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第75話 兄と妹の週末 ②


お待たせしましたぁ~あ(´- `*)


少し寒いですね……

風邪とかには気を付けていかないとですね~



 


「こねこねこねこね……はい!」

「…………」

「お兄ちゃん、ちゃんとやってよ! はいっ!」

「あ、あぁ……。こねこねこねこね……」


 帰宅した俺達は、手洗いうがいの後にさっそく台所に立って、晩御飯の準備をし始めていた。

 エプロンを着けて台所に立つ碧を見ると、成長したな……と感慨深いナニかがある。

 ちなみに俺は、そんな碧から指示を受けてサポートをする予定だ。

 それなのに今は何故か、何もしていないのにこねこね言わされているのである。


「んー……で、碧? お兄ちゃんは何をすれば良いの? ずっとこねこね音頭を取ってればいいの?」

「うーん、そうだなぁ~。じゃあ、お兄ちゃんは大根をすりおろしておいて。今日は和風ハンバーグにするのですよ~」

「分かった。そこまで多く作らなくて良いんだよね?」

「うん! その後にまた頼むからね」


 せっせとハンバーグを作っていく碧を応援するのが半分だったが、微力は尽くせた筈だ。空気を抜く作業はなかなか楽しかった。

 ハンバーグも焼きの段階に入ると、香りが広がって食欲が促進されていく。完成が近いからだろうか、碧もなんだか楽しそうだ。


「お兄ちゃんお皿お皿~、先に野菜を盛っておいて!」

「はいよ」


 大きめの皿を二つ準備して、付け合わせの野菜を盛り付けていく。皿の奥の方にキャベツやキュウリ、トマトを並べる。

 手前のスペースへ碧がハンバーグを置いて、最後に大根おろしと少しのポン酢をかけて――完成だ。


「碧はご飯をお願い。これは運んでおくから」

「うん! 早く食べよ、お腹すいちゃった」


 テーブルのいつも自分達が座る場所に運び、次はお茶とコップを持ってこようと台所に戻った。

 ――そこには、固まっている碧の姿があった。


「碧……ちゃん?」

「お、お兄ちゃん……お米が……お……お米が……」


 深刻そうな表情を浮かべ、声を震わせる碧の視線の先には――中に何も入っていない炊飯器が、その蓋を開いた状態でこちらを見ていた。

 これが噂の、『炊飯器を覗く時、炊飯器もまた――』というやつなのだろうか。

 最後にちゃんと締まらない所がなんだかなぁ~という感じで、少しだけ笑えてくる。


「いや……思考放棄をして笑ってるいる場合じゃないな。碧、今からでもご飯用意するか? 早炊きならそう時間も掛かんないだろうし」

「でも、せっかくだから出来立てを食べて欲しい……ごめんねお兄ちゃん」

「俺も気付かなかったし……と言うか、俺が気付かないと駄目な事だったな。ごめん、碧……そうだ! うどんかラーメンかを作るか? 三分くらいなら出来立ての内に入るだろ?」

