第9話 完璧な演技
よろしくお願いします!
一時間目の授業が終わっての休み時間。次は体育の授業で体育館横の更衣室で着替えた後に校庭に集合なのだが……。
“おい見ろよ! あの子が転校生だろ?”
“やっべ、可愛くね?”
“なんかカタコトで日本に慣れてないらしいぞ!”
“そういえば、昨日学食で公開処刑があったらしいな”
“綺麗な髪だよな~”
“ハーフはヤバイだろ……おいおいおい~!”
“テンション高過ぎ~”
クラスの外に他のクラスの人達……男子の割合が多そうだけど、転校生の谷園マノンを見に来ていた。
「青、次の体育で五十メートルのタイムを測るらしいぞ」
「頑張れよ勝也。それより……とにかく教室から出ないとな。授業に遅れると根本先生怖いし」
根本先生は俺らの学年の体育の教諭で……体格はガッチリしてるし声もデカイ。ルールや約束事には厳しく、遅刻や忘れ物をするとガッツリ怒られてしまう。だから、着替えないといけない体育の前の休み時間は急がなければならない。
注目されているのは谷園マノンなので男子は通ろうとすれば簡単に通ることが出来た。
……聞き間違えじゃなければ、誰か食堂で俺が紅亜さんに前に進む宣言された事について言ってなかったか?
◇◇◇
「準備体操が終わった後は男子から五十メートル走だ! 番号順で二名ずつ走るからな! 誰か一人、ストップウォッチの係を手伝ってくれ」
女子の生徒の中の一人が協力を申し出てくれた事で、スムーズに事が進んだ。本当にありがたい。ここで長引くと根本先生がまた面倒な事を言い出す所だった。
「では、男子の最初からいくから準備をしておくようにな! 他の者は順番が来るまで後ろの方で練習をしていて構わないぞ!」
根本先生とストップウォッチの係になった女子が五十メートル先のゴール地点へと向かった。先生が離れた事で話し声が少しずつ出たり、タイムを伸ばそうと後方でスタートの練習をする者も現れた。俺は勿論その場を動かず体育座りから胡坐に変えたくらいだ。
「神戸」
「おっ、のののも練習しない組か?」
同じクラスでも出席確認や、なるべく前に来る様に男女別に並んでいる。皆が動き出したからか、のののが移動して来た。
「当然」
「だよな、勝也も出番が割とすぐだから練習してるし……」
勝也は体育祭でクラス代表? 赤組代表? ……どっちかは分からないけど、リレーに出たいと言っていたしな。勝也の応援だけしておくか。
「新山紅亜も気合い入っていた」
「まぁ、陸上部の短距離の選手だからな」
自分の得意分野で活躍したいと思うのは当然だろう。俺も帰宅する事に関しては、誘惑に負けず真っ直ぐ家へと帰れるしな。
「ハイ! 二人共、オ邪魔シテモヨロシイデスカ?」
そこに颯爽と? 現れたのは谷園マノン。のののとは逆側の俺の隣に座り込んだが……いつまでやってんだろうな、それ。
「谷園マノンさん……転校してきて一日目だけどそろそろキツくない?」
周りを少しキョロキョロして誰も聞き耳を立ててない事を確認した後に小声で話し掛けてきた。
「いや、正直に言いますと……もうすでに面倒です。なんであんな事しちゃったんでしょうか? 他に方法はあった筈なんですけど……。まぁ、予定通りにチヤホヤして貰ったり甘やかして貰ってはいるのですが……あと、谷園でもマノンでもどちらでも良いですよ?」
「やっぱり変な人」
「それには同感だな。おちゃら系も大変だな……じゃあ谷園で」
いきなり名前の方は流石に照れがある……のののというのも照れ隠しの末にののからのののへとアダ名風にしたくらいだ。
「まぁ、最初はそれでいいですよー……って、そんな事は置いておいて助けてくださいよぉ~。青……ブルーサン! ノノサン!」
こいつ……近くを人が通った時の変わり身の速さが、凄いっ!! 後、誰がブルーだ。誰が。俺をそう呼ぶのは一人くらいだ。
「ふぅ……危ない危ない。で、助けてくださいよぉ~青さん、ののさん!」
「止めるなら早めがいい」
「俺もそう思うぞ? 『フランクです、アメリカンジョークです! ハッハッハ』……これでいいんじゃない?」
長引けば長引く程、言い出しづらくなるし……何より心苦しいだろう。
「それが駄目なんですよぉ……。皆さんのオーラが期待やなんやで輝いてしまって……何か良い方法ないですかねぇ?」
ん~と、そうだな……うん。期待なんて裏切ってしまえばいい! ……と、言ってやりたいが転校初日だからなぁ。そうだなぁ……。
「転ぶ」
「……転ぶ? どういう事ですか? ののさん……じゃなくて青さん!」
「……そうか!! うん……。それならうやむやにして誤魔化せるというか、上書き出来そうだな! 力技だけど」
谷園ものののに聞き返さず俺に返答を求めるとは……中々に飲み込みが早い。
