第62話 甘さの原因
お待たせしました!
ちょっと短編を書き出してみたらそっちに集中しちゃってましたね(まだ完成してない)
その気力をこの作品に回してたら数話分はかけてた(´ω`)
~前回の~
クッキーは放課後にくれるんだってさ!
ようやく昼休み
よろしくお願いします!
「青、食堂行かね?」
「あー俺、今日弁当だ……けど、それでも良いなら?」
一度断ろうとした勝也からの誘いに乗った理由は、クラスの男子が牽制しあっているからである。ギスギスとまではいかないが、どうにも変な空気感が漂っていた。男子が紅亜さんの動向に注目するのはいつもの事にしても、今日はクッキーという品物があるから特別。流石ですね、紅亜さん。
そんな中で一番注目されているのが、勝也と棚ぼた容疑のある俺みたいだ。勝也が既に貰っている事を知っている人が何人居るのか……それともまだバレて無いのか分からないけど、居心地は少しだけ悪かった。
クラスの人気者である勝也がそれに気付かない事は無いだろうし、誘ってくれたのも気遣いだろう。イケメン税を払えとか内心思っててゴメンな。
勝也と二人で教室を出て、食堂へ向かった。
「今日も日替わり定食か?」
「まぁ、無難にな。安いし美味いし?」
「でも、うどんが一番」
「えぇ~、私はもっと『これぞ学食!!』ってのが良いですねぇ」
……いつの間に背後を取られていたのか疑問である。これじゃあ、名前の後ろにサーティーンは付けられない……付けないが。それはともかく、居るなら居るでもっと普通に声を掛けて欲しかったな。
「のののに谷園、さっき教室には居なかったよな?」
「そう……だよな? だから俺も、青しか誘わなかったし……いつの間に?」
勝也的には誘う予定はあったらしい。男女関係無く仲良い人は誘う男なのは知っている。しかも、最初に誘った人に人選を合わせる優しさ。敵わないとか認めたく無いから口に出して褒めるのは止めておくか。
「ふっふーん、このくらいの尾行、私達にかかれば造作もないですよ! あと、マノンです」
「御手洗い」
「ちょっと、ののさん!? トイレから出たら二人が歩いてたってバラすのが早いですよっ!! もっと意味深に……」
なるほど、トイレから出たら俺達が丁度前を歩いてたから忍び足で近付いた訳か。説明ありがとう。
でも、のののと谷園が二人で行動するまでになってるとは……少し意外な組み合わせに思える。お互いのテンションに差がありすぎるし、とにかく、何か……二人ってのが何か変な感じだ。まぁ、仲良いってのは良いことだけど。
「聞いてくださいよ、青さん! ののさんったら、全く他人に興味無いんですよ! オーラがそう言ってるんで……あら? さっきとまた違うオーラが? あれれー?」
「……早く行く」
谷園の不思議ちゃんは今に始まった事じゃないから、とりあえずスルーをするとして……少し慌ててるのののはレアな気がする。普段なら俺達の前を歩いて行くなんてしないはずなのに、スタスタと歩いて行ってしまった。もしかすると、谷園に他人に興味が無いなんて言われて怒ってるのかもな。
「あいたっ!? 何で急にデコピンしたんですか青さん!?」
「さ、のののも待ってるし行こうぜ、勝也……と、谷園」
「ついで感!? むしろメインでしょ!? もう怒りましたよ! 行きましょう勝也さん」
「……仲良いな、お前らも」
谷園と勝也の取り合いをしながら食堂へ行き、食券を買うために先に並んでいたのののに追い付いた。弁当持参なのは俺で、三人が料理の完成を待っている間に、四人分の席の確保に向かった。……ついでに水も用意しておくのは、勝也に見習ってだ。
「なぁ、新山さんのクッキーって持ってるか?」
「いや、持ってねーな……話じゃ、クラスの女子にしか配って無いんだろ?」
「それが……」
「おいまじか!?」
「その女子に頼み込んで貰った奴が居るって話だぜ?」
「……くそっ! 仲良い女子なんていねーよっ!!」
二年生を中心に、男子の今日の話題はやっぱり紅亜さんの事みたいだ。たしかに、一口食べて諦めた女子はいるかもしれない。運良く、その女子と友達なら貰えた可能性もある。
だがまぁ……女子も諦める甘さを男子が耐えられるとも思えない。しかも、下手に不味いなんて口にしたら……お察しである。
「空いてる席……空いてる席は……っと見付けたけど、これは……」
ひま後輩。未だに回りの席が空いている。俺一人ならひま後輩の所に座るけど、今は他のメンバーも居るからな。どうしたものか……。
「神戸、何してる?」
「あぁ……ののの。やっぱりうどんは完成が早いのな。いや、ちょっと席をどこにしようか……と?」
俺が説明している途中でのののは歩き出し、ひま後輩の正面の椅子を引いて座った。驚いているのは俺だけじゃなく、ひま後輩もらしい。左右を確認した後に振り替えったひま後輩と目が合う。
「良かった……ビックリしましたわ」
「隣、失礼するよ。驚いたのは俺も同じだ」
「ん。私も」
(ん? あれ、のののも驚いた? 何でだ?)
