第81話 兄と妹の週末 ⑧
お待たせしました!
サブタイ考えなくていいという楽(°∀°)
よろしくお願いします!
朝食の後、碧と谷園はすぐさま部屋へと戻って行った。
女の子はお出掛けの準備にそうとうな時間が掛かるらしい。
まだ出発まで二時間近く余裕があるというのに、今からでもギリギリになるとかならないとか。大変である。
俺なんかは着替えて寝癖を整えたらそれで良しだと思っているタイプだし、準備に時間が掛からない。だから尚更、女の子は大変だと思う。
「えっと、あのショッピングモールって何があるんだっけ?」
今日行く予定の場所に、何があるかだけ確認をしておく。
碧主体で動くから気にしなくても良いと思うのだが、何せ暇だ。
どうやら、映画館とかフードコート、少し離れた所にはレジャー施設もあるみたいだし、暇を持て余す事は無さそうだった。
たぶん……ショッピングが主体の行動になりそうという事だけは、今のうちに覚悟をしておいた方が良いだろう。
決して顔には出さないように。態度にも出ないように。
そう言えば。昨日最後に送った時から、のののからの返信が無い。
普通、いきなり時間と場所だけ指定されても困るだろう。どういう事か、聞き返すくらいはしてもよさそうなのに。
そう考えると、のののが来るかどうかも分からない……という事になる。かと言って、言い切ってしまっただけにこっちからまた送るのも変な感じだ。
とりあえずのののの最寄り駅まで行ってみるが、居なかったらなんか恥ずかしい。
例えるなら……お兄ちゃん風を吹かせて、「冷蔵庫にプリンが在るから食べて良いよ」と碧に言ったのに、数時間後に昨日自分で食べていて、本当は残ってない事に気付いた時くらい恥ずかしい。
ポイントはお兄ちゃん風を吹かせていた所。それが無ければまだマシだっけど。
「あ、スマホも充電させておかないとだな」
家を出る時には、出来るだけフルの状態にしておきたい。
充電の減りが速くなったとかでは無いけど、そういうタイプだからだ。
財布の中身もフルに補充にしておきたいが、これはまぁ……余裕が無いから仕方ない。机の引き出しの中にも貯金箱の中にも、無いものは無いのだから。
◇◇◇
「おーい、そろそろ出発するけどー?」
「もう少し待ってお兄ちゃん!」
まぁ、結局はこうなる。分かっていた事だ。
決して今までの時間は何をしていたんだ、とか思ってはいけない。
碧も谷園も髪を結ぶタイプでは無いし、服選びに迷っているのだろう。こういう時の為に、お出掛けセットでも用意して欲しいと思ったりするが……本人的に、その日の気分とかあるのだろう。
「青さーん、お待たせですよ~」
「はいよ」
「……それだけですか?」
何を言う。褒めろと? 褒めろと言っているのか?
やるか、言ってやろうか。言ってやろうじゃないか!
「いつもより輝いて視えるよ谷園……オーラ的な所が」
「んふふふふ。照れますねぇ~」
谷園も靴を履いて準備が整ってから、ようやく碧がバタバタとやって来た。
谷園と服を選んだのか、たしかにいつもよりもお洒落をしている。
これも褒めるべきだろうか。褒めるべきだな。
「碧、今日は一段とお洒落だね。ベッピンさんだ」
「でしょー! マノン姉が選んでくれたの!」
「えっ、何か私と違いません? 一応、髪とかセットしてる……」
「さ、行こうか!」
外に出て、鍵を閉めた事をしっかり確認して駅へと歩き出す。
天気予報でも見たが、やはり外に出るのが一番分かりやすい。今日は良い天気だ。
俺は手ぶらに近い状態だが、谷園と碧はカバンを持って来ている。碧のに関して言えば、実際に持っているのは俺なのだが。
駅に着いて改札を通って電車を待つ。
快速に乗ると、のののの待つ駅を通り過ぎてしまう。だから一本見送って、その次の電車に乗り込んだ。
日曜日のこの時間なだけあって、電車の中は座れないくらいに混んでいる。碧をドア付近で周囲から守る様に配置して、谷園は碧のすぐ近くに居て貰う。混んでる電車の中では、俺は俺で冤罪には気を付けないといけないし。
「おぉっと……すいません、青さん」
「大丈夫か?」
慣性の法則で谷園が揺れて、身を任せられるかの様に寄り掛かられた。
すぐに対応して冷静さを取り繕っているが、内心……我慢していた。
(痛い……肘が、みぞおちに……うぐっ)
軽く当たっただけなのだが、クリーンヒットである。蹲りたいくらいにはシンプルに痛い。
約五分くらい耐えきってようやく、目的の駅に着いた。一回しか来た事ないが、二駅だから間違えることはない。
「着いたよ、ここで一旦降りよう」
「ほー、ここがののさんの住んでる所ですかぁ」
「ちょっとラインしてみ……」
スマホを取り出して、のののにラインを送ろうとした時に、不意打ち気味に背中に衝撃を受けた。
「居る」
「うぉ!?」
「居る」
