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第78話 兄と妹の週末 ⑤


お待たせしました!


カスタムキャストという流行りのアプリで、キャラを作ってみたですよ。

イメージ通りと思う人もいれば、少し違うと思う人もいるかも知れないですね(´ω`)


Twitterに載せてますけど、見る見ないは自由です(´ω`)

(↑あくまでそのアプリ内で使えるパーツで、不器用な作者が頑張ってイメージ上を具現化したものと思ってください。ただ流行りに乗ってみたかっただけ……)

 


 向日葵さんからのアドバイスを貰えず、それでいて、自分だけでは良い解決策が思い付かない。

 長い時間楽しめるよう少しずつ食べていたクッキーも、つい先程食べきってしまった。

 向日葵さんとの協定のお陰で、怖いものは無くなったけれど、だからと言って失敗しても大丈夫……という訳でもない。

 その失敗で関係が修復不可能になるかもしれないのだから。

 立ち向かう勇気は貰ったのに踏み出せないのは、それがきっと自分の弱さなのだろう。


「マスター、奥さんに怒られた時ってどうしてるんですか?」


 亀の甲より年の功。よく叱られてそうなマスターならば、きっと許して貰える方法を知ってるだろうと思って聞いてみた。

 マスターは柔和な笑みを浮かべ「簡単だよ」と言った。


「青君、たしか妹さんと喧嘩したんだよね? 相手が家族なら、方法はとても簡単だ。――土下座って知ってるよね?」

「いや、知ってますけど……えっ? マジですか?」

「はっはっはっ! 私がこの店で一番気を使ってるのは、珈琲カップの汚れよりも床の汚れだったりするくらいだ……マジ、だよ青君」


 急に真剣な表情をされても、威厳も何もない。真顔で土下座するんだよ? と言われても困惑してしまう。

 それで許されているからこそ、熟年の夫婦としてやっていけてるのだろう。


「結構長い時間の土下座ですか?」

「それはね、仕方ないさ。許されるまで土下座するんだから。相手が頭上げて良いと言っても上げないのがコツだからね?」

「妹に土下座する兄ってどうなんでしょう?」

「ダサいですね」


 自分でも分かっている。でも、向日葵さんに言われると心にグサッとくる。

 俺は少し迷って、迷う選択肢がそもそも無いだろうという結論に辿り着いた。

 碧に許して貰うために土下座で済むなら安いものだろう、と。


「ちなみに、マスターはどんな時に土下座したんですか?」

「たまに来る女のお客さんに、サービスで珈琲を無料にしようとした時だったかな……」

「あれはもう、今後二度としないでくださいね? 売上に響きますので」


(あぁ、向日葵さんにも土下座してるのかマスターは……。立場とか大丈夫なのかな?)


 やはり女性相手の事で怒られているんだと、マスターらしさに納得した。

 でも、何度も何度も土下座で乗り越えて来たマスターに男らしさを感じる。


「マスター、俺に土下座を教えてください!」

「青君! ……土下座の道は厳しいよ? 本当にやるのかい?」

「二人して何を言ってるんですか?」


 マスターの問い掛けに、真剣な目を向け頷いて返す。


「そうか……そこまでの決意なら教えよう。まずはプライドを捨てるところからだね。ちょっと裏に行こうか。向日葵さん、お店は任せたよ」

「はいっ! よろしくお願いします! ふっ……極めてみせよう土下座道を」

「たまに男の人が分からないんですが…………」


 それからマスターに手取り足取り教えて貰った。

 プライドを捨てる事、姿勢、耐え続けること。

 それを教わり終わる頃には夕陽が街をオレンジに染めていた。


「はぁ、はぁ……」

「私の見立て通り……青君には才能があったみたいだね」

「いえ、マスターの教えの賜物です。俺……碧に謝ろうと思います!」

「あぁ、今の君ならどんな失敗でも許されるだろう。胸を張って謝ってくるといい」


 俺は痺れる足が回復するのを待って、伝票を取りに座っていた席へと戻った。

 冷めてしまった珈琲を飲み干すと、珈琲よりも冷めた目をした向日葵さんが歩いて来た。


「青さん」

「あぁ、向日葵さん。俺、そろそろ帰るよ……謝らないといけない人がいるから」

「そうですか……。あの、言いづらいんですが……」

「ん? どうしたの?」


 少し口ごもる向日葵さん。

 伝えづらい内容なのだろうか? 冷めた目もどんどん憐れみの視線へと変わっていく。


「その……マスターは別に土下座したから許されてる訳では無いというか、布団叩きでボコボコにされた上に、晩御飯のおかずを減らされているので……土下座はあんまり意味がないというか?」

