第6話 いや、体育祭の話どころじゃ……
よろしくお願いします!
「はい! じゃあ、席替えも終わった事だし、次にいきます! 六月にある体育祭ですが、去年もやった事だし説明は少し省かせて貰うとして……、先に決まってる事を言いますね。体育祭は六月の十日当たりを予定してますが、雨の予報なら少し先延ばしになる可能性………」
いや、いやいやいや……。先生の話は聞こえている筈なのに全然ダメだ、頭に入ってこない。それどころじゃないだろこれは。
"気まずい!!"
え? 俺だけなのか? ……のののはいつも通りやる気の無さそうな顔で話を聞いている。紅亜さんは……普通に聞いているな。俺が気にしすぎなだけ……って事なのか?
食堂の事はまだ広まって無い……と思うけど、これも時間の問題だろうなぁ……。あー、帰りたい。帰って寝てしまいたい気分だ。
「……という事で五月下旬から体育祭に向けての準備として午後の時間を使う事になります。一組二組が赤組、三組四組が白組となるのは例年通りですね。上級生、下級生と力を合わせる競技もあるので皆仲よくするのよ。仲良くね!」
「先生、去年と種目に違いってありますかー?」
そう、睡眠だ。寝れば大抵は落ち着いて、リセットされるしな。
「それは今、生徒会の方々が纏めてくれているから次の話し合いの時には配るわ」
「神戸」
何が、頑張って下さいって何だよホント。紅亜さんは俺みたいな奴よりよっぽど魅力的だってのに……。
「神戸」
はぁ……。一歩退く自分に酔ってる感……というモノに気付いてから、自分のダサさに寒気がしてきたな。退く所か、顔も頭のレベルも届いてないってのに。
「神戸」
いつからだったかな……紅亜さんがよく笑い、人と話す様になって人気者になったのは。それを見て、少し焦りだして。初めて見たときはもっと……いや、あの頃の話はやめておこう。
紅亜さんの中学時代の事を知る人は俺くらいだろう。色々あったなぁ。だから俺は紅亜さんを――――。
「神戸!」
「うおっ!? ど、どうしたののの?」
他の人からすれば、大して大きな声という訳では無いのだろうが、のののにしては大声で少し驚いた。
「神戸、どうする?」
「どうする……とは?」
ヤバい、話を全然聞いていなかった。たしか体育祭の話だった筈だけど……?
「体育祭の競技。クラスでの選出、最低でも二つの競技」
「いつの間にそんな話に……。のののは何に出るか決めたのか?」
種目の種類とか知らないけど、去年とそんなに変わらない……のかな?
「私は運動苦手……。だから、あれば玉入れと百メートル走。人数多い、目立たない」
「なるほど。俺も流石にののの程じゃないが、運動は得意じゃないし……体育祭は運動部の活躍の場だからな! テキトーに余りそうな2種目でいいかな~、それっていつまでに決定?」
体育祭は運動部、文化祭は文化部、イケイケな奴等は全部楽しむし、俺みたいなのはどちらもそこそこだ。
「次の話し合いの時間」
「という事は……時間割りを見る限り明後日の最後の授業時間かな?」
「んん! わ、私は何に出場しましょうかねー、運動部だからなー、活躍の機会だからなー」
「「……」」
俺とのののの時間が止まったのかと思うくらいに二人で固まった。どっちだ? 俺は背を向けているから後ろの様子は分からない。ワザとか? いや、近くの人と会話をしている可能性もある。
「新山さん! 何に出るか決まってないの!? 新山さんなら何の競技だってトップ狙えるんじゃない?」
「えっ……あ、そ、そうかな? が、頑張っちゃうかなー?」
「一緒に頑張りましょ!借り物競争とか面白そうじゃない?」
「え? 新山さん借り物競争出るの? はい! 俺も、俺も!」
「あんたは綱引きの後ろから四番目でも引いてなさいよ!」
「いや、その罵倒の仕方は新しいぞ……」
「新山さん、一緒に……」
先生も黙認してるから教室内で歩き回っても良いのかも知れないが、一声出せば周りの人がすかさず拾い上げ広げていく。流石だな。あっ……押さないで貰えると……ちょ。一旦、離れた方がマシだな……。
「青、隅っこに追いやられたか?」
「そんな、ニヤニヤしてくれるな……。まぁ、いいけど。それで、運動得意の勝也様は種目はもう決めたので?」
勝也はイケメンの上に運動神経もいい。もしかしたら運動が得意だからイケメンなのかも知れない……。
「得意って程じゃねーよ。ま、とりあえず百メートルと……タイムを測んないと分かんねーが、リレーにも出たいかな?」
「応援は任せろ。運動下手組は友逹の応援する……という目的で参加してる所あるが、俺はこのクラスだとお前とのののしか居ないからな」
輪を乱さない事と失敗をしない事も参加の条件だな。
「二年だと一組に居るだろ……一人だけだが」
「だな。あいつがアニメ大好き人間で良かったと、初めて思ったよ」
二次元萌えのアイツは、俺が美少女と付き合ったとしても特に変わらず居てくれた。『所詮は三次元……乙』と言われた時はカチンときたが。
「んで……お前は何と何に出る予定だ?」
「あー、目立たない競技かな?」
百メートルとか……あと何かだな。二種目じゃなくて一種目に変更にならないかな?
