第80話 兄と妹の週末 ⑦
お待たせしました!
いつの間にか本編80話ですね!
いやぁ~始まってからだいぶ進みましたね!
(五月◯日スタートとして、28日(日)ですから……作中1ヶ月経ってないけど)
では、よろしくお願いします!
リビングでアイスを食べている谷園が、俺の割りとお気に入りのTシャツを着ていた。
服が伸びる事も無さそうだし、別に良いんだが……今にもアイスが溶け落ちそうだ。
「青さんの匂いがしますね」
「いや、洗濯はちゃんとしてるぞ? あと、アイスこぼすなよ」
「おっとっと……。ほら、でも各家庭の香りってあるじゃないです? あっ、全然臭いとかじゃ無いですよ? むしろ、良い匂いです!」
臭い臭くないに関わらず、あまり嗅がないでいただきたい。思春期の男子高校生として、直接的じゃないけど恥ずかしさに襲われてしまう。
碧にさっさと用件を話してと言われ、とりあえず座ってもらい話し始めた。
谷園はのののを知っているが碧は知らないから、その辺も上手く説明しなければならない。
「碧ちゃん、ののさんは悪い人じゃないと思いますよ? 多少、会話が難しいところがありますけど」
「難しいって……なに?」
「何と言うか……言葉足らず? みたいな? 最低限のワードで完結してるって感じ」
「まぁ、マノン姉の友達なら私は気にしないけど?」
ありがたい事に谷園のアシストのお陰で、話がスムーズに進んだ。
明日待ち合わせしている事や、どういった理由で連れて行く事になったのかも話して、一応は無事に了承は得られた。
のののを連れて行くことにはしたが、明日は碧を一番にして行動することを肝に命じておかないと。
「お兄ちゃん、ののさんって女の子なんだよね?」
「おっと……マノンちゃんはアイスでお腹が痛いのでちょっとトイレに……」
何かを察知したかの様に、タイミングよく腹痛になった谷園が離れていく。こいつの危機察知能力……羨ましいな。
碧の顔は笑っているが、表面を真に受けてはいけない。谷園風に言うなら、そんなオーラが出ていた。
「まぁ、そう……だな」
「ふぅ~~~~~ん」
意味ありげに言われても。
俺も谷園みたいに逃げ出そうと機会を狙うが、隙が無い。リビングの出入口のドアは谷園が逃げた後に碧が確保していた。
「み、碧ちゃん? お兄ちゃんはお風呂に行きたいんだけどー?」
「ふぅ~~ん。だよ、お兄ちゃん?」
「大丈夫だって、明日は碧とお出掛け。二人はただの付き添いみたいなもんだから」
腕を組んでジト目を向けてきても、これ以上言える事なんてない訳で。
土下座か? ここで出しちゃうか、土下座。いや、何に対して謝るんだ……この場合。
やはり、今日一日だけでだいぶ谷園に毒されている気がする。『あざとさ』が増している。
谷園と違うのは、まだ慣れていないから来る、ぎこちなさが残っているところだろうか。アイツは素なのか演技なのか、たまに分からないレベルだったりする。
最初から演技のつもりであれば、とてつもなく下手くそではあるんだけれども。
「じゃあ、今日は早く寝ること! 約束!」
「了解、今日は早く寝て早く起きるよ。約束だ」
出入口を空けてくれた碧の頭にそっと手を乗せる。
風呂場に向かう途中で、普通にリビングの外で待機していた谷園には、軽めの拳骨をしておいた。特に意味は無いけど。
シャワーを済ませた後に、向日葵さんの作ったクッキーを食べながら、三人でテレビを観て過ごしていた。
土曜日の夜はだいたい何かしら面白い番組がやっている。だから、チャンネル権を碧に任せて漠然とテレビを観ていた。