「……えっ? ごめん、聞き間違いかな? マスターは土下座したら許されるって……」

「それはその……土下座すれば、最悪の事態は免れるというだけでして……」


 この数時間を棒に振ったのかと、本当は嘘でしょ? という意味を込めて向日葵さんを見るが、嘘じゃないらしい。

 あの自信満々な感じは何だったのかと、裏で休憩してるマスターに無駄だと知りつつも思念を飛ばしてみる。


「どうすんの? 無駄に土下座スキルを習得しちゃったんだけど……」

「本当に男の人ってそういうところ変ですよね……。あの、青さん? せめてものと思いまして……クッキー焼いたんで妹さんにお土産として渡してあげてください」


 そう言って向日葵さんは、可愛くラッピングされたクッキーを持たせてくれた。

 驚く俺を無視して、さりげなく、だがしっかりと追加のクッキー代を伝票に書き込んでいた。

 でもまぁ、これで成功率はグンと上がること間違いなしだろう。


「ありがとう向日葵さん。毎度毎度助けて貰っちゃって」

「そういう約束ですから。仲直り、出来ると良いですね」


 俺は向日葵さんに代金を支払って、店を出た。

 帰りづらさはたしかにある。でも、追い風のお陰で足取りはそう重たくなかった。



 ◇◇◇



 谷園に、家の鍵を閉めておいてくれと頼んだから玄関は閉まっている筈だ。

 一応鍵は持っているし、開けることは可能だ。

 だけど、だけど俺はあえて……インターホンを鳴らす事にした。

 碧がまだ怒っているか、機嫌が直っているかもここで分かると踏んでのことだ。


「ふぅ……」


 一息吐いて、インターホンを鳴らす。

 なぜ自分の家なのにこんなに緊張しなきゃいけないのか、そう思う程に心臓がバクバクしていた。


「質問その一、あなたはどちら様ですか?」


 インターホン越しに聞こえて来るその声は、碧のものだった。

 質問。無駄に凝ったこのやり取りにどんな意味があるのかは分からないけど、きっと谷園の入れ知恵だろうとすぐに思い至った。

 いくつ質問があるかは分からないが、俺は全部に返していこうと早速回答をしていく。


「神戸青です」


 答えるとすぐに、次を問いただされる。


「その二、家族構成は?」

「父と母と妹の四人家族」

「その三、妹の名は?」

「神戸碧」

「その四、妹の誕生日は?」

「六月二十日」


 その後も質問は続いた。好きな食べ物、好きな色、苦手なこと、嫌いなことまで。


「質問その四九、あなたの妹が今日してしまった失敗は?」

「それは…………」


 俺はその質問で言葉に詰まり、何も返せなかった。

 質問が始まってからというもの、正直に言うと質問その四である誕生日から先の質問は当たっている気がしない。

 それでも一応は返せる質問だった。でも、ここに来て初めて詰まった。


「答えは、兄に意地を張ってしまった事……だよ、お兄ちゃん」

「碧……」

「全然正解が無かったお兄ちゃんに最後の質問です! 質問その五〇、あなたの妹を……どう思ってますか?」


 こういうのは普通、質問がだんだん難しくなっていく筈だろう。

 なのに、最後の最後で一番簡単な事を問われた。

 妹……碧についてどう思っているかなんて、俺が何年兄をやっていると思っているんだ。


「碧、お前が妹で良かったよ。俺の妹が神戸碧で……本当に良かった」


 一秒……十秒……俺の返事から時間だけが過ぎていく。

 沈黙がこんな気持ちなんて、向日葵さんには少し悪いことをしたかもしれない。

 何か間違えたのだろうか……という思いが、頭や心をザワザワとさせる。


「……ど、ど、どうせ外でもいろんな妹にそんなこと言ってるんでしょ!? 騙されないんだから!」

「いろんな妹って何!? っていうか、何か聞き覚えのある言い回しなんだけど!?」


 インターホンの音声が途切れた訳では無いのに、碧の声が聞こえてこない。だからと言って、玄関を開けに来る気配もない。

 結局、許して貰えたのかも良く分からない。


「青さーん、聞こえてますかぁ?」


 インターホン越しの声が、碧から谷園に替わった。

 声だけでなんとなくだが、谷園の二ヤついた表情が目に浮かぶ。


