」
碧の部屋の前に置いたマノンの荷物を、マノンと碧の二人で何故か俺の部屋へと移している姿があった。
「いや、お兄ちゃん聞いて? マノン姉の布団を碧の部屋に敷くってなったら、今回は荷物が少し邪魔だったの」
「という事なんですよ、青さん! 部屋を貸してください」
「……そういう事なら仕方ないけど、必要な物は持っていっておけよ?」
「下着とかね」
「碧、口を閉じてなさい」
でも、そういう事だ。いや、そういう事じゃないけど、そういう事。
学校の道具類は置いていても構わない。でも、化粧品みたいな物やそれ以外、とりあえず何かある度に部屋に来るのはマノンも面倒だろう。俺も何か落ち着かないし。
「必要な物は取ってるから大丈夫ですよ? ま、まぁ? 後でアレが必要だったー、とか? あるかもしれませんけどね?」
「宿題はそっちの部屋に持って行っておけよ?」
「ぐぬぬ……手強いですね、青さん」
しかしあれだ。もしかすると、二人でやれば、作業が半分になる可能性はある。でも、それは単純な計算の問題集みたいな宿題の場合のみだろうな。
今日出された数学の宿題なんかは、結局のところ自分で解かないと後が怖い。俺とマノンのどっこいどっこいの学力なら、なおさら自分でやらないと駄目だろうし。
「あっ! そう言えば、マノン姉の誕生日っていつ?」
碧が唐突にそんな事をマノンに聞き出した。尋ねる理由は電話のアレだろう……ただの、碧の思い込みみたいな案件。でもあれ、最初にマノンが余計な言い回しを吹き込んだせいだったか?
ちょっとうろ覚えだが、そういう時はマノンのせいにしておくのが間違いない。冤罪でも何かしら関わってるに違いない。
「誕生日です? 二月十日ですけど?」
「ぐぬぬ……はっ! でもマノン姉は妹成分が薄いからセーフ? うぬぬ……」
一人考え込んだ碧の代わりに、とりあえず荷物だけは部屋に入れておく。
妹成分とか言い始めた妹が心配になるが、きっと一時的なものだろう。……そう信じたい。
マノンのせいでアホになったのなら、根本的な原因を解決しなければならない。つまりは、『マノン脱アホ計画』だ。
碧のアホ化を阻止するために、まずはマノンのアホ化を防がなければならない。
しかし……問題がある。それは、マノンのアホが狙ってやっている可能性だ。その場合、もともとがアホじゃないだけに、計画は破綻する。結果、碧のアホ化が止まらない。
「深刻だな……」
「えっ、もしかして青さんは妹キャラの方がお好みで、妹が増えない様に考えてる碧ちゃんの状況を深刻だと?」
「んなわけあるかっ! 考えるのもアホらしくなってくるなぁ、まったく! 碧、そろそろご飯だから戻ってこい!」
妹のゲシュタルト崩壊を起こしかけている碧の意識を呼び戻し、俺は逃避らしい逃避も出来ないまま、すぐにリビングへと戻って行った。
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