「やる気出せよ~巳良乃さんが移ってんじゃねーか」
「……神戸」
「了解。すまん勝也、デコピンだって」
勝也と俺の会話には参加してなかったが、一緒に避難して来たのののからついに指示が出た。
「何で分かんだよ! 名前呼ばれただけだろ!?」
「しょうがない……のののは背が低いからな。手を伸ばしたらギリギリ届くかも知れないが、面倒だと」
「神戸!」
そう、訴えかけている。目を見れば……たまに分からない時もあるがだいたい分かる。
「ほらな?」
「いや、『ほらな?』って言われても普通に分からんぞ? 通訳してくれ……というか、もう少し話そうぜ? 巳良乃さん」
「表現が苦手……怒ってる……ツマらない……」
なるほど。でも、そんな事は無いと思うぞ、ののの。
「なんか、今のだと分かりそう……。えっと、『感情表現が苦手で、怒ってるみたいに思われて……』ツマらない? ……は、どっちだ?」
「そういう思いを相手にさせてしまうって事。勝也……中々、いけるじゃん! 凄いよ! 流石、友逹が多いだけあるなぁ~」
会話する機会が俺やのののより沢山ある分、推測で分かっちゃうんだろうな。
「今のはサービス問題みたいなモノだろ? 名前呼ばれただけで解るお前の方が凄いっての!」
ののの限定だ。あと、表情も重要なポイントになっていたりする。
「はい皆!もう少し静かにね~」
「「は~い」」
先生からの一声で少しは静かになったが、またすぐに紅亜さんを中心として話が盛り上がっていく。本来そう在るべき姿……というモノがあるなら、この教室内の今の現状だろう。まぁ、勝也はこっちに居てくれているけど……。
「今日って、たしか…これで終わりだったろ? どっかに寄って帰んねーか?」
「あー……。行きたいのは本屋かな? 新刊出てるか漫画のチェックしとかないと……って勝也、今日の部活は?」
今日は平日。放課後は部活がある筈だと思うんだが?
「今日は休みだぜ! 本屋な、いいぜ!」
「本屋で俺が見終わった後は勝也の行きたい所でいいぞ?」
休みか! そうか、なら遠慮せずに遊んでも構わないな。普段は部活で忙しいし、放課後に勝也と遊びに行くのも久し振りな気がする。
「あー、どうすっかな?」
「神戸……とその友逹」
「勝也……じゃなくてもせめて円城寺……は少し長いか?」
のののなりに距離感を測っている最中なのだろう。
「神戸、円城寺」
「お、おう。どうした巳良乃さん?」
珍しい……のののが俺以外とこんなに話す日は珍しいんじゃないだろうか?まだ、名前を呼んだ程度だが。
「駅前にクレープ」
「あ、たしか美味いって部活のマネが言ってたな……俺は賛成だ!」
「俺もそれでいいぞ。もしかして昨日の誘いってそこに行きたかったのか?」
流石に……と思って一人で帰ってしまったが、付き添いくらいはしてあげれば良かったかもな。
「そう。一人厳しい」
「今日は三人で行こうぜ!」
キーンコーンカーンコ~ン~
「じゃ、掃除とホームルームが終わった後でな!」
「おう」
「はい! 皆さん、この後は各自担当の場所の掃除に向かって下さい。掃除終わったらホームルームで後は放課後です。さ! 動いて!」
中心になっていた集まりも散り散りになって動き出した。
掃除も終わり、ホームルームでは明日お知らせがある……という事だけで他には特に伝える事は無いらしい。
「起立! 気を付け! 礼!」
「「「さようなら」」」
「はい、また明日。皆、風邪なんか引かないようにね!」
よし。終わった、いつもなら真っ直ぐ帰る帰宅部の俺だが今日は一味違う。放課後に遊ぶのだ。
「あっ……神戸く……」
「神戸!急ぐ!」
帰れる時間になった途端、のののが元気になった。相当楽しみだったみたいだな。
「いや、ののの……楽しみなのは分かるけど、クレープは逃げないって」
「あの……神戸……」
「おーい! 青、行くぞ!」
……ったく、勝也も楽しみなのかよ! まぁ、気持ちは分かるけど!
「かん……」
「すぐに行……あっ」
紅亜さんがこっちを見ていたからか……バッチリ目が合った。
「えっと、その……うん。また明日」
「うん!……また明日」
自分でもよく分からないが、挨拶をしてそのまま逃げるように勝也達の所へ向かった。
◇◇
"お、お待たせ勝也!"
"おう!行こうぜー"
"先クレープ"
"本屋だろ?"
"クレープだな"
"……了解だ"
「えへへ……。青君がまた明日だって。いけない、いけない……頬が緩んじゃう。気を引き締めないと! さぁ~て、部活に行かないとね! 部活っ! 部活っ! ふふっ!」
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(´ω`)