「和なのか洋なのか中なのか……分かんなくなる献立だけど、それなら碧、ラーメンがいいなぁ!」


 急いでお湯を沸かして作り出す。トッピングに卵でも入れてやろうと冷蔵庫を漁った。

 インスタントラーメンなら碧よりも俺の方が得意だし、これで少しくらいは役に立てただろうか。

 ハンバーグにはご飯の方が絶対に合うのは分かっているが、俺と碧だけならこういうのもアリではあるだろう。

 それにしても、お母さんのありがたみがよく分かる日だ。


 ――三分と少し、食卓にはハンバーグとラーメンの姿があった。

 ラーメンを主食に入れるか汁物に入れるかで分かれそうだが、今日は主食であり汁物である。だが、メインはもちろん碧のハンバーグだな。


「では……」

「「いただきます!」」


 ハンバーグを一口サイズに箸で切り分け、口に運ぶ。

 グルメレポーターが語る様に、肉汁が~とか、柔らかな歯応えが~なんて良い例えが出来る訳じゃない。でも……


「美味しいよ、碧」


 それだけはハッキリ分かったし、ちゃんと伝えようと思った。

 いつもお母さんに言う、何も考えないで答える「美味しい」とは違って、少しは手伝った事やほとんどを作ってくれた碧への感謝を含めての「美味しい」だ。

 今度からお母さんへもちゃんと言った方が良いよな……という決意が何日持つかは分からないけど、とりあえず記憶に留めておこうかな。


「えへへ……ありがとう。どれどれ私も一口……ん~~! 美味しいぃ~」

「碧、皿洗いくらいは俺に任せてくれ」

「ううん、私もやる。最後までね」

「そうか、なら二人で早く片付けてデザート食べながらゲームでもしようぜ! 夜更かしし放題だぞ!」


 両親が居ない時に毎回夜更かしチャレンジをする碧だが、その度に失敗してきた。深夜になるとゲームの対戦途中でも眠ってしまう。

 碧が「起きてる……起きてるよぉ~」と、何も聞いていないのに言い出したらもう駄目のサインだ。


「うーん……その前に宿題とか終わらせておきたいかも! そしたら明日からも遊べるしね!」

「あー……宿題かぁ~。まぁ、そうだなぁ~終わらせておくべきかもなぁ」


 食事をしながら今日この後の予定を決めていく。まだ休みは始まったばかりで詰め込み過ぎずとも良いのだが、日曜日に後悔したくない。それはきっと碧も同じ気持ちだろう。


「とりあえず食べてからだね! ちゃんと味わってよ?」

「特にハンバーグはちゃんと味わってるよ、勿体ないし」

「明日も一緒に作ろうね! そうだ! マノンちゃんとか招待しよ……」

「そうだな! 明日も! 一緒に! 作ろうな!」


 俺は碧の声に被せる様に、やや大きめの声で返した。

 何も聞こえてないよ。でも、前半のとこはバッチリ聞こえてたよ。という意思表示をしながら。

 脳裏に、騒ぎだす谷園の姿が思い浮かんだ。もしかすると、碧に何か悪影響を及ぼしているのではないかと不安になる。

 というか、同級生の女の子を両親の居ない家に上げるのは流石にマズイだろうと思う。

 前は両親がちゃんと居たからセーフ……だとは思うが、それでもアウト寄りだ。

 外聞を気にする兄を情けなく思うかもしれないが、谷園は不安が大きすぎる。

 麗奈さんならきっと大丈夫だ。でも谷園は不安。えこひいきに思われるかもしれないが、谷園が来たら泣き落としでもされない限りは追い返す心積もりである。


 二人で「ごちそうさま」をした後に、一緒に片付けをして、リビングに宿題を持ち寄ってそれも終わらせていった。

 途中、テレビを点けてたまたまやっていた映画を観たり、デザートを挟んだり、碧の宿題を教えたりした結果、いつもなら寝るだろう時間帯になっていた。


「ふっふっふー、こんな時間にお風呂に入っちゃうもんね~」

「いつの間に?」

「さっきトイレに行ったついでに準備してたんだ~、お兄ちゃんの頭でも洗ってあげようか?」

「はいはい、冗談言ってないで早く入りに行きな。あ、碧の後に入るから水は抜かないで」

「はーい! とか言って先に寝ないでよ!」


 そう言った碧が風呂から戻り、次に俺が入って戻って来た頃。テレビを観ている碧の頭が前後に小さく揺れていた。


「碧?」

「んー? ……お兄ちゃん遊ぼー」

「眠いんだろ? 今日はもう休もうか」

「まだ……遊ぶの」


 ゆっくり瞼が下がるが、それ以上にゆっくりと瞼が上がる。それが何回も続いて、次第に目が開かなくなっていく。

 やはりまだ、小学生に夜更かしは早いなと思いながらも、眠っまった碧を抱えて部屋のベッドにまで連れて行った。

 きっと……明日の朝に寝坊でもすれば、碧に文句の一つや二つと共に起こされるだろう。たとえ夜更かしをしていなくても、朝から碧に疑われるのはキツいものがある。食事が野菜だけ炒めになりかねない。


