第85話 分かってましたけど、ハッキリさせました
お待たせしました!
今回は谷園視点となりマース
よろしくお願いしマース!
青さんに任されたからというのもあるけど、それ以上に心配だった。
オーラとは私が思うに『心の色』だ。心が嬉しければ明るくなるし、心が痛めば暗くなっていく。
赤、青、緑、白みたいに人それぞれに色はあるけど、基本的なオーラの変化については、特に違いはない。
だから私は、オーラを見れば相手の気持ちがある程度分かる。
感情が出にくいののさんであっても、分かりにくいだけであって、分からない訳じゃない。
オーラが消えていくというがどういう事か……オーラを『心の色』とするならば、つまり、無色の心になってしまうということだ。
もっと簡単に言うと――心が死んでしまったということ。
あの時の紅亜は危なかった。
オーラが小さくなる分には、まだ助けられる可能性もある。壊れ掛けている心は時間が解決してくれたりするからだ。
でも、薄くなり始めたオーラが完全に無色になってしまった場合……自責の念から抜け出せず、自分の身体にまで影響が及んだりしてしまう。
だが、無色になるケースは少ない……と思う。少ないけれど、絶望感に支配され、自分でどうしたら良いか分からずに――なんて事もあるのはあるのだ。
だから、本当に危なかった。青さんの行動で繋ぎ止めれた。
あの場で一番不安だったのは……私かもしれない。私にはあの紅亜を助ける言葉も行動も無かったから。
「どうする?」
「そうですねぇ……とりあえず外に出てベンチにでも座りましょうか」
今は私が紅亜を支えて、一歩先を歩くののさんについて行っている。
紅亜は何も言わない。時たま鼻をすする音が聞こえるだけだ。
まだ……紅亜は壊れていない。
なら……どうにかしないと。青さんに頼まれましたし、何より……私は紅亜と友達だから。
泣いている紅亜がいるからか、途中で声を掛けてくる人……主にチャラそうな男性が何人か。優しさか下心かは、私によれは判断も難しくは無い。
ですからまぁ、普通に迷惑なので丁寧にお断りをして、私と紅亜はショッピングモールから脱出した。
ののさんはお腹が空いたと言って、ついでに私達の分までお昼を買いに行っている。
「紅亜、あの木陰の所に座りましょうか……」
「…………」
「大丈夫ですよ、紅亜。青さんの優しさは紅亜が一番知っているんじゃないですか?」
「…………」
思ったより重症みたいだ。
せめて会話が続かないと……かと言って刺激するのも危うい。加減がとっても難しいですね。
何か紅亜が話してくれる話題にしなければ。
何があるだろう? 青さん関連の話じゃないと、今は聞いてくれないでしょうし。かと言って、話題によってはリスクがある。
「…………」
「…………」
駄目だ……私まで沈黙してしまう。
私はたしかに、スーパーマノンちゃんではありますけど、全知全能アルティメットマノンちゃんでは無いのですよ。
どうしよう。どうしたらいい?
