第7話 ワタシ谷園マノンチャン!
よろしくお願いします!
放課後のこの時間、駅前周辺は雨にも関わらず賑わいを見せている。俺達と同様に友逹同士で遊びに来ている学生。スーパーに買い物に来ている主婦。仕事をしている人達……混雑レベルでは無いが人通りは多い時間だ。
そして、お目当てのクレープ屋だが……。
「「はえ~長い列だな(です)!」」
「ん? ……あ、え……ははは……」
最初はのののと声が被ったかと思ったが声が違うなと思い反対側を見ると、金髪の外国人? ハーフ? の女の子と声が被っていた。ちょっと、ホントに『あっ……』って、感じで気恥ずかしい……。
「いや、そんなに気まずそうな恥ずかしいそうな"オーラ"を出さなくても良いじゃないですか……」
「……え? オ、オーラ? あ、何か、すいません。……それにしても日本語が流暢なん……ですね?」
ちょっとよく分かんない事を言われた気がしたが……気のせいだろう。それに見た目からは想像付かないくらいに、日本語が上手すぎる。
「まぁ、ハーフですけど日本育ちですし……むしろ日本語以外は話せませんよ! 父の日本語と母の海外ならではのフランクさが合わさったのが私です!」
「お父さん日本語だけ!?」
お父さん……何か、可哀想な。
「ですよ! ふーむふむ……。そちらの女子からは面倒臭いのと早く……ってオーラが視えるですね。隣の男性は……ほう! ほほ~何やら友人を心配してるオーラが……」
「早く並ぶ」
「マジか……? きみ……いったい何者?」
勝也が苦笑いしている。内心を当てられたからかこの子の設定についていけて無いのか……どっちもの可能性があるな?
「勝也、多分……あれだ。視えちゃう系イタタ女子って奴だろうさ。っと、とりあえず列には並んどかない? えっと……君も?」
「私も並ぶのです! ……何故ならオーラを視るとお腹が空くし甘いものが欲しくなりますから」
という設定なんだな。実際にこういう子って居るもんなんだなぁ。金髪で片目が若干隠れてしまっているがそれも総じて、話した印象は痛い子だ……。確かに初対面でこんなに堂々と話せるならフランクなんだろうが、オーラとか言われてもな……占い的なあれかな?
「青、相手は任せた。話の難しい奴は苦手だ……」
「難しいの方向が違うけど……まぁ、列に並んでる間とはいえ、無理して話さなくてもいいだろうさ」
「いやいや~、話しましょうよ~。その制服ってあの私立の学校ですよね? 色々と教えてくださいよ~」
のののは危険を察知したのか、この子から一番離れている。
「オーラ? とやらで分かるんじゃ?」
「イヤですね~、そんな詳しく分かる訳無いじゃないですか。青……さん? で、いいんですよね? 常識で考えてくださいよ~! やだなぁ~もう~」
えぇ……。何かめちゃくちゃ笑われてるけど俺がおかしいのか?
勝也とのののはメニューを何にしようか考え出してこっちを放棄してるし。
「いや、オーラ業界の常識なんて知らんぞ普通は……」
「あぁ……はい。あなたのオーラは何か普通ですもんね」
全く嬉しくないけど!? でも、変なオーラじゃないだけ良かったのかな? 何だろう……この子と話すと精神面が疲れていく気がする。
「普通より、霞んでますね?」
「霞んでんの!?」
全然、普通じゃ無いじゃねーか!? 霞む事とかあんの!?
「えぇ、霞みまくってますね。お友だちの女の方は暗めですが霞んで無いですし、男の方は……たしか勝也さん? ですか? は、イケイケなオーラを感じます……」
「それ……見た目で言ってない?」
「い、いやですね! そそ、そんな訳無いに決まってるじゃないででですかぁ? ひひゅ~ひひゅ~」
こいつ……!! 結局見た目の雰囲気だけで話してただけじゃないか! ……ん? 待てよ。
「おまっ! それ俺が霞んでるって事か!?」
「いやぁ~それにしても列が長いですね~! 私はホイップ増し増し……増し増しくらいにしますかね!」
確かに列は長いし、メニューも豊富だし追加料金でトッピングも可能だけど、今じゃ無くない!?
