第59話 お、なんか不穏な空気が……
夜中に書くと、変な方向へと行っちゃう事ありますよね。
では、よろしくお願いします!
「はい、青ちゃんどうぞ。ののも器を貸しなさい」
「あ、ありがとうございます」
「はい」
蓋を開けて中身を確認すると、具材たっぷりの寄せ鍋だった。
鍋の具材は、肉団子に白身魚に野菜やキノコ類。出汁には具材の味が染み出していて、スープとしてでも楽しめる。
それをなななさんが、呑水にバランス良く盛り付けてくれていた。
「ふ~ふぅ~……」
「ふぅ……ふぅ……」
出来立ての鍋料理を楽しみたい気持ちはあるのだが、残念な事に俺とのののは猫舌気味だ。無害そうな白菜だって、噛んだ瞬間に熱々の汁が舌を火傷状態にしてしまう。
食べられる熱さのギリギリにまで冷まして、口に入れる。なるほど、これはシンプル美味しいだ。料理の知識が無いから細かくは言えないけど、美味しい。
「美味しいです! なんか……温まる感じがします」
「甘味と旨味で美味」
「お口に合うと思ったわ」
決して会話の多い食事会とは言えないけど、それでも楽しい時間だった。
のののは〆のうどんの方が楽しみなのか、料理のほとんどを俺となななさんに任せていた。そのせいでうどんを食べれなくなってしまったのだが……また今度となななさんが言ってくれたし、そうしようと思う。
お腹がいっぱいになったというのに、どうしてデザートが出てくると食べられるのか。それをのののに聞くと「好物は胃を活発にする」という回答を得られた。別腹とはつまるところ、消化によって、空いた容量の事らしい。
「いやぁ~、もうホントにお腹いっぱいだわ」
「私も」
「明日から学校なんて考えたく無いな」
「たしかに」
「青ちゃん、お家まで送っていくわ」
のののと食後の休憩をしていると、車の鍵を手にしたなななさんにそう言われた。最初は遠慮しようと思ったのだが、外はもう暗く、帰り道も正直に言って迷わないか不安だった。
だが、目的地は俺の家の最寄り駅にして貰った。そこに自転車を置きっぱなしにしていたからだ。
「私も行く」
「すぐに帰るからお留守番してても良いのよ?」
「見送る」
「そう」
だが、まだ消化しきれていない状態で車は危険だ。揺れが胃を刺激して、中身をリバースする可能性が多いにある。
それをなななさんに伝えると、「帰りたくなったら教えて」と返された。逆にいつまでも居たらどうなるか……という疑問を試したくなってくるが、なななさんの場合、そのまま育ててくれそうな気がしてくる。うん、やっぱり我が家へとちゃんと帰ろう。
――それから少しして、なななさんの運転する車で最寄り駅まで送って貰った。
「お世話になりました、今日はご馳走さまでした」
「青ちゃん、またいつでも来て良いのよ?」
「はい、機会があれば」
最初は少し天然っぽく感じたなななさんも、本当はめちゃくちゃ天然だと知れた。でも、優しくてしっかりしてて……優しい人だった。また皆で買い物に出掛けて食事をする機会があれば、楽しみだな。
「神戸、“また”」
「また明日、学校で……と、また晩御飯に招待してくれ。それか、こっちにお呼びするかかな?」
「それは楽しみだ」
それからのののと一言二言交わして、車は去って行った。それを見えなくなるまで見届けて、俺も自宅へと戻って行った。
――そう、いつもより遅く帰宅し、晩御飯をいらないと伝え損ねた自宅へと。
◇◇◇
「あ~~お~~っ!!」
「ひっ!! た、ただいま……」
鬼の形相どころか、鬼じゃないかと思える感じで出迎えてくれたのはお母さんだ。
「遅くなるなら、そう連絡をよこしなさい!! 心配だし、晩御飯も冷めちゃうでしょ!!」
「あ、ご飯は食べて…………きたけど! ちゃんと、いただきます!!」
「……よろしい。さ、手を洗って来なさいな。ご飯は明日のお弁当にでもするから無理しなくて良いわよ」
なんとか、命拾いをした。『食べて来たからいらない』なんて言えば、説教タイムが三十分は延びていただろう……。
手を洗って、リビングに居たお父さんにも帰って来た事を伝えた。部屋に戻る前に、ふと……本当になんとなく、お父さんに聞いてみようと思った。
「ちょっとお父さんに聞いていい? 今日さ、友達のお母さんに俺が矢倉君って人に似てるって言われたんだけど……お父さんって婿入りして苗字が変わったとかしてる? 俺はお父さん似の気もするし……」
――――パリンッ!!