「へー、今はこんな人が流行っているんですねぇ」
「マノン姉、知らないの~?」
「まぁ、あまりテレビは観ないですからね! 何か新鮮というか不思議な感覚ですよ!」
「俺も、谷園が居るだけで不思議な感覚に陥るよ……」
「いやぁ~、それは照れますねぇ~」
いや、褒めてないんだが……どう解釈しやがった谷園は。
碧がオススメするお笑い芸人はまだ知っているが、俳優とかになると全然知らなかった。
本当にテレビをあまり観ないのか、谷園は俺よりも知らないみたいだった。女子高生としてどうなの? と心配にもなるが、雑誌で最低限の知識は得ているらしく、話は合わせられるらしかった。
談笑も一段落すると、そこそこの時間になっていた。
まだ寝る時間には早い気がするが、碧に言われた事を守る為に俺だけ一足先に部屋へと戻らせてもらった。
◇◇◇
朝の光がカーテンの隙間から入ってくる。
大丈夫。今日は起きた。ちゃんと起きた。まだ朝の六時ではあるけど、二度寝の心配も無い。
「ふっ、完璧だな。トイレにでも行くか……あと、何か飲んでこよ」
◇◇◇
「ふぁ~……やはり自分のベッドよりは寝付けなかったですね。碧ちゃんはまだ寝てますか……うぅ、トイレにでも行きますか」
碧ちゃんの部屋にある時計を見ると、六時五分。
家を出るのは九時三〇分頃、まだ眠る事はできますね。
では、静かに動きましょうか―――……。
「ふぅ……。それじゃあ部屋に……そうです! 青さんは起きてますかね? くっふっふっふっふ~、起こしてあげましょうかね!」
青さんの部屋は度々侵入を試みていますから把握済み、寝起きドッキリ決行ですよ!
「おはようございま~す……って、アレ? 何で居ないんですか!」
予想外で想定外のことをしでかすのが青さんだと思っていましたが、こういう時までやってくれるとは……困った人です。
でもまぁ、起きているのであれば安心ですね。碧ちゃんはもう、ほぼほぼ私の妹みたいなものですからね!
「そうです! 逆寝起きドッキリですよ! 部屋に戻ったら居ないはずの美少女がベッドで寝ている……完璧です!」
青さん、もしかしたら目が飛び出してしまうかも知れませんね。
少し騒いだ私のイタズラ心が、早く準備をしろと告げている。何だかんだで許してくれる青さんに、私は甘え過ぎているのでしょう。
でも、甘やかす青さんの責任に違い無いのですよ、きっと。
「まだ、暖かい……青さんはさっきまで寝ていたに違いないですね! ………………いざ」
ぬくぬく暖かいベッドで丸くなり、布団を被って身を隠す。
さぁ、早く戻って来て下さい! 青さん!
◇◇◇
おいおい。おいおいおい――。
寝ているぞ、明らかに布団が盛り上がっている。というか、捲っていった布団が盛り上がっている。
居る。誰かが居る。可能性は谷園しかいないが、それを認めたくは無いから碧という選択肢も含めておく。
捲る、捲らない……俺は試されているのだろうか?
一度、様子を見てみるか? どうする?
とりあえずそっと近付いてみる。
ゆっくり、ゆっくりと手を伸ばし、頭の方にある布団を少しだけ持ち上げる。
「すぅ……すぅ……」
まぁ、だよな。うん、知ってたけれど。
なんだこれ……なんだこれ……やっぱり、試されているのか? 隠しカメラでも仕込まれているのか!?
周りをキョロキョロしてみるが、何も無い気はする。
誰かに問いたい。同級生が部屋で無防備にも寝ていたらどうする?
「ヘタレと言われようが……何もしないよなぁ。というか、出来ないって。いろいろ怖い訳で」
自分の部屋なのに居心地が悪い。
起こすか? 寝かせておくか?