「くっ、露骨に話を……何が増し増しだ」
「まぁ、一旦それは置いておいて……学校の事教えてくださいよ!」
周りの物全てに興味を出す子供の様に、話題がコロコロと変わっていく。本人は楽しそうだし、落ち着けと強く言い出せない。
「はぁ……。俺だけじゃ知ってる事に限りがあるからあの二人にも聞いた方がいいからな?」
「だいたいで良いんです、だいたいで!」
順番が回ってくるまで学校について知ってる事を話してあげた。きっと他校の制度とか気になっちゃう系なんだろうなこの子。
◇
それからクレープを購入して3人で食べる予定が四人で食べる事になったが……評判通りの美味さだった。ここにはまた来よう。
「いやぁ、美味しかったですね~」
「たしかに美味しかったけどさ。……じゃあ、俺達は本屋に行くからここでお別れだな」
「変な子」
「まぁ、明るい子ではあるんじゃねーの?」
のののの評価が1番的確だと思う……。
「それでは青さん、勝也さんとののさんまたです!」
「会うことがあればな」
「……」
「じゃあな! ……って!誰か名前くらい聞いたか!?」
いや、聞いてない……な。勢いに負けて聞かれた事に対して答えていたし、それに……。
「「もう会うことも無いと思って」」
「お前ら……。いや、俺も忘れてたから言えないけどさ。……まぁ、次に会うことがあればその時でいいか」
傘をさして歩いて帰っていく彼女を見送って、俺達は本屋へ向かい、俺と勝也は漫画を、のののは小説を購入し、その日は帰宅する流れになった。
「ただいま~」
「お帰り、お兄ちゃん!」
玄関に着くと、たまたま碧が居て出迎えてくれた。
「ほら、本屋に行ったから碧の集めている漫画の最新巻も買っておいたぞ」
「ありがとう! 『パン系男子の主食はチョコチップパン』の最新巻! ちょうど読みたかったんだ~」
タイトルからは想像出来ない、結構な人気作だ。最新刊は十四巻で、遂に物語は加速するらしい。帯にそう書いてあった。
「碧、今日の晩御飯は?」
「ハンバーグだってさ! もう少しで出来るって言ってたよ」
うむ。ご飯をお代わりして二杯くらいはいけそうだな。ハンバーグは肉だけじゃなく、タレもご飯が進むしな。
「りょーかい。じゃあ部屋に居るから呼んでくれ」
「あいあいさー!」
晩御飯の後に、風呂に入って、宿題をこなして、漫画を読んでいたら夜更かしをしてしまった。
「ふぁ~あ。ん?メ ール着てたのか……音出すの忘れてたな。勝也からか……時間も時間だし明日の朝で良いかな? 良いな。寝よ……」
勝也からのメールより眠気が勝った。夜更かしをしてしまったが、睡眠時間を少しでも確保する様にすぐさまベットへと潜り込んで、眠りについた。
◇◇◇
「ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ……あ、やっぱ無理かも……チャリだけど無理だな。もう無理だ……な」
寝、坊、し、た。
普段なら目が覚めてから数分、ヘタすると数十分は起きない俺が時計を見て一瞬で動きだすレベルの時間だった。
必要な物を鞄にしまったかどうかすら分からないぐらいにとりあえず急いで家を出て、自転車に乗ったのはいいが……こういう日に限って信号に引っ掛かる。そして今、学校の近くまで来た所で朝のホームルームが始まるチャイムが鳴り響いた。
こんな事なら妹の為に買ってきた本を興味本意で一巻から借りるんじゃなかったな……。
「くっ、自業自得か。気を付けようと思ってもつい読んじまうんだよな……」
急いで漕いでいた自転車のペースを普段のスピードに変えて、どうせなら可能な限りが遅れることにした。一分も十分もうちの学校の規則じゃ変わらないからな。
そんな考えでやって来た学校の駐輪場に自転車を停めて、とりあえずは鞄の中身をチェックした。
「あ~……やっぱり携帯も忘れてきたか。弁当はリビングを経由しなかったからしょうがないとして……とりあえず財布と体操着があるからセーフかな?」
クラスや学校の皆が既に各クラスで席に着いてホームルームを始めてる時に悠々と歩くのは少し罪悪感と謎の緊張感に包まれるな。……ちょっとだけ走ろうかな。
小走りで玄関を通り、靴を履き替えて二年二組の教室へ行くと、そこだけが他のクラスには無い盛り上がってる声が聞こえてきた。
「そういえば、昨日の帰りに桜先生が知らせる事があるって言ってたっけ?とりあえず入るか……」
「すいません、遅刻しま……」
「私ハ、谷園マノン デス! 日本語、練習シマシタ……ガ、マダ、難シイ。父親譲リノ……フランクサ、母親譲リノ日本語デス! 仲良ク、シテクダサイ!!」
そいつは言った。"父親譲り"のフランクさだと。俺が知っているのは"母親譲り"のフランクさだ。
そいつは言った。"母親譲り"の日本語だと。俺が知っているのは"父親譲り"の日本語だ。しかも、あんなに下手くそな話し方していなかった。
あいつ……あいつは……もっと!!
「おまっ! 昨日はもっと、流暢に喋れてただろ!?」
「テヘッ!」
教室中の視線を集めた上に、滅茶苦茶責められたのは言うまでもない。
誤字脱字がありましたら報告お願いします!すぐにでも書き直すので!(´ω`)