「えっ? 大丈夫……お母さん?」
「あ、大丈夫よ。ちょっと手が滑ってお皿を落としちゃっただけだから! あなた、ちょっと袋とか持って来て。細かいのが落ちてるからスリッパは履いたままね」
「あ……あぁ、分かった。すまない青、ちょっと母さんを手伝ってくる」
「あ、うん。まぁ、別にどうでもいい話だから大丈夫。俺は部屋にでも戻ってるから」
ちょっと気になってた事だったが、何故そんな事を聞いたのか自分でも疑問である。
部屋に入ると、明日までのタイムリミットに迫られながら何をしようかと考え、とりあえずは風呂に入る事にした。碧ちゃんも部屋に居るのは確認したし、誰も入ってないだろうからな。
◇◇◇◇
「ねぇ、あなた」
「すまない……遠くに住んでいるとばかり思っていたからな。あれは……私の不徳とする所だ」
「いえ、その件については承知の上ですし、私は一度も責めていませんよ。でも、友達か……青はどう思うかしら?」
「そうだな。もしかすると、いつか話さないといけないかもしれない。出来れば、このまま“三人”だけの秘密にしておきたい所だがな……」
「そうね。もし、あの子があなたを責めるなら、私も一緒に怒られますよ。夫婦ですもの……でも、青はきっと親しい人には怒れないでしょうね。あなたに似て」
「なのに、変な所で行動力があるからなぁ、そこは君に似てるのかもね?」
◇◇◇◇
風呂から上がって、リビングで何やら話している両親をチラッとだけ見て、そのまま部屋へと戻ってきた。
何だがお互いの手を握っていた気もするが……きっと気のせいだろう。まぁ、仲が良いのは良いことだと思うけどね。
――ピロンッ
スマホが鳴った。俺のスマホが音を出すことなんてたまにしかないけど、最近はよく鳴っている方だろう。
確認すると、グループのチャットで紅亜さん発信のようだ。
「えぇっと……こ、これは!?」
◇◇◇◇
「ねぇ、お姉ちゃん……何してるの?」
「あら、今頃起きたの? 白亜、日曜日だからってダラけてちゃ駄目よ? あと、見ての通りクッキーを作ってるの」
材料を見れば、お菓子を作っているのは見て分かった。だから私は聞いたの……そんなに砂糖を入れるなんて、何をしてるの? って。
明らかに必要以上の量を入れているのは、あまりお菓子を作った事の無い私にだって分かる。完成したのが甘過ぎる物になることも。
「お、お姉ちゃん……私は甘さ控えめなのが食べたいなぁ」
「あら、そうなの? 前は甘いのが食べたいって言ってたのに。そうね……なら、二つの甘さで作ってみましょうかね」
そう、私は学習したのだ。前に作ってたのはたしか去年くらい。お菓子を作るなんて珍しいと思って、つい『甘めに』なんて注文をしちゃっていた。
お姉ちゃんの甘い物への感覚があれほど麻痺しているとは……全然知らなかった。
「でも、家で食べるにしては材料が多くない?」
「うん、ちょっと友達と……それに……ひ、日頃のお礼として? その、作ってみようとかなぁ~なんて思ったり……して……みたり?」
「そうなんだ……それは……大変だね」
私は知らぬ犠牲者の人達に、食べるとしばらくの間、甘い物が要らなくなっちゃう呪いに掛かるだろう事を、少しだけ憐れんだりしてみた。
そして夜、完成したクッキーを食後に食べて、これで甘さが控えめなんて……と、お姉ちゃんの甘さに対する味覚に少しだけ恐怖した。
「ねぇ、白亜ちゃん! お味はどうだった? 美味しく焼けてるとは思うんだけど……」
「う、うん! 美味しかったよ!」
ちょっとだけ、嘘をついちゃったけど、世の中には良い嘘だってある! ……って、碧ちゃんが言ってたし、大丈夫なはず。
「そうだ、皆にもどっちの甘さが良いか聞いておかなきゃね! ありがとう白亜ちゃん」
お姉ちゃんはそう言って部屋に戻って行った。
そして私はキッチンに、普段なら飲まない苦めのコーヒーを作りに向かった。
不穏な空気……((( ;゜Д゜)))
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
『中二病の宇野宮さんはちょっとイタい』は頑張ってイチャイチャ系にしていく予定ですよ?