数秒だけ迷って俺は、スマホだけ持って部屋を出ていく選択をした。
「おやすみ谷園」
俺はそっと動いて音を立てずに部屋から脱出した。
「………………分かってましたけどね」
扉を閉める前に何か聞こえた気がした。
俺の方も寝惚けているのかもしれないな。苦いのは得意じゃないけど、ブラック珈琲でも飲みますかね。
◇◇◇
朝七時を少し回った頃、規則正しい碧が起きてきた。
碧よりも早く起きているなんて稀だし、パジャマで欠伸をしている姿を見るのは久しぶりだ。
「あれぇ? 早いねお兄ちゃん。マノン姉は~?」
「さ、さぁ? 俺は二度寝しない様に、起きてたからな!」
「でも、部屋には居なかったよ?」
「……とりあえず顔洗ってきな。谷園のことだし、その内現れるだろ?」
碧が洗面所に向かってすぐに、テーブルに置いておいたスマホが鳴った。
珍しく電話だ。画面を見ると、お父さんからだった。
凹むとかじゃないけど珍しくきた着信が……親か。という気持ちになる。
「はい、もしもし?」
「おぉ、起きてるとは思っていなかったが良かった」
「どうしたん?」
「いや、今日の夜に帰るって伝える為に……な」
「あぁ、なるほどね。分かった、ご飯は?」
「食べてくる、八時過ぎに家には着くと思うから」
あいあいさー、と最後に返事をして通話が終わった。
もう日曜日か……と金曜日にこういう気持ちになると思っていたが、やっぱりなった。これから先も避けられる事はきっと無いだろうな。
テレビを着ける。流れてくる映像を観ながら珈琲を飲む。
朝のニュース番組の上の方に流れる天気予報では晴れ。気温も暑く無さそうでお出掛けには良さそうだ。
顔を洗ってきた碧が、戻ってくるなりパンをこんがり焼き始めた。
家のトースターは食パンを二枚ずつ焼ける。二枚セットした後は、冷蔵庫から卵を取り出して朝食の準備に取り掛かっていた。
いつの間に……こんなに主婦力が高くなっていたのだろう。凄い。
流れる様に朝食を作っている。俺はテレビを観てるだけだし、谷園は寝ている。
人は環境によってこうも変わるのかと……考えるが、考えるだけである。……昨日までの俺ならな。
「碧、何か手伝うか?」
「ううん、大丈夫だよ」
結果だけを見れば同じでも、ほら……過程が違うからね。
大事なのはそこだ。その過程を変えることで結果が変わるのだから。
今回はちょっとばかし結果は変わらなかったけれども。
「そうだ、お父さん達夜に帰ってくるけどご飯はいらないって」
「電話?」
「俺が起きて無かったら碧に掛けるつもりだったって」
「ふーん。毎年行ってるけど、誰の墓参りなんだろうね?」
「碧も知らないのか……俺も覚えてないなぁ」
気にした事も無いし、今更気にしてもしょうがないけど、ちょっと気になる。明日には忘れている程度の事だが、少し引っ掛かる。
聞かないから教えてくれないのか、そもそも教えるつもりは無いのか……“誰”なのかすら知らないのは、流石に親族として駄目っぽいかもしれない。
帰ってきたら聞いてみようか、なんて考えていたら寝惚け眼を擦りながら、谷園がトボトボとゆっくり歩いてやって来た。
俺のTシャツはくしゃくしゃの状態だ。
「おはようございまーす……でーす……よぉ~」
「おう……珈琲でも飲むか?」
「カフェオレでお願いします」
「はいよ、碧は?」
「碧も! オーレで!」
ボトルに入ったブラック珈琲と牛乳を用意して、半分ずつ注げば完成。簡単である。
インスタントは最高だ。早い、安い、便利、美味い! 丼すら越える存在……と言ったら過分かもしれないが、それくらい助かる存在ではあるだろう。
「ほら、谷園。碧のも置いとくぞー」
「ありがとうです」
「置いといて~」
谷園がチビチビと飲み出したのを見て、俺も自分のブラック珈琲を飲んだ。
碧が作っていた朝食が完成したのは、それから十分も経たない間のこと。俺からすれば驚きの速さであった。
なんか、書き方が迷走している気がしないでもないですね……自分的にですが。
まぁ、初心者なのでそこは仕方ない!優しくしましょ。(´ω`)
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