「まだ、居たんだ」

「あぁ~! そんなこと言っても良いんですかぁ? 私は碧ちゃんのお客さんなんですよぉ?」


 意地悪で言っただけなのに、碧が俺の弱点かのように返された。

 厄介な奴に面倒な事を割と深く知られてしまうという、なんとも最悪な事態なのだと今更ながらに気が付いた。


「もう夕方だろ?」

「今日は泊まって行くんですよー」

「そうか」

「あら……? 思ったより反応が薄いですね?」


 当たり前だ。

 どうせ何を言っても「碧の友達として~」と言うのだろう。それに、碧から誘ったというのは容易に想像が付く。

 谷園は意外と――自分でフランクとか言いつつ――自ら一線を踏み込もうとはしないタイプだ。

 谷園は押せ押せなのに、他人が押せ押せだと引いていく。他人が引くと谷園も引く。なんとも面倒だが、谷園が引くよりも大幅にこっちが押さなければならない。

 面倒ではあるのだが、谷園なら仕方ないし、やってやるか……という気持ちにさせられる。


「あぁ、お前は面倒な奴だよホント……」

「シンプル悪口!? 玄関開けてあげませんよ!?」

「鍵があるから大丈夫だ。それより碧は?」

「あー……クッションと一体化してますねぇ」


 何をしているかはともかく、とりあえず大丈夫そうならそれでいい。

 俺は鍵を使って、家の中へと入っていった。


「ただいま」

「お帰りなさいですよー」

「はいはい、泊まっていくんだろ? 服とかは?」

「えぇ、とりあえず寝間着は青さんに借りようかと」


 靴を脱いで谷園に「そうか」とだけ返し、リビングへと向かった。

 ――するとそこに、クッションを顔に覆うように抱いた碧がソファーで横になっている。


「ただいま、碧」

もまえみ(おかえり)……」

「お土産があるんだけど」

「えっ! 本当ですか?」


 谷園(おまえ)にじゃない。

 これは向日葵さんに焼いて貰った、碧への秘密兵器(クッキー)だ。まぁ、二つあるから一つはあげてもいいのだが。


「お土産……?」


 少し顔を出した碧に、クッキーを見せて(おび)き寄せる。

 一歩一歩、片手でクッションを持ちもう片手は伸ばしながらやって来る碧。

 目の前まで来た時に……その伸ばしてある手を掴んだ。

 驚く碧の目をちゃんと見る。ちゃんと伝える為に、ちゃんと見る。


「あっ……」

「ただいま、碧。ごめんな」

「うん……ごめんね、お兄ちゃん」


 俺は視線の高さを合わせる為に屈んだ。そして、碧と仲直りの握手を交わす。

 俺が「ごめんな」と言えば、碧は「いいよ」と言う。

 碧が「ごめんね」と言えば、俺は「いいよ」と言う。

 少し遠回りしたけれど、俺達はちゃんと仲直り出来たのだ。向日葵さんと一応谷園には感謝しないとな。

 土下座の出番は無かったし、マスターへの感謝はまだ先になりそうである。


「めでたしめでたしですね! では、そろそろ仲良く三人で晩御飯の準備にでも取り掛かりませんか?」

「いや、ここは俺と碧に任せて谷園は休んでいてくれ」

「そうだよ、マノン姉! ご飯は任せて!」

「えっ……なにマノン姉って?」


 いつの間にか、碧と谷園の距離がめちゃくちゃ近付いている気がする。

 俺が居ない間に、変な事を吹き込まれてないか少し心配だ。碧には真っ直ぐ成長して欲しい。決して、オーラとか言わない子に……。


「谷園? 碧に変な事を吹き込んで無いよね?」

「も、もちろんですよぉ! むしろ、青さんの昔ば……」

「わぁーわぁー! やっぱり、マノン姉と一緒に作るからお兄ちゃんは休んでて! その方がマノン姉が奥さ……」

「ギャーワァー! 青さんは早く手洗いうがいをしてきてください! 後はやっておくんで!」


 何か騒ぎ出した二人がとてつもなく怪しいが……とりあえず言われた通りに洗面所へと向かった。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)


喧嘩からの仲直り……割と王道の展開ではないだろうか?



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