ひま後輩の近くに座った理由は幾つか思い付く。単純に空いていたから、知ってる人ではあったから、俺が悩んでいたから、ひま後輩もうどんが好きだと思っているから。
でも、それとのののが驚いた理由は関係の無い所だろう。こういう時はのののの視線を追うのが良いヒントとなる。
「…………」
「…………!!」
「ど、どうかされましたのですか?」
なるほど。俺は自分の座っていた場所から、反対側の席に移動した。
「これで良し」
「良し」
「あ、相変わらず難しいですわね……」
のののが勝也達を待たずにうどんを食べ始めたのは、遅いからでは無く、今日は冷たいうどんを買ったからだろう。それでもやっぱり食べるスピードは遅い。俺も弁当を広げ、素うどんの二人におかずをお裾分けしているタイミングで、勝也と谷園が料理を手にやって来た。
「お、灰沢さんだ」
「んー、やっぱり良くみると何か……この子も変なオーラしてますねぇ。これは、苦労人が纏いがちなオーラです。バイトとか忙しいんですか?」
鋭い!! やはり谷園の人を見る目は別格の様だな。きっと隠しきれて無い手の荒れ具合から推測したのだろう。勝也は俺の隣に座り、谷園はひま後輩の隣に座った。今日の日替わり定食は和食みたいだ。
「わ、わ、わ……」
「おいおい、ひま後輩が苦労人な訳無いだろ?」
「お、お、お……」
「ひま後輩はお嬢様なんだぜ?」
「ば、ば、ば……」
「バイトなんてしたことも無いだろうし、する事も……」
いや、テンパり過ぎだろう。俺も何となくで通訳しちゃったけど、これは逆に怪しいな。
もしかしてひま後輩は、突発的に起こる不測の事態に弱いのだろうか? 普段はしっかり者だからこそ……だろうか? それはそれで意外な気もするが。
「そうですよね~……良いですねぇ、私もお嬢様になってみたいですっ!」
「そ、そうですか? 良いことなんて…………“少し”はありますけど、そんなに無いですわよ?」
「ほへぇ~、ののさんはどうです? 一回くらいお嬢様になってみたいと思った事ありますよね?」
「執事」
俺を指差しながらそんな事を言うのののに、「今と変わんねーな」と言ったのは勝也だが、強く否定も出来なかった。
思ったより弁当のおかずをひま後輩に食べられて、白米を中心に食べていると、いつから気付いていたのか……ひま後輩が勝也に問うた。
「あの……円城寺先輩? もしかしてお菓子でも持っているのですか? 何やら甘い匂いが出てますけど」
「嘘……マジか?」
「いや、匂いは分かんねーけど……原因は分かる」
「それは俺も心当たりがあるな……」
制服の右ポケットに収納された、砂糖……じゃなく、クッキーが匂いの元だろう。しっかりとビニタイでネジネジされていたというのに……。
「こう話してみると、向日葵さんって言うより、向日葵ちゃんの方がしっくり来る感じですね! それで……向日葵ちゃんは、紅亜さんを知ってますか?」
「ひ、向日葵ちゃん……。えぇ、新山紅亜さんの名前ならもちろん」
少し嬉しそうなひま後輩がいる。谷園のコミュ力とひま後輩の相性は良いのかもしれない。
「その紅亜さんがですねぇ……クッキーを作って来たのですが……いえ、それ自体はありがたいんですけど……」
「歯切れが悪そうですが……青さー……青先輩?」
「えっとだね……その、何と言うか……ほらね、甘くてね? いや、甘過ぎるというか、ね?」
ヤバいな。あの甘さをどう伝えれば良いのか分からない。谷園は甘過ぎる方を食べているし、感覚の共有は簡単だ。だけど、それ以外の人に伝えるのは難しい。食べてもらうのが一番だけど、谷園から貰ったのはカバンに入れてきてしまった。
「青、このクッキーでも甘さは伝えられるんじゃねーか?」
「なるほど、ひま後輩に食べさせて自分の枚数を減らそう……嘘、ゴメン! 冗談!」
「缶コーヒー買って来てくれてなかったら、コレを全部口に突っ込んでた所だぞ……まぁ、早い内に消化しておこうという気持ちは無いことも無いけど」