「もう、この際何でもいいですから! 教えてくださいぃ!!」
「あぁ、それはだな……」
俺は小声で作戦内容を話した。だいぶ力技だし、意味も分からないが……転校初日ならここで全てをうやむやにして、後は少しずつ良くして行くのがベターだろう。
「……なるほど。だいぶ力技っぽいですが、青さん任せましたよ!!」
「あぁ。じゃあ、俺は勝也に話しておくから……勝也の人気っぷりを使わせて貰おう」
◇◇◇
男子が五十メートルを走り終えて、次は女子の番だ。勝也は走った後にガッツポーズをしていたからタイムは中々に良かったのだろう。
さっき数分で考えた安易な作戦の事も、俺が走り終えた後に話してみたら……事情を知っているという事もあり、あっさりと了承してくれた。ちなみに俺は七秒九という何とも言えないタイムだが、悪いって程でも無いし、自分の中では良い方だと思う。
「次の者ー! 準備はいいかー!? ……では、位置について……よぉーーい…………ドォン!!」
今走っているのは紅亜さんだ。俺が見ているのは五十メートルのゴールから十メートル程手前の、コースの外側だ。ここなら大して邪魔にもならないからな。
それにしても……。
「新山さん速いな」
「……そうだな。確実に七秒台は出てるペースだよな」
俺と勝也の居る場所を通過する瞬間に目と顔を少しこちらに向けた様な気がするけど……流石に気のせいだよな。
紅亜さんの走る姿の綺麗さやその速さに感嘆の声が上がる。速いし美しい………話が盛り上がりを見せるのも頷ける。
本来なら紅亜さんの前に谷園は走っている予定だが、最後尾に移って貰っている。なるべく注目を集めておく為に必要な事だからだ。
◇◇◇◇
私は陸上部だし短距離を走っているから……多分だけど、体育祭でもリレーとかを代表で走る事になると思う。私も自信はあるし、チームの為に頑張りたいとは思うけど……私のアピール出来る部分でもあるから青くんに見ていて欲しいって、どうしても思ってしまう。
これは仕方ない事……だよね? うん。きっと仕方ない事よ!
「次の者ー! 準備はいいかー!?」
っと、私の番だ。ふぅ……落ち着いて、落ち着いて。
「では、位置について……よぉーーい…………ドォン!!」
私は完璧なスタートを切れた。五十メートルという距離において、スタートとはとても重要だ。それが上手くいったなら、後は全力で走るだけ。
あと少し! あと少し……あ、青くん!
一瞬だけ青くんと目が合った気がする。少し気が抜けたが、そのままゴールまで突っ切った。
「おぉ!! 新山、7秒1だ!! こりゃ……物凄く良いタイムだな!」
「あ、ありがとうございます!」
良かった、これで陸上部としての面目を……えっ!? 青くんが見てない!? ど、どうして? さっきは目が合ったのに!? な、何を見ているのかしら?
それから何組かのペアが走り終わって、後は最後のペアだけ。青くんと円城寺君は何かを……待っている?
「じゃあ、最後!! 位置について~……ヨォーーイ…………ドォン!!」
スタートの合図で最後のペアが走り出した。そして……。
「ア、アイター転ンジャッター」
「た、谷園さんダイジョブー?」
「わ、わー、ケガをしているゾー」
何が起こっているのか、一瞬、頭がついていかなかった。
「ア、アタマヲウチマシター」
「先生ー、谷園さんを保健室まで運びマスネー」
「お、俺もついて行きますネー」
……台詞が所々棒読みな寸劇を見せられた。いや、クラスの皆はマノンさんが転んだ事に注目して台詞はちゃんと聞いてないみたいだけど。何か……おかしい。
「なっ……!?」
そ、そんな……アレは。
「大丈夫か!? お前等、速く慎重に保健室へ運べ! 他の者は一旦、整列!」
「せ、先生! 女子もいた方がマノンさんも良いと思いますので、私も行きますね!!」
何を企んでいるのかは分からないけど、うぅ……とりあえず追いかけなきゃ!
「それも……そうだな。新山、頼めるか。おっと、少し待て……このプリントを保健室の先生に持っていってくれ。待てよ、すぐ書くから」
保健室へ連れて行くなら特に何とも思わなかったけど、あれは……ズルい!! 『おんぶ』はズルいよ青くん!! 早く! 先生、早くしてください!
「待てよ、少し待てよ……っと、これを保健室の先生に、頼んだぞ!」
「はい!! ま、待ちなさーい! 青く……じゃなくて、神戸君!円城寺君!」
結局――保健室に着くのは私が少し遅かった。
1話前で書きました、感想についてですが…
酷評の時に、せめて良い点があると作者が嬉み!って話ですので、『字』については、良い点があるなら書かなくて良いですし、感想そのものが無いなら無理して書かなくていいですからね?
誤字脱字がありましたらいつでも待ってますので報告お願いします!