そもそも……私は紅亜が泣き出した理由を知らない。あの場でそれを知っていたのはおそらく、青さんだけ。
電話する? 紅亜の前で? いや……それは無理だ。なら……やっぱり――
「紅亜、話してくれませんか? 青さんと紅亜のこと。何で紅亜が苦しんでいるのか、私は知りたい」
「私……私は……」
「青さんに謝ってましたね、紅亜。きっと、青さんは許してくれると思いますよ。でも、それじゃあ紅亜は自分を納得させられないのですよね?」
「うん……」
「ののさんが戻って来て、お昼を食べてからでも良いです。私達に話して下さい。私達は……友達じゃないですか。そうでしょ、紅亜?」
「マノン……」
私よりは少し下だけど、いつもなら綺麗な紅亜の顔が泣いたことで酷い有り様だ。
でも、ようやく言葉を引き出せた。後は、紅亜が自分を許せる様にするだけ。簡単なのは罰を与えること。内容は誰が考えても良い。だけど与えること自体は……困るのは目に見えてますが、青さんにやって貰わないと意味がない。
これは、後でののさんと相談ですかね。
それからまた少し沈黙が続いた頃に、食品売り場から買ってきただろうお弁当が入っている袋を手にぶら下げたののさんが戻って来た。
ありがたいので文句も何も言えないのだが、全員お蕎麦と麦茶なのは流石にちょっとののさんの好みが過ぎてるとしか思えない。
「女子高生三人でお蕎麦ですか~? もっとこう華やかさって言うのは無いんですかねぇ~?」
「…………」
「…………」
もう、駄目だ。
私だって諦めたくなることだってある。それはある。
会話がもたない。もともと会話の少ないののさん、そして今日の紅亜。
私だって今日を少し楽しみにしていたというのに……そう考えると少しムカムカとしないでも無いですね。
ですが、まだ私の中の友達を助けるという心の方が上なのでそれに従いますけど。
「ののさん、お蕎麦はどうです?」
「……普通」
「もうちょっと頑張りませんか……会話」
結局は沈黙。それからご飯を食べ終わるまで一言も誰も喋らずに時間は過ぎていった。
今日は本当に天気が良い。
ファミリー達がショッピングモールに入ったり出たり、カップルや友達同士で遊んでいたり。それをベンチに座って見ているだけ。
紅亜の隣に私、そしてののさんの順。なぜ、私が中央なんすかね。まぁ、良いですけど。
紅亜も蕎麦は食べたものの、何も話す気が無いんじゃないかと思うほど今は俯いていて、ののさんはボーッと前を見ている。
私も空を見ていた。そして、思わず口に出してしまった。
「何なんすかね……結局。青さんを私が一発パーンっと張り手でもやってしまえば解決するんですかねぇ……」
「……それは駄目よ」
「良くない」
「……いや、何ですかホント」
青さんの話だから食いついたのか、単にさっきまで私が無視されていたのか微妙な線引き。ののさんは完全に後者っぽいけど。
何か、アレなんで青さんにはパーンとやってしまおう。
そもそも……この二人はクラスの位置も性格も反対そうなのに、どうして友達なんでしょうか。
まぁ、だいたいの事は察せます。どうせ青さんなのでしょう。また青さんですか、と逆に言いたくなります。
二人とも青さんに頼りすぎなのでは無いですかね? 甘えすぎと言っても良いかもしれません。
私は二人と違って、頼ったり頼られたりなのでセーフですけど。
「お二人に聞いて良いですか? あ、隠しても無駄だと先に言っておきますけど」
「……何?」
「……ん?」
一応、質問には答えてくれるみたいですね。
はぁ……なら――聞いてしまいましょうか。
「お二人って、青さんのどこが好きなんですか?」
◇◇
――十分ほど経過したけど、答えは返ってきていない。
私もチャットを送って、返信無いから言いたい事あるけど送れない……みたいな感覚になりながら待っている。
別に深い答えを求めていた訳じゃない『優しいから』みたいなのでも良かった。
というか、青さんの良いところなんてそれくらいでしょう。
顔や運動能力なら勝也さんですし、頭の良さは私と良い勝負。経済力とかは置いておいて、特別料理が上手い訳でもない。
でも、ののさんを放って置かない優しさ。紅亜を抱き留めていた包容力。私に構ってくれる所……青さんなんてそんなものです。
「はぁ……そもそも、二人って本当に青さんが好きなんですか? 世の中に男性は沢山いますよ? 青さんが身近だから選んでるだけなんじゃ無いですか?」
「……そんなこと、ない」
「……分からない」
紅亜とののさんで意見が分かれた。
やはり視野が狭いのは紅亜の方と言えるかもしれない。
私もどちらかと言えばののさんと同じ意見ですかね。いや、ののさんが私と同じ意見なら……という事ですけど。
『……分からない、でも青さんだった』それが、私の意見。
