第68話 自分の分だけやれば良し!
お待たせしました!
少し短めですが……よろしくお願いします!
折り紙を千切っちゃ貼り、千切っちゃ貼りを繰り返して、用紙を埋めていくが、まだまだ完成には時間が掛かりそうだった。
折り紙を細かく切るのは問題無いが、細かいとどうしてもスティック糊との相性が悪い。おかげで指が、若干ベタついている。
「……っと、少し腰がキツいな」
「うつ伏せで作業をした方が楽そうですが……少々、はしたないですわよね」
ひま後輩も壁を使って背中を伸ばしている。のののは平気そうだが、キツくは無いのだろうか?
「のののは腰とか大丈夫なの?」
「平気」
「その心は?」
「ん……猫背」
そう言ったのののの背中は見事な曲線を描いていた。作業中は俺もひま後輩も猫背にはなるものの、のののの猫背は、普段からそうなってる人のものだった。
「今から猫背だと将来的にヤバくないか?」
「そうですよ、巳良乃さん。姿勢は良くしませんと……」
「うむむ……」
猫背で楽な姿勢のまま作業をしたいのののと、骨に変なクセが付いて成長に関わるのを危惧してるのののが鬩ぎ合っているみたいだった。
伸ばしたり、丸めたり、数回繰り返した後に、「休憩中に伸ばす」と、間を取った様な結論を出していた。
「ひま後輩は姿勢が良いね?」
「えぇ、書道の時にも姿勢は気を付けていますし……普段からも佇まいには気を使っておりますのよ?」
足は崩しているものの、話している時の姿勢は背筋が伸びていて上品さ醸し出されている。
俺はひま後輩ほど綺麗な姿勢ではないが、ののの程曲がっている訳でもない。それも含めて、この三人はバランスが取れているのかもしれない。具体的にはあまり出ないが、得意不得意や長所短所が補えそうという意味で。
「やっぱり、視線が集まる人は大変だねぇ。のののは普段の歩き方とか特に気にして無いだろ?」
「面倒」
「だよなぁ~。あぁ……ひま後輩はそのままで良いんだよ? でも、のののが言ったみたいに、『自分が元よりそういうタイプなら良いけど、他人の視線を気にしてたら窮屈になる』……みたいな状況ならさ、少し疲れない?」
「あ、あれ!? 心配してくれてありがたいのですが、巳良乃さんそこまで言ってませんわよね!?」
「言った」
言っては無いが、言ったんだよ。のののは。
ひま後輩もそろそろ文脈とかで理解してくれそうだと思っていたが、クラスどころか学年が違うし、交流が少ない分、まだまだ時間は掛かるかもしれない。
口数の少ないのののと、お嬢様(仮)であるが故に、男子は当然としても女子にもたまに高飛車な態度になってしまうひま後輩。
自分の事を棚に上げて言うならば、理由は違うとしても二人ともボッチと言ってもいいだろう。であるからして、方向性は違えど、二人ともコミュニケーション能力も低めである。
この二人は仲良くなれそうだが……タイミングを無くして平行線になるという事も考えられる。俺としては、仲良くなれるならそれに越した事は無いと思うが……当人達が自然と話せる関係になるのがベストだろうな。不自然に二人きりにして、気まずさを植え付けたりしたら最悪だ。
とりあえず今は、俺が間に入っておいた方が良いかもしれない。
「難しいですわね……」
「まぁ、俺でも難しい時があるしな! その内慣れるって! うし、休憩の時間が来るまで頑張りますか」
そう促してみたものの、三人の中で一番遅れてるのは俺だった。
二人とも手先が器用なのか、細かく千切るのも貼るのも速かった。
二人が速くて俺が遅いと、そういう意味でのバランスになってしまう……頑張ろう。少しでも足を引っ張らない様に。
五時間目の授業終了のチャイムがなって、俺達も休憩に入った。
「これ、背中だけ伸ばすより寝転がった方が楽かも」
うつ伏せになってみる。二人は壁を使って背筋を伸ばしていた。
のののはすぐに猫背になっていくが、その度に「ハッ!」としながら伸ばしていた。でもやっぱり猫背が勝ってしまうみたいだ。
「キツい」
「ま、まぁ……普段から少しずつ頑張れば良いと思いますわよ?」
「……そうする」