昼飯を食べ終えた勝也が、タイミングを見てクッキーを慎重に取り出した。そして、周囲に聞こえない程度の小さめの声でそんなやり取りをする。一部の生徒には見られた可能性もあるが、確かにここで食べきってしまえばこっちのものだろう。クラスメイトは近くに居ないし、考えたな……勝也。
「灰沢さん、どーぞ」
「見た目は……バスケットボール? まぁ、普通のクッキーですが…………ふぐっ!? こ……これは!? 何て贅沢……じゃなくて、甘過ぎて喉が渇きますわっ。勿体ない……勿体ない……」
「甘過ぎさえしなければ……普通に美味しい筈で、しかも私のは星形で見た目も良いですし、勿体ないですよねっ!」
たぶん、ひま後輩と谷園の勿体ないは少しだけ違っているが、言ってる事は理解できる。本当に勿体ない。勝也や谷園に合う形に作り込んでくれているのも凄い。これは予想できるが、ののののは猫の形に違いない。
「どれ俺も…………っ!? おい、青マジか? これで甘さ控えめとか……嘘だろ? 予想を越えて行くんだが……」
「いや、それでも控えている筈だ。甘い方はそれにメープルだとか何だとかが足されてるからな」
「これで甘さ控えめなのですね……凄い方ですね、新山紅亜さんという方は」
成績は上位だし容姿もトップ。だけど何故だか味覚だけはぶっ壊れている。いったい何が原因でこんなに甘いお菓子を作りだしてしまったのやら。
――――…………。
『紅亜さん、甘い物は人を幸せにするんだぜ? はい、チョコレートあげる。さ、食べて食べて』
『甘い……ね。これで、人が幸せになるの? 甘ければ、甘いほど?』
『あぁ、勿論だ! ほら、今の紅亜さんの表情だって……――』
うっ……今一瞬だけ昔の事を思い出した気がした。だけど気のせいだな。うん、きっと気のせい。
「クッキーですか……悪くないかもしれないですわね。珈琲と一緒に甘めのクッキーを……プラス数十円で……」
ブツブツと計算をし始めたひま後輩。何やら楽しみな予感がするのは俺だけだろう。
勝也が持ってきていた缶コーヒーと共にクッキーを食べ終える頃、のののもようやくうどんを食べ終えた。
「満足」
「えぇ、ここのおうどんは美味しいですものね」
「どうする? 食器片付けてそのまま戻るか?」
「ですね! 次はたしか古典だった筈ですし……寝ない様に気を付けないと」
のののが席を立ち、それに勝也と谷園が続く。最後に席を立とうとしたひま後輩を少しだけ引き留める。
「これ、少しでも手荒れが良くなればって」
「ハンドクリームですか? こ、これは貰ってもよろしいのでしょうか? お返しできる物なんて持ち合わせて無いですけど……」
「別に良いよ。強いて言うなら、新しい珈琲セットに期待しておくから」
「ふふっ、任せてくださいですわっ! ありがとうございます……青さん」
食器を片付けたひま後輩とは、途中まで一緒に戻った。四人になって自分達の教室に戻ると、何故か、教室前の廊下で紅亜さんが待ち伏せをしていた。
「マノン、どこに行ってたの!?」
「えっ……あっ! 紅亜とお昼する約束してたんでした! ……てへっ」
「ののさんもよ!?」
「……てへ」
俺と勝也はそっと後方のドアから教室に逃げ込もうとしたが、どうやら見逃してはくれないみたいだ。
「円城寺君!」
「いや、俺は青と食堂に行っただけだ」
「あ、青くん!!」
「えっと……そう! 悪いのは谷園。谷園が悪い」
勝手に尾行しようとしたのは谷園だし、谷園が悪くないにしても俺達が悪い訳では無いだろう。
逃げ出そうとした谷園だったが、秒で捕まっていた。頬を引っ張られているが、それで済むなら犠牲になってくれ。俺と勝也、それにしれっと難を逃れたのののは、先に教室に戻って行った。
短編の合間に書いたので
誤字脱字その他諸々あると思うので、報告お願いします!