青さん以外の誰かが、同じ様に私に優しく構ってくれたなら……私はその人を好きになっていたかもしれない。
でも、実際にそうしてくれたのは青さん。だから、青さんが好きなんです。
「まぁ、いまの質問は別に気にしないで良いです。じゃあ次ですが……どうして二人は告白しないんですか? 紅亜は何やら訳ありのようですけど……」
「それは……」
「私が取り決めた、約束」
ほぅ……ののさんが。
それはそれで興味がありますが、今は……そろそろ話す気になりそうな紅亜を攻めるのが良いですかね。
「紅亜、そろそろ聞かせて下さい。私にも、ののさんにも。紅亜が青さんを好きな訳が、それにあるんですよね?」
「それ、は…………ううん。二人にだから話すね。私と青くんの話を……」
そして紅亜は語った。思い出しながら懐かしそうに。
それを私とののさんはただ黙って聞いていた。
紅亜自身の事。青さんの事。白亜ちゃんの事……そして、付き合っていた事。私が転校してくる少し前に別れていた事。
それが誤解だったこと。今日、自分が愚かだったと知ったこと。
最後の方はまた少し泣いていたが、最後までちゃんと話してくれた。
紅亜が自分を責めてしまう理由は分かった。青さんと碧ちゃん……いや、神戸家の仲の良さは知っている。二人は腕を組むくらい何とも思って無かっただろう。
たしかに勘違いをする原因はあった。でも私的にはほぼ紅亜が悪いと思ってしまう。
信じて裏切られたなら青さんが悪いけど、紅亜はその最初の信じる事から逃げ出したのだから。
でも、紅亜自身……それは分かっているのでしょう。だから、あれほどまでに取り乱し泣き散らしたのでしょう。
「ののさんは……どう思いますか?」
「知らない。好きを諦めるなら……好都合」
「いや、ののさん……それは流石に……」
「おかしい? 私は神戸が好き」
堂々と言い切られてしまうと、雰囲気に流されてしまいそうになる。
だけど、流石に直球過ぎはしないだろう? ののさんなら……それが普通なのかも知れないですけど、援護が欲しかっただけなんですよね……。言いたいこと自体はよく分かるんですけど。
「いや、女子的にライバルがいない方が良いのは分かりますけど……ののさん、少しは空気を読んでくださいよ~」
「だから私は独り……だった」
「今は独りじゃないんでしょ? ……だったらお願いしますよ」
ののさんの頭の良さは何となく分かる。どこまで相手を理解しているのか、どこまで展開を読めているのかはののさん自身にしか分からないけど、きっと今も先が見えているはず。
ただ、やらないだけ。一人で出来ることも、青さんに頼る。一番小悪魔なのはののさんかもしれない。私と少し個性が被ってるのが心配ですね。
「ののさん! ……青さんにののさんを甘やかさない様に言っちゃいますよ?」
「むぅ……。それはいけない。……仕方ない。新山紅亜、聞く。別れて後悔した時点で、貴女は既に罰を受けている。でも罪である『神戸の心を傷付けた』事に関しては何もしていない。だから、罰だけが貴女を苛める。罪を償って、罰を受け入れないと……進めない」
話しすぎて喉が渇いたというののさんに、麦茶を渡してあげる。
たしかに失念していたかもしれません。紅亜の状態が危なかったので優先はしました……が、そうです。別れてツラいのは一方だけとは限らない。
どうして、青さんが悲しくないと思っていたのでしょうか?
これはオーラが霞んでるせいとかじゃなく、私が駄目でした……ののさんが余裕なのも頷けます。私や紅亜よりも青さんに寄り添っていたのはののさんでした。
別れた事を知ってて、それでいていつも通りに接したのはののさんだけなのかもしれません。
「私の……罪」
「敵に塩」
「すいません、ののさん……私も目で視えるものだけに囚われていたみたいです」
「罪は誰にでもある…………誰にでも」
ののさんの目は何でも見透かしてそうで、少し怖い時がある。
最後の一言も、紅亜に対して言ったのか私に対して言ったのか、それとも……。
ののさんは立ち上がると「神戸の方に行く」とだけ言って歩いて行った。
おそらく、今日はこのまま解散になるかもしれない。
紅亜はののさんに言われた事について、考えだしてしまったようだ。
きっと、青さんに何が出来るのかを考えているのだろう。
だからといって、私までも一緒に考える必要は無い。
いつ考え終わるのかは分からないけど、とりあえず……木陰で気持ち良いし、何も考えないでボーッとしてみましょうかね。
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もう、ね。谷園が全部ぶち壊してくれないかなぁ~とか思ったりもしますよね
(分かる分かるという声が聞こえてくる……)