のののは背中も膝も曲げて楽な姿勢に変えた。「ふぅ……」と一息吐くほど疲れてはいないだろうに、のののは疲れたアピールをしてみせた。
「おやおや、青さんもののさんもゆったりしてるんですね! 向日葵さんもこんにちはですよ!」
「おぉ、谷園……順調か?」
「谷園先輩、こんにちは」
雨で空気が重苦しく、どんよりとしているのにも関わらず……不思議な事に谷園が居ると晴れの日みたいな空気に変わる。
本人の陽気さが周囲に伝播しているのかもしれない。谷園のテンションには置いていかれる事が度々あるが、それでもやっぱり谷園はこうでなくてはと思ったりする。明るくあって欲しいという願望に過ぎないけれど。
「私の所は話が弾み過ぎちゃったと言いますか……進みは微妙って感じなんですよねぇ~。青さんの方はどうです?」
「床にあるだろ? 三人一組とするなら俺が足を引っ張ってるが、個人としてならそこそこって所じゃないか? まぁ、他の人がどれくらい進んでるか知らないけどな」
「えーっと……どれどれ? ……はやっ! 嘘ですよね? 他の二人は青さんより速いんです?」
「そうだぞ。こっちも話はしてるけど手が止まる事はあんまり無かったからな」
谷園は自分達の班だけが遅いのか気になったのか、「他の所も見てきます」と言って離れて行った。
むしろ俺は、自分が遅くない事に少し安堵している。次も同じ作業をするなら、少しくらい手を抜いたとしても怒られないだろうし。
「三十分くらいで半分は出来てるし、余裕ではあるかな?」
「次もこの作業になるのでしょうか? 私としては……この作業の方が、良いの……ですけど……」
ひま後輩がツインドリルの左を指でくるくるしながら、少し照れながらそんな事を口にした。
少しずつだが分かり易くなっていくひま後輩。そう簡単に変わるとは思わないが、この三人の中だと、ひま後輩が一番友達が増えそうで、今後に期待が持てる。
「だな。次もこの作業なら、一回集合するかもしれないが動かなくて良いし、すぐに終わるだろうし」
「神戸……一枚で」
「…………オッケー。この用紙が終わるギリギリの所から手を抜く作戦でいこう」
「手を抜く……ですの? それより、谷園先輩達のグループは大丈夫なのでしょうか? 青先輩でも残り半分くらいですのに」
「個人に課せられたノルマと見せ掛けて、その実、この貼り絵は皆で完成させるモノだ。谷園達のグループが終わってなければ、誰かしらに皺寄せが行く……早く終わった人が居ればそこにね」
今日中には終わらないというのは、団長の最初の話の中でもあった。だから、俺達に皺寄せが来る事は無いのかもしれない。
だけど、「手が空いてる人は……」なんて言葉が、三年生リーダーの誰かから飛ぶかもしれない。
ケチな考えかもしれないが、最後の少しを手伝うならまだしも、そこそこの量を手伝えと言われたら嫌な気持ちしか無い。それが例え谷園であっても、面倒という感情がどうしても勝ってしまう。
俺はちゃんとやったのに……何故に人の分まで……みたいな。
のののもそれが嫌だったのだろう。注意換気してくれたおかげで急ぎ過ぎずに済みそうで助かった。
「なるほど……それで手を抜くという考えに至ったのですね。私は……自分の分が終わった後でも三人で一枚ならやっても良いと思っていましたけど」
「ののの……ひま後輩の意見はこれは良い子の考え? それともこれが普通の思考回路だったりするのか?」
「私達の領域外。神戸、世界は広い……」
「大袈裟ですわよ……」
呆れて苦笑いをするひま後輩と、怠惰寄りの思考回路を持って楽がしたい俺とののの。
残りの休み時間を使ってどっちの方法を取るか話し合った結果、先輩である俺達の意見が採用された。口説き文句は「この作業は頑張っても一円にもならない」という青春にあるまじき言葉である。
だが、それに頷いてしまうひま後輩のお金に対するシビアな所、嫌いじゃなかったりしている。
そして、六時間目の始まりのチャイムが鳴って、赤組は赤組で白組は白組で集合を掛けられた。
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