 そんな予感がした俺は、服の袖を掴んでいる碧の手を離し、自分の部屋へと戻った。そして、さっさとベッドに潜り込んで寝ることにした。



 ◇◇◇



 朝の光がカーテンの隙間から熱を送ってくる。

 意識的に陽の当たらない場所に移動しようとしている時点で、ある程度は覚醒しているのだろう。だが、まだ目は開かない。

 眠いから眠る、しかも休日だから。という簡単な理由から、昨日寝る前に考えていた何かを忘れながら微睡(まどろ)む。

 二度寝は至高。二度寝万歳。堕落の極みに至る一歩目こそが二度寝だろう。その道を進んで良いかもと思わせる程に、今日のコンディションは二度寝に適していた。


 この時、ちゃんと起きていれば……いや、せめてスマホで時間を確認しておけば。

 そう思う事になるのは、それから数時間ほど経った二回目の目覚めの後だった。



 ◇◇◇



「ふぁ~あ……寝たなぁ」


 お昼近い十一時。時間を確認するために使ったスマホには、ゲームアプリやチャットの通知が幾つか来ていた。

 寝ようと思えばまだ行けそうな感覚と共に、二度目の目覚めがやってきた。

 ふと……何か違和感を感じた。それはきっと、碧が起こしに来なかった事だろう。なんとなくそう思った。

 もしかすると本当は、起こしに来たのに俺が起きなかっただけなのかもしれない。だとしたら申し訳ないが……寝ている途中、碧の声や揺すりで起こされた感覚は無かった。

 やはり碧がお越しに来なかった事が違和感の正体なのだろうと、目を擦ったり、体を伸ばしながらそう考えていた。

 すると突然、部屋のドアが勝手に動いた。

 いや、違う。壊れても無いドアが勝手に動くことは無い。誰かが動かしているのだ。


(碧……か? 遅すぎて痺れを切らしたのかな?)


 ゆっくりと開くドアを見つめていると、小さい隙間から顔を覗かせる人物と目が合った――


「ちぇっ、青さん起きてました? 碧ちゃんがむくれてるんで、早めに来てくださいね」

「あぁ分かった、今い………………はっ?」


 寝惚けているんだろうか? 開いたドアの向こうに、碧ではなく谷園が居た気がした。

 一言だけ告げたその谷園らしき人物は、もうすでにドアの近くには居ない。

 碧の状況を知らされる前に、小さく残念がる様な声と舌打ちとの間みたいな音も俺の耳に届いた気もするが、それすらも気になる。


「えっと、つまり…………どゆこと?」


 頭が真っ白になった訳じゃない。むしろ、いろいろと考える事が増えて処理しきれていない感覚。

 もう一度スマホの画面を確認する。届いていたチャットを詳しくみると――


『碧ちゃんに呼ばれたので、遊びに行きますね!』


 という連絡が、ちゃんと谷園から届いていた。

 碧ちゃん何してんの? とか、やっぱり谷園で間違いなかった件とか、ノックも無しに部屋に入って来ようとした事についてとか……思うことは沢山ある。

 でも今は、とりあえず碧の機嫌をこれ以上損ねないようにすることを兄として優先させないといけない。

 昨日の寝る前に決めた事を今更ながら思い出した。何もかも時すでに遅し……ではあるのだが。


(何とか許して貰えて、谷園にお帰りいただく方法は無いだろうか……?)


 俺は寝間着として使っているのジャージのまま、部屋を出て行った。






誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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