「あぁ……あっちの方に居たのか。後ろから驚かさないでくれよな」
「居る……」
「……あぁ! 説明不足だったなゴメン。今日は――」
そもそも碧とお出掛けに行く予定だったこと。その説明の際に碧を紹介しておいた。谷園が碧の友達であるという事もついでに。
のののが碧をジッと見ている。身長さはあまりない。
「あ、あの……」
「……似てる」
「まぁ、妹だからな」
珍しいことに、のののの人見知り具合がいつもより少ない気がする。それに、やっぱりジッと見ている。
谷園の存在を軽く無視している気もするが、気のせいだと思いたい。
「納得」
「あ、あはははは……本当に口数少ないんだね」
自然な動きで碧が一歩だけ谷園に近づいた。やっぱりのののより、よく話す谷園の方が取っ付きやすいのだろうか。
まぁ、たまに難しい事も言うのののだし、小学生には分かりづらいのかもしれない。
「それよりもののの、今日は髪もちゃんと整ってるな。服装もよく似合ってるし」
「……知らない。普通、普通」
「ねぇ、マノン姉……私達の時よりナチュラルに褒めてない?」
「うーん……でもまぁ、青さんですからねぇ」
のののをパーティーメンバーに加えて、俺達はまた電車に乗って遠くの街を目指す。
揺れに揺れて、誰の胸も微動だにせず三十分。
俺達以外の人も目的地は同じなのか、同じ駅で降りる人が多かった。
「んーっ! 混んでたなぁ~」
「移動だけで疲れちゃうね……」
「でも、ほら! ここからは楽しい時間ですよっ!」
「むぅ……」
俺がホームで体を伸ばすと、逆に碧は背中を丸めて疲れを表した。谷園はいつだって元気だから変わり無いが、のののには少し辛い時間だっただろう。
駅の案内板を確認して、出口に向かう。
駅のホームですら、油断すると人に流されて離れてしまいそうだ。特に体の小さな二人は注意しておかねばならない。
「碧、手でも繋いどくか?」
「子供扱いしないでよね!」
「碧、迷子になるリスクを考えられる方が、大人だと思うぞ?」
仮に、手を繋いでいれば周りから見て、俺と碧が兄妹に見えるだろう。碧はそれを嫌がっているのかもしれない。
でも、ここで手を繋がないで人に流されるのは俺が困る。スマホで連絡は可能だが、碧が一人だと危ないのに変わりはない。
それでもやっぱり思春期が邪魔をするのか、碧の手は少し上がった状態で止まっていた。
「仕方ないか。谷園、碧と手を繋いでやってくれ」
「はいですよ! 碧ちゃん、行きましょうか」
「うん!」
谷園が碧と手を繋いでくれて、一安心。
あとは、谷園が迷子にならなければ問題なしだ。
よし、再出発――そう意気込もうとした瞬間に、碧のカバンを持っている右手とは反対の、左手が塞がった。
それは小さく、ふにふにと柔らかい感触だった。
「私は大人。リスクヘッジ」
「ののの?」
今日は背後に現れたり、横に移動してたり、忍者も驚きのステルススキルを発動していた。
碧と手を繋ぐのと、のののと手を繋ぐのじゃ、周囲の反応は変わらないだろうが、流石に変な感じが俺の中では渦巻いている。
ギュッ……と服が引っ張られる感覚に、思わず振り返ると、谷園が笑ってた。
笑っていないが、笑っていた。
「これで、皆はぐれませんね!」
「ソ、ソウダネ」
「やっぱり、外でいろんな妹を作ってたんだ!」
「私、歳上……」
やっぱりって……。
谷園の発言は圧こそあるものの、受け流すことが出来た。だが、碧の発言だけは、誰も幸せにしなかった。
年下に年下っぽく見られた事を気にしたのか、のののは軽く凹み、俺も俺で“やっぱり”と思われている事にショックを受けた。
でも、ここからでも目的地は既に見えている。楽しい時間が待っている。
今ある圧力も、そこに着けば霧散するだろうと、信じて歩き出すしか他に無かった。
俺とのののが先を歩き、そのすぐ後ろ手の届く位置で谷園と碧が歩く。会話があるのは後ろのペアだけである。
のののがあまり喋らないのはいつもの事だし、俺も無理に話そうとはしなかったからだ。
休日なのに、いつもと変わらないののの。裏表の少ない所がのののらしいし、こっちも無理しないで済むからありがたい。
それから十分ほど歩いて、ようやく目的地の複合施設に辿り着いた。
ここからは碧と谷園にバトンタッチをして、先導して貰う。
どこに行くかは全て、お任せだ。
「まずは、案内図でチェックですよ!」
「建物大きいね~、全部は流石に無理っぽそう」
今にも走り出しそうな二人に前もって注意をしておき、遅れない様について行く。
後でのののの行きたい場所も聞いてみようとも思うが、おそらく本屋だろう。それとなく場所をチェックしておこう。あと……人混みでの精神疲労、顔色チェックもな。
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